第6話「これは……本物の血だ……」

「ここの扉は……開きませんね……」

──ガチャッ、ガチャッ!

 部屋から真っ直ぐに伸びた廊下の奥にある扉のノブを捻りながらマコは眉を顰めた。鍵が掛かっているようで、いくらドアノブを回してみても開かない。

「ここは入れぬか……」

 足達も厳しい顔付きになる。

 壁に手をついて、足達は後ろを振り返った。

「……まぁ、鍵がしてあるのなら、みんなも此処には行っていないだろう。他に三つの扉があるから、そのどちらかに入ってみるとしよう。みんなで合流すれば、協力してなんとかこの苦難を乗り越えることも出来るだろう」

「そうですね……」

 マコは一応頷いたが心の中はざわついていた。

 足達を助けようとするマコに手を貸してくれる者は誰もいなかった。それどころか余計なことをするなと言いたげに、足達を介抱しようするマコに罵声を浴びせた者までいた。

 果たして、彼らを仲間と信用して良いものだろうか──。


 不安げな表情のマコと相対して、何も知らない足達は希望が持てたことで晴れやかな顔になっている。

「一人なら敵わずとも、みんなで団結し合えばここに閉じ込めた連中とも戦えるだろうさ」

──そうだろうか。

 足達が制服警官にボコられている時に、誰も止めに入ろうとはしなかった。そんな連中が一致団結することなどできるのか。

 マコは足達を支えて歩きながら、そんなことを考えていた。


 先ずはそこから一番手前にある扉の前に行った。

【殺人現場】──という物騒なことが書かれたプレートが、扉に掲げられていた。

「殺人……現場……?」

 マコがゴクリと息を呑む。

 数々の難事件を解決して来たであろう足達警部補がマコに代わってノブを掴み、ガチャリと扉を開けた。

──マコは身構えた。

 そこに死体があるかもしれないという心積もりをしながら、部屋の中に目を向けたものである。


「ん……?」

──が、そこには死体がなかった。

 死体はなかったが、まるで殺人現場である。床に赤黒い液体で血溜まりが出来ていたし、しかもその中には凶器らしく包丁が落ちていた。

 しかし、実際に死体が横たわっている訳でもないのでマコは恐ろしいものを見ずに済んでホッとしたものである。

──作り物だろうか?

 足達が血溜まりの前に行き、屈んで指で触った。そんな足達の表情が険しくなる。

「これは……本物の血だ……」

 ベテランの足達が言うのだからそうなのであろう。

 それが人間か動物のものであるかは分からないが、何かしら生き物の血であることは間違いないようだ。

 そう考えると、鼻腔を擽る嫌な匂いにマコは思わず吐き気を催して嗚咽を漏らしてしまった。


 血溜まりがあるとは、どういうことなのか。此処で人が殺されて、まだ間もないということになる。

──本物の血──?

 そう考えたマコは気分が悪くなり、顔が青褪めた。

 よろけて壁際に目を向けたところで、そこに直立したとある人物と目が合う──。

「ひぃいいっ!」

 それは、制服警官であった。鼠のお面を被った制服警官が、後ろ手に立っていた。

「逃げるぞ、マコ君!」

 足達が慌てて叫ぶ。

 制服警官から逃れるように、マコと足達は【殺人現場】から飛び出したのであった。

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