第5回 彼女の沈黙と彼女の沈黙

第1話

 神下が1枚の紙相手に腕組みしていた。

 聞くところによると文化部は2月ごとに1回、月末に活動報告書なるものを出さねばならないらしい。この学校は本当に妙なところでシビアさがある。

 気付けば、こなした依頼はわずか1つのまま5月が終わろうとしていた。


 どれどれ~と浜辺がお菓子を頬張りほおばながら駆け寄っていく。

「えーと、生徒の部活選択援助、人探し、テニス部部員の指導、図書――」

 俺たちがこれまでに解決した依頼内容が読み上げられるがこう聞くと求人の業務内容みたいな文言が並んでいる。無給なんだよな、この仕事部活


「このスペースにこんな箇条書きでいいのかしら。もっと詳細に書くべきだと思うんだけど依頼者のプライバシーを考えると……」

 ああ、そんなことで悩んでいたのか。別によくないか適当で。無給なんだしさ。

「別に適当でいいだろ。それこそ『プライバシー保護のために詳細は伏す』とでも書いとけば文句は言われん。言われたらそのときだろ」


「そうかしら?」

「そうだよ。というか、お前はいっつも変なところ頑張り過ぎなんだよ」

「そうだよー、なんかウチ、カラオケ行きたいな~。テストも終わったし3人で行かない?」

「浜辺さんはここどう書いたらいいと思う?」

 急な誘いを華麗にスルーしていく神下。ありがとう、ちょうど俺も断ろうと思っていたところだ。悪いな、カラオケは1人派なんだ。


「そういや、浜辺お前はテスト大丈夫だったの?」

「ふん? 割とよかったよ? 数学42点でしょ、日本史は57点、英語は61――」

「決してよくは無いと思うのだけど……」

 ふと、思い出してテストの話を持ち出す。

 神下の助力のおかげかすごく点数が低いということはなかったが微妙な点数である。

 それもまだ1年生の初めだからなおさら微妙な点だ。

「そういうフルっちはどうなの?」

「俺は全教科80点代だ」

 自信ありげに答えたが神下は聞いておらず、浜辺はふーんといった反応。

 君が聞いてきたんだよね?


「……それで、浜辺さんはここどう書いたらいいと思う?」

「えー……、2人はカラオケ行かないの?」

 先ほどから話があっちいったりこっちいったり。

「じゃあさじゃあさー、3人でこのあと何か食べに行こうよ!」

「あの、……分かったわ。たまには付き合うわ……」

 神下は渋々といった様子で応える。そういやこの2人だいたいいつも一緒に帰ってるんだよな。とはどれくらいなのだろうか?


 廊下を歩きながらどこに行くかと会話を交わす。

 この萬市よろずしは人口70万に満たない都市。大きな商業施設や駅ビルもあるし、そこそこ何でも揃う。

「なんかオシャレなところがいいよねー、スタべとか」

「私はもっと食事らしいところに行くのかと……」

「うーん、じゃあサイズ?」

 ファミレスか、悪くはない。高校生定番の場所だ。こちらは特に要望はないし適当に同調しておくか。

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