第13話 クマちゃんの家出(梨烏ふるりさんからいただいたお題「変なTシャツ」)
タンスの引き出しを全部ひっくり返しても見つからなくて、若葉はグスンと鼻を鳴らした。
若葉のお気に入りのTシャツ。
今日はそれしか着たくない気分なのにどこにもないのだ。
「もしかしたらクマちゃんが若葉に着られるのはイヤだって逃げちゃったのかも」
白地に大きなクマの顔がついたTシャツだったので魔法で足が生えてすたこらさっさと家出したのかもしれない。
お気に入りだったからお洗濯から帰ってくるとすぐに着ていたから少しは休ませてくださいということなのかも。
下着姿のまま若葉はしょんぼりと座り込む。
きっと今頃Tシャツだけが暮らす町で若葉の悪口を言っているに違いない。
「どうしたらもどってきてくれるのかなぁ?」
なんとかしてその町へ行きごめんなさいって言いたいけれど、行き方も分からなければどこにあるのかも分からない。
「どこかに地図とかないかしら?」
立ち上がってがさごそと棚を探しているといつ書いたのか全く覚えていないマジックで書いた地図らしきものが出てきた。
「これだ!きっと明日の若葉が書いたんだ!」
目を輝かせて若葉は急いで目についたトレーナーとズボンを着た。そして部屋から駆け出してキッチンのママに「行ってきます」とだけ叫んで外へ。
地図によると家から出てお箸を持つ方へ矢印が書いてある。若葉は駆け足のままそちらへ向かい曲がり角をぐりんと曲がった。
「うわっ!」
「おっと!」
突然なにかにぶつかって若葉は尻餅をついた。痛い。見上げると猫型ロボットのTシャツを着たお兄さんがムッとした顔で立っていた。
「危ないだろうが。飛び出してきて」
「ご、ごめんなさい」
「まったく。ケガはしてないか?」
「だいじょうぶ」
怒られたので怖い人なのかと思ったらそうでもなかった。立ち上がってもう一度ごめんなさいしてから先へ進んだ。次は気をつけて角を曲がると大きな道路と横断歩道があった。
信号が青になるまで待って車がちゃんと止まったのを確かめてから急いで渡る。
「うんと。どこにあるんだろ」
Tシャツだけが暮らす町。
早く行ってクマちゃんを連れ戻さなくては。
しばらく真っすぐ行くとお店がいっぱい並んでいる道へ出た。野菜を売っているお店、お茶を売ってるお店、お魚、お肉屋さん、お花屋さん、お鍋とか売っているお店に電気屋さん。
「あ!あそこだ!」
店の前にたくさんの洋服が並んでいるお店があった。若葉はそこへ行き恐る恐る中へと入る。ハンガーにかけられた洋服がたくさんかけてあって、しかも天井にもトラの顔がついているTシャツやキリンにゾウ、お花の柄のシャツがぶら下がっていて今にも襲われそうだ。
「クマちゃん……は、いないなぁ」
しかもどれも大人が着るサイズのしかない。若葉のクマちゃんのTシャツはなさそうだ。
残念だがここは違うらしい。
だけど地図はここまでしか書かれていない。若葉はとぼとぼと来たた道を戻るしかなかった。
「ただいまぁ」
「お帰り。どこいってたの?」
ママがリビングでおせんべいを食べながら聞いてきた。若葉は話すべきかどうか悩んで結局黙っていることにした。
「ちょっとそこまで」
「ちょっとそこまでって、そんな言い回しどこで覚えてきたの?」
「ミヨちゃん」
「ミヨちゃん?保育園の?」
「うん」
歩き疲れて喉が渇いたので若葉は冷蔵庫に牛乳を取りに行こうとして、ソファの上に乗っているクマちゃんのTシャツに気づく。
「ママ!これ!」
「なに?どうしたの」
「クマちゃんのTシャツ家出してたんじゃなかったの!?」
「家出?するわけないでしょ。昨日天気悪かったからなかなか乾かなくてさ。あれ?もしかしてこれ今日着たかった?」
「そうだよぉおおお!」
若葉は地図を放り捨ててTシャツを抱きしめる。
よかった。家出してなかった。クマちゃんは家にいた。
「ごめんごめん」
ママが頭をよしよしと撫でてくれて。
ちょっぴり涙が出たけれどクマちゃんのTシャツに顔を埋めてなかったことにした。
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