第9話

 次の日の部室は静寂せいじゃくに包まれていた。部室には俺と神下の2人だけ。

 また神下との無用な会話をしない、沈黙の時間が続いていた。

「……」

「……」


 神下は何かを書いている。俺はいつも通りにラノベを読む。

 ペンの音が部室に響くこと少し。

「うん、これでいいかしら」

 どうやら書き終わったらしい。


「古木くん、私は活動報告書を出してくるから留守番お願いね」

「分かった、今日浜辺は来ないのか?」

「浜辺さんは佐倉さんと今日は遊ぶのだって。佐倉さんにも遊ぶ余裕が出来たみたいであなたのおかげかしら」

「余裕つっても心の余裕かもな」

 俺は苦笑しながらそう返す。


「どう書いたんだ報告書?」

 そういえば活動報告書なんてもの書いてたな。すっかり忘れていた。

「やっぱり、あなたの言う通り『プライバシー保護のため詳細は伏す』ということにしておいたわ」

 そう言って神下が微笑んで報告書を見せてきた。俺はすぐに目線を報告書に落とす。

 そこには今回の件についての記載が無かったが活動外になっていたことをすぐ思いだす。

 俺は活動報告書に頭の中で『進学のための学費についての提案とラーメン屋の付き添い』と書き加えた。


「じゃあよろしく」

 そう言って神下が部室を出ていく。

 彼女の足音は徐々に遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。

 あの夜のことを思い出し、もしかしたら彼女ともう永遠に会えないんじゃないか。そんな気がした。


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萬高校には「何でも部」とかいう変な部活がある エフ太郎 @chk74106

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