高原の旅館

「いらっしゃいませ」

「ようこそ、こんな山奥まで」

「道中お疲れでしょう、お部屋の用意は出来ております、さあこちらへ」


側道は予告なく突然開けた

その先に、旅館はあっさりと自然に姿を現した

どこにでもあるような佇まい、見てすぐわかる”ここは旅館だ”という主張がある


瓦葺の屋根、二階建てで”横”に長い

その中途半端な真ん中に、玄関があり、中から数人が忙しく出てくると彼らを予想外な丁寧さで出迎えた


広いとは言えない駐車場には、今辿り着いた彼らの赤い車の他、端の方に数台止まっている。おそらく客ではなく従業員の足だろう


手前側、旅館の両端にはまるで景色を阻むかのように、森が茂っており、輪のように取り囲んでいたが、その割に駐車場の落ち葉は目立たず、管理は行き届いているようだった


玄関を入るとすぐにロビーとカウンター、三人は不慣れな感じで宿泊手続きを済ませると、年季の入った階段を上がり”それぞれ”の部屋に案内された


階段を上ると窓の無い廊下が奥まで一直線に続く

その左側に、ポツン、ポツンと部屋の入り口がある

扉ではなく、襖だ


廊下沿いに同じ間取りの部屋が三つ


実は彼らは三人で一つの大部屋を予約していたのだが、平日ということもあり、今日の宿泊予定は彼らだけだということで、せっかくならば高原の絶景をゆっくり堪能してほしいという旅館からの格別の配慮により、眼前に高原の眺望が広がる部屋を一人一部屋使わせていただけることになったのだ


「俺真ん中な」


和志は二人の同意も得ずにそう決めると、一目散に真ん中の部屋に急いだ


「おお!すげええ!!」


琢磨と陽介がまだ部屋に入る前に、和志の声が廊下にまで響いた


部屋はどこにでもある間取りで、襖を開けるとまず玄関、左に洗面所、障子の扉を開くと真ん中に机と向き合った座椅子が二つある畳の和室、小さなテレビ、床の間に貴重品をしまう金庫、備え付けの黄ばみかかった電話


そして何よりも、正面の大きな窓から見える景色は三人を驚かせた


まさに新緑の芝が丘陵まで続くような高原の絶景がそこにあったのだ


感動を分かち合いたい三人は、直ぐに真ん中の和志の部屋に集まり、景色を一緒に見ながらしばらくその感動を分かち合ったのだった。






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もうろう橋 K @mk-2K21

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