箱庭街
空白メア
それぞれの意思
この国は大きくわけて二つの街に別れたいた。貴族街と貧民街。このふたつは国に収める納税額が多い上位3割の人が貴族街に住めた。それ以外は貧民街。更に、貧民街の一画ではスラムが出来ており貧民街の中の中流家庭はスラム街と差別していた。また、貴族街は貧民街と分けるための塀が設けられていて貧民街の人たちは貴族街に許可なく入れなかった。そして、この国の王が住むお城は貴族街の中心にあり貧民街の人は王の生存が都市伝説のようにあやふやなほど関わりがなかった。
私は生まれながらの貴族街育ちだった。貴族階級第一階で代々王家の子供の家庭教師をする家柄で、親のおかげで私も頭は良かった。今の王子とは同い年で生まれて仲が良く両家共に表立った問題はなかった。私が読書をしていると部屋をノックする音がした。どうぞと言うと、私専属の召使いのチヨコが現れる。真っ黒い髪に少し黄色味のある肌は異国から来たものだとすぐわかる。日本という国だったかしら。
「リア様。ユキリト王子がお呼びです。」
私の名前はリコレアなのだが、皆は愛称でリアと呼ぶ。私はユキリトという名を久しぶりに聞いて一瞬反応が送れた。ユキは私にユキリト王子と呼ばせないし敬語も使わせない。まぁ、社交辞令で公の場ではちゃんとするけどね。すごく昔に同い年なのに敬語はおかしいと言われた。変わってると思う。だって、目上の人に敬語を使うのは当たり前なのに。
「わかったわ。」
と読んでいた本に栞を挟み立ち上がる。そしてチヨコを先頭に歩いて応接間に向かう。階段をおりて突き当たりを右に曲がってすぐのドアを開ける。すると、紅茶を優雅に飲んでいる母とユキは楽しそうにお喋りしていた。母は普段より濃い化粧をしている。もしかしたら来ることを知っていたのかもしれない。
「あら、リア来たのね。では、王子様私はこれで」
そう言うと母は立ち去る。その間際にユキは先生ありがとうございましたと言う。母がいなくなったのを確認すると私はユキに話しかける。
「今日はどうしたの?」
「いや、実は明日ね見世物小屋が家に来るんだけどリアもどうかってお父様が言ってたから」
「ええ、もちろん行かせてもらうわ。」
私に拒否権なんてない。ユキは私を対等な立場に立っていて欲しいのかもしれないが、それは絶対に無理な話だ。家は先祖代々直で王家の下に使えているのだから。少しでも逆らおうものならいつ首が飛ぶか分からない。敬語で話さないのもユキの命令に従ってるに過ぎない。ユキは王様になればもしかしたらこの国は変わるかもしれないけど。
「どうかした?」
「ううん。なんでもないわ。それより、私の部屋で遊ぶ?」
「ごめん。今日はこの後お父様と出かけなければならないんだ。」
「そう。じゃぁ、また明日。」
「うん。明日の十時に来て。名前を言えば来れるようにしておくから。」
「わかったわ。」
専属の召使いを十数人従える彼を見送ると私はため息を一つつく。
「チヨコ。明日は聞いていた通りだから、服などを認めておいて。」
「かしこまりました。」
次の日。私は十時きっかりに馬車でお城に到着する。無論チヨコも一緒だ。門番にチヨコが話をつけると宮殿に馬車で入る。相変わらず無駄にデカくて綺麗に着飾った庭だこと。
馬車をおりて建物内に入る。すると、ユキは飛びついて私を出迎えてくれた。そういえば、見世物小屋とはなんだろう。本ではサーカスのようなものと聞いたけど…
ユキに案内されてお城の庭に行く。すると、サーカスの車が並んでいた。なんだ、ただのサーカスなのか。そう思ったが檻の前に来てみると、中には奇妙な形の人間だった。体が異様に小さい人。体全体の皮膚が爛れた人。2人分の体が繋がった人。見るに耐えず崩れ落ちる。やばい。王様の前でこれはまずい。立ち上がろうとするが完全に足に力が入らない。
「子供には刺激が強すぎたかな?席を外していいよ」
と王様がニコニコ言う。焦りすぎて周りを見れていなかったが、よくよく辺りに視野を向けてみるとユキも顔を真っ青にしていた。王子様が倒れた。じゃぁ、子供は倒れて当然という考えか。何とか助かった。私はとりあえずチヨコに肩を借りつつお庭のベンチに座る。隣にユキもいる。私達は少し落ち着くと散歩に出た。そして、東門の近くにみすぼらしい男の子を見つけた。
「誰だろう。少し声をかけてみよう」
ユキが言うので私が先頭で彼の元に向かう
「あら、迷子ですか?」
私が声をかけると少年は顔をあげる。改めて真正面から見ると少し印象が違った。また、左手がないことが気になった。
「いや、父から帰るまでどこか行ってろと言われたのでそこら辺をフラフラしていました。迷惑だったらすいません。やめます」
「いや、別に庭は別に見ていて構わないよ。それより、君は見世物小屋の店主の息子かい?」
「はい、そうです。…あ、気になりますか?」
と右手で無い左手をを指す。まじまじと見てしまっていたようだ。反射的に謝る。
「いいですよ。俺生まれつき左手がないんです。笑っちゃいますよね。見世物小屋の息子がこんなだなんて」
「そんなことは無いよ。君の名前を教えて欲しい。」
「…アイルです。」
「じゃぁ、呼び方はアイかな?よろしく。あと、そうだ。気を悪くしたらすまないんだけど、僕はあの商売を好まない。」
ユキはそう言った。私は見た目が気持ちいと思ってしまったが、ユキはあの商売自体が悪趣味と思ったのか。なんで、あんな下劣な王からこんな純粋な王子が生まれるんだろうか。
「それは俺も同感なんですよね。まぁ、温室育ちの王様には分からないかもしれませんが、俺らもアイツらもこれしか食い扶持がないんです。生きるためなんです。アイツらのあれは不知の病から来るものです。俺の簡易的な治療以外何も出来ていないんです。最低なんて百も承知です。でも、今日王様が私らを招き入れたように需要があるのも確かですよ。王子様。」
私は彼の皮肉った言葉を聞いて、血の気が引いた。私には真似ができない。これも彼の言葉を借りるのなら生きるためなんだ。
「そうか、君は私が想像ができないほど辛い思いをしてきたんだな。その目を見ればわかるよ」
アイとよばれた彼は世界が見えていないんじゃないかと思うほど虚ろで光がさしていなかった。
「ああ、よく言われます。」
「気を悪くしてしまったら本当に申し訳ないのだけど。そんなに貧民街って酷いのかい?」
「酷いですよ見ますか?」
すると彼はお城の裏口を開けるとてくてくと歩いていく。まるで手馴れていた。少し歩き裏路地のマンホールの蓋をズルズルと引きずって開ける。すると、そこは地下室に行く階段だった。まるでダンジョンの入口のようだった。
「ここは?」
「昔、貧民街の少年と貴族街の少年が隠れて合うために使っていた秘密の抜け道らしいです。今は貧民街のごく一部しかこの存在を知りません」
「そうなんだ」
「そういえば、ここまで連れてきてしまいましたけど本当に進みますか?」
「うん。この国はいずれ、僕が上に立つことになるんだ。知らない方がおかしい。リアはどうする?」
「ついて行きますよ。」
本当は嫌だけど。今の彼の後ろにだったらくっついていける気がした。彼の言葉がとても頼もしく思えた。階段を下りて数分。今度は階段を上る。そこは私の目がおかしくなってのかと思うほどモノクロだった。写真で見たのより余程酷い。
「これは、スラム街だけです。普通のところはちゃんとした家にこじんまりと暮らしてます。」
「…」
ユキは目を見開くばかりで動かない。
「あなたをここに連れてきてしまったのはダメだったかもしれませんね。戻りましょう。」
彼は無言で戻る。私はそれについて行くだけだ。宮殿に戻るとなんとか、抜け出してないのはバレていないようだった。挨拶をそこそこにすると見世物小屋は店じまいをして貧民街へと戻って行った。ユキはその際終始無言だった。
数年後。私やユキは成人を迎える。その間に私達は1度もあの日以来あっていない。そもそも、ユキが会いにこない限り接する機会なんてないのだ。そして今日はユキの成人式と王位継承の日でもあった。貴族街と一部の貧民街の人がホールに集まる。ちなみに貧民街の人は抽選だ。ふと、髪の長い男性が目に入る。スカスカの左腕の裾を見て思い出した。この人は見世物小屋のあの子だ。この日は珍しく二つの街を分ける塀は開かれているのだ。街に差別関係なく喜び王に感謝する日なのだ。久しぶりに会うユキは私より全然身長が高い。でも、変わらない綺麗な目をしていて通りすがりに私に笑いかける。彼はステージに上がり挨拶をすると、長ったらしく何かを書いた紙を見ながら話し始める。長く聞いていなかった彼の声は低くかっこいいものになっていた。そして、言葉の締めとして王としての最初の命令を下す。
「貧民街の見世物小屋の息子アイルに医学の勉強をさせる。」
という言葉を言った。周りの人がざわつく。それはそうだ。貧民街のしかもスラムの人に医学の勉強をさせるなんて普通ならとち狂ってると思うだけだ。
「はい」
と声がする。こちらも声が低くて分からなかったがあの見世物小屋の息子だった。しかし、イレギュラーな私は胸の高鳴りを感じた。そんな私を見つけたと言わんばかりにユキは私に目を合わせてくる。目が合ったと確認すると彼はにっこりと私に笑いかける。
「僕らでこの世界を変えよう。この箱庭を壊そう。」
私は涙が出た。
「もう1つ。それは、貴族階級第一階のリコレアを私の改革の補佐として迎える。いいね?」
彼が私に差しのべた手に
「はい!」
私は手を重ねた。拒否権なんてない。しかし、そんなものなくても私の意見は変わらなかっただろう。
箱庭街 空白メア @akisiro-mea
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