[第4話] 判断は慎重に。

「さて、キルケに確認したいのだが、良いだろうか。」


 どのくらい時間が経ちましたでしょうか。いよいよ本題が旦那様から、述べられます。この沈黙を破るとは、称賛に値する行為です。本当に申し訳ありません。


「魔女協会に依頼したものとは別の要望もできると聞いたのだが大丈夫だろうか。」

 

 レンフェルさんとの会話の中で出た他の契約が受けれないという話が出たため、気になったのかもしれません。


「はい。大丈夫です。先ほどレンフェルさんとの話は、契約されている状態で別途契約です。旦那様とは契約されている状態での要望ですので意味合いが違います。協会でご説明したかと存じますが、魔女との契約は、雇用主とどのくらいの期間を雇うかというものです。」


「今回の契約はラツェッタ侯爵家と期間を二年間とされました。先にお伺いした要望内容でありゅラツェッタ領の不作、原因不明の流行り病の解決と並行して、要望を聞くことが可能です。また、受理された依頼が早く解決しても、期間内でしたら、その後も要望をお聞きいたします。それにメイド業務も要望さられて、、、要望されていますので、期間内、精一杯務めさせていただきます。要望によっては、受けられないこともございますのでご了承ください。」


 ああああ。まだ見えないてつがあったようです。

 言葉がすこーし、ほんのすこし、噛んだり、詰まってしまいましたが、なんとか説明を理解してくれたでしょう。


「そ、そうか。問題なさそうだ。それでは、改めて仕事を要望したい。ロッド、本をこちらに。」


 旦那様がロッドさんに頼むとテーブルの上に三冊の本を置きます。置く瞬間に彼はとっても暖かく優しい目をして、こちらを気遣ってくれています。『よくできました。二重丸です。花丸までもう少し頑張りましょう』といってるような優しさです。

 ロッドさん。その優しさは痛いです。

 終わったことは過去。旦那様が話されますので気を取り戻して、しっかり要望を聞きます。


「これらの本は、最近この国に入ってきたもので、魔女の話が書かれてる本だ。魔女の本を読み聞かせて欲しい。それと本の解説も頼みたい。」


 ほうほう、魔女を題材の本ですか。興味がありますね。

 軽くパラパラとめくると挿絵が豊富で簡単な言葉で書かれています。子供向けのようです。少し気になることはありますが、面白そうです。お嬢様に読み聞かせ、話の内容で疑問に思うことをお答えすることが今回の要望のようです。


 気になるところはありますが、問題なさそうです。引き受けても良さそうです。

 私は目の前の本を一冊持ち、呪文を紡ぎます。すると、持った本と共に身体全体が僅かに淡く光を帯び、目の色が金色に変わります。


「受理いたします」


 これは、魔女との契約の独特な儀式のようなものです。

 雇用主が魔女に要望を示し、その要望に問題ないか検討します。受けても良ければ、ターメイに定められている内容に違反しないか判断する呪文を唱え、『受理』『検討』『拒絶』で返答します。


 『受理』は仕事を受けて、要望をかなえることです。『検討』は魔女協会に、要望内容を送り、判断を仰ぎます。承認されることもあるし、承認されず、お断りする場合もあります。『拒絶』は字のごとく何があっても受けられないことです。悪い影響を及ぼすものは、大抵が拒絶になります。


 元々受理と拒絶でしたが、100年程前に検討がターメイに加わりました。協会では『キルケのための規則』と揶揄されます。意味がわかりません。


『やらかした事は多少あったと認めます。ですが、時代は刻々と変わるのです。

 ターメイでは、処理できない事は出てくるのは当然ではありませんか!私のせいではありません!!

 新たな問題の提起!魔女族の進歩と地位向上を促す行為!

 寧ろ、褒められる行為ではありませんか!!!

 「キルケのための規則」など心外です。

 ここに撤回と謝罪を要求します!!!』

 と、皆の前で要求したのですが、大声で爆笑する人が数名、その他多数から、さらなる説教。苦々しい思い出です。


 それはさておき、気になることは、本にまじないが掛かっていることです。

 受理されたのですから、危険性の心配はありませんが、製作者は間違いなく魔女が関わっているのでしょう。

 そして、題名。


『魔女っ娘と街のお祭り』


 転生して、初めて、この単語『魔女っ娘』を読みました。そもそもこの世界にはそんな単語はありません。この本の表紙には、『魔女の娘』とこちら世界の文字で書かれています。なのに頭に浮かぶ言葉や読み上げると魔女っ娘になるのです。無駄に高等なまじないです。


 誰ですか。これ作った人は。

 この言葉知っている魔女?

 一人だけ心当たりがあると言えばあります。でも、ありえませんね。断言できます。あの人は自分の趣味にしか、頭にないですから。こんとなまどろっこしいまじないを掛けることはないでしょう。

 となれば、本当に誰でしょう?


 まじないはそれだけでは無さそうです。

 この本について、あれやこれや考えこんでいると奥様がお嬢様の横を開けて、ソファーをぽんぽんと叩いてます。


「さあ、キルケちゃん。こちらに座って、読み聞かせてちょうだい。」

「楽しみです。魔女様お願いします。」


「え、今から??ここで、お嬢様に?何を言ってらっしゃる?」


 つい声を漏らしてしまいました。

 まさか、奥様とお嬢様の間に座り、旦那様、執事、メイド長、その他大勢がいる中、読まされるなんて思わないですよ。


 児童書ですよ。

 こういった本は、お嬢様がベッドに入って寝物語として、読み聞かせるというものです。そして、話の途中で寝落ちしてしまったお嬢様の可愛らしい幸せな寝顔を眺めて、癒されながら、本日の業務が終わるのです。

 間違いようのない認識です。えー、本当に間違いようがありません。

 そのように告げて、断ろうとしたのです。


 ですが、出た言葉は。


「承知しました。」


 これは先ほどの受理したことによる強制力のようです。

 『なんで?』と冷や汗をかきつつ、思い出します。そして、自分の迂闊さに落胆します。

 旦那様は、誰に、どこで、と指定されていない。つまり、この場で皆様に読み聞かせることは要望の範囲以内であり。受理したのですから、叶えなくてはなりません。それが魔女の契約です。断ることは不可能。

 奥様の言葉でも強制力がでたのは、契約の雇用主を侯爵家としたからのようです。契約時点ですでに失敗してたのかもしれません。

 かなり広く受け止められるような言い回しでの要望。このようなことを想定して、やってるとしたら、さすが狡猾な人族の貴族。ラツェッタ侯爵はやり手だと思わざるおえません。今後、注意深くしないといけませんね。


 、、、。


 旦那様のせいにしてみました。実際は、えー、そうですよ。私のミスです。私の。

『契約期間内で要望聞きをするときはできる限り、覚書を作りなさい』と口を酸っぱく協会職員のお姉さんに言われています。口約束は曖昧で範囲が広いため、とんでもないことになることが多々あります。だから、書面にして確認して、慎重にしないと痛い目にあいます。何度もやってしまっては、反省するのにまたやってしまう。

 要望の受理は、口約束でも魔女協会に記録されます。これでまた、私は笑い話の種にされます。


 奥様、お嬢様を含め、皆様の期待する目を一身に受けています。

 この場から立ち去りたいです。


 無理です!

 パニックです。


 ですが、契約を交わした魔女として、仕事を遂行しなくてはなりません。

 私は、渋々奥様の指定の場所に座り、そして、語るのです。


「それでは、朗読させて頂きます。

 むか〜し、昔。

 ある街にとても若い魔女っ娘が訪れました。」

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