第27話「それではこれより、虚偽の発言をした者には【偽証罪】を適用致します。」

 モニター室には、既に先に来ていた足達の姿があった。

「城田君……」

「あ、足達教官……!」

 マコは少々疑心暗鬼になってしまい、声を掛けてきた足達に対しても若干の警戒心を抱いていた。

「あんなことがあったばかりなのに、また通報とはね……」

 しかし、足達はそんなマコの警戒など気にしていないようである。いつもと変わらぬ口調と態度で、気軽に話し掛けてくれた。

「本当ですね。私、怖いです……」

 お陰で、マコの警戒心は緩んだものだ。

 俯くマコの肩に、足達はポンッと手を置いた。

「大丈夫。綾咲君の指摘も最もであったが、後一件……その可能性にも賭けようじゃないか。これで全てが終わってくれると……そう信じよう」

 励ましてくれる足達と目を合わせ、マコは頷いた。

 なんだかみんなが敵になってしまったような気がしていたが、足達の励ましでマコは元気付けられた。

──さすがは、足達教官である。

 数々の難事件を解決していったというマコの憧れの存在──。

 現場を離れ、今は警察学校の教員として業務に当たっているが、かなりのやり手だったようである。かつての足達を知る人物は皆、『あの人に解決できない事件はない』と謳っている程であった。

 そんな足達に、マコは勇気を貰った──。


 間石、清澄がロビーに姿を現し──最後に綾咲がモニター室に入ってきた。これで全員である。少しずつ数が減ってきてしまっているのが、悲しいところである。

 それまではあんなに仲が良かった綾咲も、マコが目を合わせるとプイッとそっぽを向いてしまった。まるで避けられているようである。敢えてマコと離れた反対側にある壁の方に行き、凭れて立った。



 ◆◆◆



『……それでは、皆さんお揃いとなりましたので犯人を挙げて下さい』


 スピーカーから声が漏れる──。


「……簡単な話ですよ」

 警官に促されて話し始める者があった。それが今回の通報者ということなのだろう。


──清澄だ。


「ただ前回の話の続きの話をすれば良い。それだけで、自ずと犯人は見えてくると思う」

「前回って、殺人事件のこと……?」

 マコが思い返しながら呟くと、清澄はそれを否定するかのように首を振るう。

「ああ。まだ、はっきりしていなかっただろう? だから、今回は殺人事件について謎を明らかにしていきたいと思う」

【殺人現場】──前回は途中で話が打ち切られ、眼鏡の男が虚偽通報者として処刑されてしまったが、確かに犯人として犠牲になった者はいない。

「一つ、議論をする前に取り決めておきたいことがあるんだが……」

 清澄が言葉を切り一同の顔を見回した。

「発言がコロコロ変わってしまうと、事件の全貌も見えなくなってしまう。……だから、今回は『偽証』を禁止にして貰いたい。一度行った発言は撤回不可能……。慎重に発言してもらいたい」

「なによ、それ……」

 新たな取り決めを追加する清澄に、綾咲は怪訝な表情になる。

「嘘を付くくらいなら黙秘していればいいじゃないか。悪戯に場を混乱させるのは如何なことかと思うよ。自分が不利益を被らない為に他人を欺こうだなんて……そんなのは良くないだろう? それならばいっそ、発言しないでもらいたいよ」

「まぁ、俺としても……嘘を付かれるよりはいいかもなー」

 間石も清澄の独自ルールには賛成のようであった。

 この流れはマズいと踏んだ様で、綾咲が慌てて口を挟む。

「そんな勝手なルールが、適応されるのかしらね!」

「……その件も、既に電話で確認済みさ。みんなからの同意を得られるなら、そうしたルールを適応してもいいそうだ。ね?」

『構いません』

 清澄に振られ、スピーカーから警官の声が響いてくる。

「他のみんなはどうなんだ?」

「そういうことなら、それで構わん」

「うん。私も、そっちの方が混乱しなくて良いかな……」

 足達とマコも考えた末に──清澄の意見に同意した。


 しかし──綾咲だけは怪訝な顔をして譲らなかった。

「何か引っ掛かるわね……」

──何か策があるのだろう。そちらに引っ張られているような気がしてならない。

「……まぁ、どう思われても構わないけどね。疑り深いのも構わないけれど……視野はもう少し広く持った方が良いよ。君が輪を乱しているのは明白じゃないか」

 清澄は肩を竦めフゥと息を吐く。

──綾咲はハッとなる。

 気付いたら四対一の構図になっているではないか。

 みんな二つ返事で清澄の意見に同意してしまっている。──しかし、多数派がそちらであることは明らかである。

「……分かったわよ」

 これ以上、一人で駄々を捏ねている意味もないと思ったらしく綾咲は渋々折れたようだ。


 清澄は満足そうに笑みを浮かべ、警官に向かって叫んだ。

「お聞きの通りだ。今回は、発言の撤回は認められない」

『承知しました。それではこれより、虚偽の発言をした者には【偽証罪】を適用致します。処刑の対処となりますのでご注意ください』

「えっ!?」

「なんだそれ! 聞いてないぞ!?」

 声を上げるマコや間石に向かって、清澄はチッチと人差し指を振るう。

「おっと……。君らは合意したんだから今更発言を撤回することは許されないよ。それこそ、【偽証罪】になってしまうから」

「うっ……!」

 清澄に指摘され、間石は言葉を詰まらせた。

──そんなことでも【偽証罪】になるらしい。簡単に揚げ足取りをするために、清澄は独自ルールを制定させたようだ。

 だから綾咲は警戒していたのだが──こうなっては仕方がない。

 綾咲はフゥと溜め息を吐いて気持ちを鎮めた。

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