第3話 ファイナルレース・in 関西

西暦2017年10月。

再び神の気まぐれで十二支のレースが開催されようとしていた。


前回の十二支レースには問題があった。ルール無用のレースにしたため、肉食動物が草食動物を殺害・捕食してしまい、出場者のほとんどが死亡してしまった。


このためレースの結果を聞いた動物たちは、この十二支レースに対してすっかり「危険」というイメージを持つようになってしまった。

特に小型の草食動物は、おそらくレースに誘っても棄権するであろう。


だがこのようなレース結果を公式の十二支とするには不満が残る。

神は考えた。どうやったら出場者を集められるか、と。


そしてしばらく考えた末、神は日本全国の動物たちに通達を出した。

その通達の内容は以下である。


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全国のクズどもへ


よろこべクズども。公式に発表する十二支を決めるため、再び十二支レースを開催することにした。

出場したい者は人間でいう西暦2017年、10月14日(土)の正午に京都の大文字山へ来るがいい。


だが前回のレースで死者が大量に噴出し、お前らがビビってるのはわかっている。

そこで今回はレースの上位3位までに褒美を与えてやることにした。ありがたく思え。


いいか。お前らは知らんかもしれんが、世界には大きな海がある。でかい海のことを大洋という。

太平洋、大西洋、インド洋の3つだ。

これらそれぞれの大洋のド真ん中あたりに島を作ってやる。まさに絶海の孤島というヤツだ。

3位までの勝者にはそれぞれ、この島のどれかに住む権利を与える。


そしてここからがすごい点だ。その島の生態系を事前にワシが調整してやろうというのだ。

その島に住む者にとっての天敵が一切いない生態系を作ってやる。

さらに永久に食うに困らんだけの食料を島に保証しよう。


天敵がおらず、しかも死ぬまで食料に困ることがない。

わかるか?3位までの勝者には「永久の安全」を保障してやろうというのだ。


絶海の孤島だから人間どもに荒らされることもない。

病気にさえかからなければ、寿命が来るまで生存が保証されるのだ。


お前らの家族でも友人でも、好きなだけ島に連れてくるがいい。ワシが瞬間移動させてやるからな。

神の力をもってすれば、島を3つ作って移住させることなど造作もないことよ。


全くお前ら下等なクズどもには過ぎた褒美だ。これからも神たるワシにひれ伏し、敬い続けるがいい。

神たるワシを敬わぬ不埒ものには、末代まで恐るべき神罰をくれてやる。


まあ、そういうことだ。とりあえずつべこべ言わずレースに参加しろ。


神より



追伸 今回は鳥類にハンデを与えることにする


追伸その2 殺し合いは禁止にする。ほかの出場者に攻撃した者は即座に反則負けとする。


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だがこの通達に、大型肉食獣(猛禽類の鳥類含む)はあまり興味を示さなかった。

食物連鎖の頂点である彼らにとっては、もともと天敵というものが存在しない。


永久に保障される食料は確かに魅力的ではあるのだが、それよりも知らない土地に移動することの方が問題であった。

気候や風土の異なる土地に住むことにより、思わぬ生態的ダメージを食らうリスクがある。死ぬ可能性も十分にある。

下手すれば全滅しかねない島に移住するよりは、現状維持の方がマシと考えた。


となれば必然、この提案に興味を示すのは生態系の下位に位置する小型動物や草食動物だった。



そしてレース当日。2017年10月14日正午……


出場者たちは京都の大文字山に集合した!


神「よく来たなお前ら!」


今回の出場者は舞台が日本であることもあり、比較的小型の動物が集まった感がある。


トンビ、カラス、ウグイス、イヌ、ネコ、チンパンジー、クマ、トラ、ヘビ、の9匹である。


トラ「神さんよ、今回は鳥類にハンデをつけるんだって?」

神「うむ。今回、空中を飛行して移動できる者たちには、そうでない者たちよりも余分に別のルートを通ってもらう」

トラ「ありがてぇ。奴らが空中に飛ばれたら最後、俺ら陸上動物には永久に追いつけねぇからな」


神「レースの概要を説明する!まずはこのグーグルマップを見よ!」

トラ「グーグルってなんだ?」


神「今回は前回よりも小難しいルールがいくつかある。一度しか言わんからよく聞け!」



●レースのルール



1.フラッグを入手してゴールしなければならない


スタート地点は京都市の大文字山。ゴール地点は愛知県の渥美半島の先端「伊良湖岬(いらこみさき)」の灯台。


ゴールに行く前にフラッグ(旗)が置いてある場所がいくつかあり、各自これらを入手してゴールしなければならない。


フラッグのある場所は、一つ目は三重県と滋賀県の境目にある「御在所山(ございしょやま)」の頂上、もう一つは三重県の伊勢市と鳥羽市の境目にある「朝熊山(あさまやま)」の頂上。この2つを入手してゴールしなければならない。

鳥類はこの2つに加え、さらに石川県の「白山(はくさん)」の頂上にあるフラッグを合わせ、合計3つを入手しなければならない。


協力してほかの者に取りに行かせるなどは禁止。自力でその場まで行き、入手すること。



2.互いに攻撃することの禁止


出場者は互いに攻撃、殺害、捕食することを厳しく禁ずる。これを破った者は即座に反則負けとする。



………

……


神「何か質問はあるか?」

トラ「なあ、攻撃は禁止っていってるけど、出場者以外のヤツらはどうなんだ?今回のレースは長い。途中で見知らぬ野生動物に攻撃されるかもしれねぇ」

神「出場者同士での攻撃を禁止しているだけで、ほかはどうでもよい。見知らぬ野生動物に捕食されそうになったら存分に反撃するがいい。いっておくが、野生動物に捕食されてもワシは知らん。死亡したら負け、それだけのこと。せいぜい殺されないように気をつけるんだな」

トラ「……」


神「ほかに聞きたいことはあるか?」

一同「……」

神「ではレースを開始する!」



●出場者紹介


1.鳥類



トンビ


パワー ★★★★

スピード★★★★★★★★★★★★★★★

知力  ★★★


今回レースの優勝候補No.1

鳥類の中でも最も大型であり、最も速く空中を移動できる。

鳥類に課せられたハンデを乗り切れるかどうかがカギになるだろう。



カラス


パワー ★★★

スピード★★★★★★★★★★★★★

知力  ★★★★★★★★★★


知力の高い鳥。普段は都市部に生息しており、ゴミを食い散らかして人間たちを困らせている。

トンビほどの速度は出せないが、その頭脳でどう戦略を練るかが勝利のカギになるだろう。



ウグイス


パワー ★★

スピード★★★★★★★★★★★

知力  ★★★


人里離れた野山に住むウグイス。

小型の鳥類で、速度も知力もほかの鳥類2匹にはおよばないが、完全な野生であるためにサバイバルのカンは鋭い。



2.小動物



イヌ(チワワ)


パワー ★★

スピード★★★

知力  ★★★★


室内犬で、人間に飼われている小型犬。横暴な飼い主から虐待されている。

貧弱ではあるが、自由を手に入れるためにレースに出場を決めた。



ネコ(野良猫)


パワー ★★★★

スピード★★★★

知力  ★★★★


野良猫である。野生のためチワワよりは強い。



ヘビ(マムシ)


パワー ★

スピード★★

知力  ★


一見最弱に見えるが、必殺の毒攻撃は中型動物までなら致命的。

しかし互いの攻撃が不可能なこのレースではどう役に立つかが不明で、苦しいレースが予想される。



3.大型陸上動物



クマ


パワー ★★★★★★★★★★★★★★★

スピード★★★★★★★

知力  ★★★★


野生のツキノワグマで、今回最強の攻撃力を誇る。

互いの攻撃は禁止されているため、このパワーをどう生かすのかが課題となる。

人間の乱開発で生息域の食糧事情が苦しくなってきたためにレースへの参加を決意。



トラ


パワー ★★★★★★★★★★★★★

スピード★★★★★★★★★

知力  ★★★


唯一の前回レースの生き残り。

クマと同等程度の巨体を持つ。

クマが木の実などを主食としているのに対しトラは肉食で狩りをするため、速度は優れている。



チンパンジー


パワー ★★★★★★

スピード★★★

知力  ★★★★★★★★★★★★★★★


突き抜けて圧倒的な知力を持つ霊長類。

その頭脳をどう戦略に生かすかが勝利のカギになるだろう。



………

……



そしてレースが始まった!!出場者たちはいっせいに大文字山を出発した!!


まず先頭を行くのは、やはり鳥類の3匹であった。

トンビとカラスは同じくらいの速度で、一直線に御在所山へ向かっていく。

少し遅れてウグイスが後ろについていった。


トンビ「……なにカラス?オレと張り合おうっての?」

カラス「いえいえとんでもございません!あたしゃダンナの後ろでおとなしくしてまっさぁ……」

トンビ「そうそう、オレはおめぇの天敵なんだぜ?わかる?て・ん・て・き!絶対勝てないの!」

カラス「わかってますって!なあに、あたしゃダンナのおこぼれをちょいともらえれば満足なんでさぁ……お願いしますよダンナ!」

トンビ「しょうがねぇカスだな。まあいい、おとなしくついてくるくらいなら許す」

カラス「いやあさすがダンナは寛大でいらっしゃる!」


そのころ陸上動物は大文字山を下り、地上を走ることとなる。


だが大型動物は問題があった。クマとトラは人の集まる市街地を走るわけにはいかない。

人間に見つかれば即座に捕獲、悪ければ射殺される。


日本の地形といえば、平地はほとんどが人間のために開発されてしまっており、人目につかない場所といえば山林を行くしかない。


クマとトラは平地を避け、山林のみ通って御在所山へ向かった。

山地は平地よりも体力の消耗が激しく、しかも時間がかかる。

クマとトラはイヌやネコよりも走るのが速いが、かかる時間はさほど変わらないだろう。


トラ「……クマさんよ、あんたなんでレースに参加したんだい?天敵なんざいないだろうに」

クマ「みんなオレのこと凶暴な肉食獣だと思ってるんだよな。食ってるモンといえば、ほとんど木の実だぜ?」

トラ「そいつは知らなかった」

クマ「人間たちがやたら木を切るんでさ、木の実が減っちまって食糧難なのよ」

トラ「そいつは災難だな」

クマ「おまけに人間どもときたら、クマを見つけたらすぐに殺そうとしやがる。こっちは別に争うつもりはないんだぜ?」

トラ「オレも同じだ」

クマ「そうだったか!オレたちは同じ、人間どもに迫害されて絶滅の危機。トラよ!ともにゴールして理想の生活を取り戻そう!」

トラ「あ、ああ……そうだな」

クマ「よし、オレたちは今から仲間だ!一心同体だ!」

トラ(なんかお人よしっつーか間抜けというか、こいつはよ。オレらはライバルでもあるんだぜ?島をもらえるヤツは限られてる。こちとらおめえを蹴落としてでも先にゴールするっての!)


いっぽうイヌとネコは山を下りて平地に出ると、人間たちの作った国道に沿って走り始めた。

国道は人間たちの自動車が多く走っているが、端を走れば小型動物にとってはさほど障害にはならない。


何より舗装道路は障害物が何もないので走りやすい。

このまま国道1号線に沿って東へ向かえば、方向を間違える心配もない。


だがネコはイヌのことを良くは思っていなかった。


ネコ「通常、イヌとネコが戦えばイヌが勝つといわれてるが……おい、なんなんだてめーはよ?」

イヌ「ぜぇぜぇ、はぁはぁ……」

ネコ「もうへばってんのかよ、このド室内犬が!」

イヌ「だって……ボクは今まで外にはほとんど出たことがなくて……」

ネコ「やってらんねーな、このド室内犬はよ?自然の世界を甘く見るんじゃねぇぜ?てめーはいったい何ができる?このレースでどう役に立つってんだ?」

イヌ「ボクは……今までずっと人間に飼われてきたんです。そうだ!芸は得意ですよ!あとボクは……かわいい!」

ネコ「んなもん役に立つか、このドチワワが!!チクワでも食ってろボケ!あとそれはなんだ!」


ネコはイヌの首を指さしていった。


イヌ「これは……首輪です」

ネコ「だからおめーはド室内犬なんだよ!もういい、てめー遅かったら置いていくぜ?せいぜい置いてかれないようにがんばって走るんだな」

イヌ「そんなぁ!」


イヌとネコはいがみ合いながらも、東を目指して走っていった。


残ったチンパンジーとヘビだが、こちらはまだスタート地点に残っていた。


ヘビ「はあ……仲間たちに言われて出場したけど……勝てるわけがない。鳥とかイヌとかトラとか……戦いならまだしも、徒競走だぞ?どうしろってんだよ……」

チンパンジー「それがそうでもねぇんだなぁ、ふーッ……」


チンパンジーはのんきにタバコをふかしていた。


ヘビ「あんた、行かなくていいのかい?まあ俺はもうあきらめてるけどさ」

チンパンジー「ふー……勝つために一番大事なものは、何といっても頭脳よ。やつらド低能どもがいくら努力しようがオレ様にはかなわんよ。ま、優勝はこのチンパンジー様だと最初から決まってる」

ヘビ「ずいぶんな自信じゃないか。何か策でもあるのかい?」

チンパンジー「フーッ、まあそれをやるためにはオレ一人だけじゃダメでな、お前の協力が必要となるわけよ」

ヘビ「……オレ?」

チンパンジー「そ、付き合ってもらうぜ」

ヘビ「それはいいが……どうするんだい?」

チンパンジー「へっへっへ……」


………

……


●現在の状況


鳥類の速度は圧倒的だった。

開始から約3時間後、すでにトンビとカラスは最初のフラッグ地点である御在所山に到達しようとしていた。



●御在所山(ございしょやま)


三重県菰野(こもの)町と滋賀県東近江(ひがしおうみ)市の境目にある山。「御在所岳」ともいう。

鈴鹿山脈の中央あたりに位置し、標高は頂上で約1200mで、三重県の山の中では最も標高が高い。

滋賀県から三重県へ行くための国道477号線(通称「鈴鹿スカイライン」)を通ると、御在所山の頂上付近、標高約800mくらいまで車で行ける。


滋賀県側は緩やかだが三重県側は急勾配であり、切り立った崖地も多い。

そのためか御在所山の頂上に上るため、三重県側のふもとの「湯の山温泉」からロープウェーが出ており、これで頂上まで行けるようになっている。

しかし崖地も多いことからロープウェーの高度も高く、最大でロープウェーと地表面の高低差が150mにもなり、「日本一怖いロープウェー」としてひそかに有名である。



さて、トンビとカラスはほぼ同時に山の頂上に到達した。

山の頂上にフラッグがある。


トンビ(カラスの野郎がうっとおしいが……まあいい。3位以内に入れば島はもらえるんだ。どうせオレが1位でこいつが2位、結果は大して変わらん)

カラス「へへへ……」

トンビ「なんだ?」

カラス「いえなんでも、さあダンナ、フラッグをどうぞ」

トンビ「……ふん」


トンビがフラッグを取ろうとしたその瞬間……


草陰から大量のカラスがトンビに一斉に襲いかかってきた!


トンビ「なんだぁっ!?こ、こいつらはッ!!」


カラスたちはいっせいにトンビに攻撃した。

さすがのトンビも、これだけ大量のカラスが相手ではどうにもならない。トンビは押さえつけられ、身動きすらできなくなってしまった。


カラス「ブぁぁぁかがッッ!!仲間たちに待ち伏せしててめぇを攻撃するように指示しておいたのよッ!」

トンビ「て、てめぇっっ!ばかなっ、攻撃したら反則負けだッ!!」

カラス「攻撃禁止なのは出場者どうしだ!その他の者は関係ねえッ!」

トンビ「そんな理屈が通るかッ!てめぇがやらせたんだろうが!」

カラス「通るんだよォォォ……現にオレは何のペナルティも受けてねぇぜ?見過ごされてるってことはそれがまかり通るってことよ!」

トンビ「なんだとォ……」

カラス「よくも今までオレを奴隷のようにこき使ってきやがったなァ?だが頂点に立つのはいつも頭脳の優れたヤツだ!人間みてりゃわかるだろうがッ!てめえのようなド低能は本来オレたちの下に着くべきなんだよ!!」

トンビ「覚えてろよてめぇ!後でただじゃすまさねぇからな!!」

カラス「もう後なんてねぇんだよ……てめぇにはな。やっちまえ!!」


カラスたちはいっせいにトンビを攻撃した。


トンビ「ぎゃあああーーーーッッ!!」

カラス「後で覚えてろだぁ?あー、もう忘れちまったぜ」



トンビ→死亡



カラス「単独でどんなに強かろうがなァ……『社会』を作れる動物によォ……勝てるわけがねぇんだぜ?」

仲間のカラス「隊長、ウグイスのヤツはどうします?やっちまいますか?」

カラス「いや、いい。あんなカスはほっといても害はない」


カラスはフラッグを取ると、北へ向かって飛び立った。

少し遅れてウグイスも到着し、フラッグを取って北へ飛び立った。



そのころチンパンジーとヘビはようやく山から地上に降り、人間たちのいる街中へ来ていた。


ヘビ「こんなところで……何するんだい?」

チンパンジー「乗りな。音を立てるなよ。人間どもに見つからんように気をつけろ」


チンパンジーとヘビは、輸送会社にある「輸送用トラック」に乗り込んだ。


ヘビ「これは……」

チンパンジー「クックック……こいつはなァ、人間たちの作った『自動車』という乗り物よ。これを使えば3時間で山のふもとにまでたどり着く」

ヘビ「え……えええっ!?3時間?たったの?」

チンパンジー「ほかの陸上動物たちじゃ、あの山にたどり着くまでにはどうやっても10時間はかかる。そのころには夜になってるから先へは進めん。山を登るのは明日の朝だ。むろんオレたちもな」

ヘビ「な、なんと……では明日の朝、陸上動物はいっせいに山に登るわけだ?なるほど明日の朝が勝負か……」

チンパンジー「へっへっへ……」


チンパンジーは不気味に笑っていた。



レース開始から5時間が過ぎた。


すでにあたりは暗くなりかけていた。クマとトラは平地を避けて山林を通っていたが、途中、どうしても平地を通らなければならない部分がある。

平地は人間に見つかる危険性があるが、やむを得なかった。


トラ「……なあクマ、あいつらはなんだ?」


トラは遠くに見える人間たちを指さして言った。


クマ「あいつらは鳥獣対策のハンターだ。危害となる危険動物を見つけて殺すための猟銃を持っている」

トラ「なんだと……あいつらに見つかったら?」

クマ「まず生きては帰れん」


クマとトラは見つからないよう、慎重に進んでいく。


クマ「オレも仲間たちには言ってあるんだ、平地には出るなと。でも空腹に耐えられず、平地に出て食糧を探し……撃たれる者もたくさんいる」


突然人間たちが騒ぐ声がした。


??「おい!あそこに何かいるぞ!!」


人間たちがこちらを向いて叫んでいる。


クマ「なに!?まずい、見つかった!」

トラ「逃げろ!!」


クマとトラは山林に入って逃げ、回り込んで森の別の出口に出たが、人間たちは先回ししているのか、出た先に待ちかまえられていた。


トラ「なんだと!?」

クマ「だめだ!完全に包囲されてる!トラ、山の一番奥を目指せ!そこなら人間たちは入って来れん!!」

トラ「よし、行くぞクマ!!」


トラとクマは山の奥地へ向かうが、クマはトラよりも足が遅かった。


トラ「何してる、速く走れ!」

クマ「オレにかまうな、先に行け!」

ハンターたち「いたぞ、撃て!!」


ズドドドン!!

ハンターたちの銃弾が、クマの体に直撃した。


クマ「ぐわあああっっ!!」

トラ「おい、クマッ!!」


だがクマはひるまず、しかし突然方向を変え、人間たちのほうへ向かって走って行った。


トラ「おい……どこへ行く!?」

クマ「オレがヤツらを引き付ける!!お前は逃げろ!!」

トラ「なんだと……」


ドドドド!!


再び銃弾がクマの体に炸裂した。


クマ「ぬうううッッ!!」

トラ「クマッ!!」

クマ「オレはもう助からん……頼む!!オレたちの楽園を……頼むッ!!」

トラ「……」


トラは山の奥へ向かって走り出した。


トラ「わかったぜクマ。必ず……必ず島を手に入れてみせる!!そしてオレたちトラとクマたちが共に過ごせる平和な楽園を!!」

クマ「そいつを聞いて……安心した……ぜ……」


クマは倒れた。

トラは山の奥地へ逃げることに成功し、人間たちはトラを追うのをあきらめた。



クマ→死亡



そして夜になった。


チンパンジーとヘビは輸送トラックを乗り継ぎ、すでに山のふもとの「湯の山温泉」に到着していた。


ネコとイヌは夜遅くに山の付近まで到達した。

彼ら陸上動物にとって、夜に山を登るのは危険すぎる。翌朝になるのを待って、山への登頂が始まるだろう。


カラスとウグイスは次のフラッグのある白山のふもとまで到達していた。


翌朝、チンパンジーとヘビは御在所岳ロープウェーの乗り場の近くに来ていた。

このあたりは観光地で、人間の観光客がたくさん来ていた。


チンパンジー「さて……ここでおめぇに役に立ってもらうぜ?」

ヘビ「お……なにをするんだい?」

チンパンジー「ロープウェーに乗りに来る人間の客がいるだろう。そうだな……あの女の子がいい。女の子の脚にかみついて来い」

ヘビ「え……ええっ!?」


ちょうどロープウェーに乗ろうとしていた家族連れの中に、小学生くらいの女の子がいた。


ヘビ「かみついて……どうするんだい?」

チンパンジー「人間どもはパニックになるはずだ。その隙にロープウェーに乗りこむ」

ヘビ「な、なるほど……でもあの女の子、俺がかみついたら死んじまうぜ?」

チンパンジー「かまうかよ」

ヘビ「……」


ヘビの接近に気付く人間はいなかった。

ヘビはすばやく回り込み、女の子の足首にかみついた。


女の子「きゃっ!……い、痛いっ!」


女の子の父親がヘビを見つけた。


女の子の父親「これは……マムシだ!大変だ、娘がマムシにかまれた!救急車を呼んでくれ!早く!!」


ロープウェー乗り場の周囲は一時騒然とし、人々はパニックになっていた。

ヘビはすばやく移動し、チンパンジーのところまで戻ってきた。


チンパンジー「よし、乗るぞ!」


チンパンジーはヘビを抱えてロープウェーに乗りこんだ。


ロープウェーが頂上付近まで来ると、チンパンジーとヘビは窓を開けて山中へ飛び出した。


チンパンジー「よくやったぜヘビ。まああの人間の娘が死んだのはかわいそうだったがな、しょうがねぇさ」

ヘビ「いや、あの子は死なんよ」

チンパンジー「なんだって?」

ヘビ「かみついたが、毒は入れてねぇ」

チンパンジー「……」

ヘビ「あれで十分だろ?」

チンパンジー「まあいい。また役に立ってもらうぜ?」


チンパンジーとヘビはフラッグを手に入れると、同じやり方で再び山を下り、次のフラッグのある朝熊山へ向かった。


………

……


イヌとネコは山を登り始めようとしていた。だがこの登山は簡単ではない。


イヌとネコは昨日の一日で国道1号線から477号線へ渡り、山の標高800mの位置にまで到達していた。

しかし山の頂上までは道路がなく、人間でいえばロープウェーを使うか登山道を歩くかしかまともな方法はない。


ネコとイヌがそんなものを知るわけがなく、したがってこの2匹は残りの300m、非常に危険な崖地を登るしかなかった。


2匹は後先考えずに登って行った。

ルートを考えなかったため、引き返す余裕がない、というより引き返そうとすると落下してしまうようなルートを選んでしまっていた。


ネコ「おいイヌ!てめぇが落下しても助けたりはしねぇからな!」

イヌ「……」

イヌは疲れ切っていて、声を出すこともできない。


ついにイヌは崖の途中で力尽き、崖から落下してしまった。


イヌ「う、うわああああっっ!!」


イヌは見えなくなった。


ネコ「馬鹿野郎が……外に出たことのねぇヤツが山になんか登れるかよ」


だがこの崖地はネコにとっても簡単ではない。

飛び乗った岩場が突然崩れ始めた。


ネコ「な……なんだとォォォ!!」


ネコも崖の下へ落ちていった。


………

……


人間の女の子「ママ!ネコさんが!!」

女の子の母親「野良猫じゃない!触っちゃだめ!」

人間の女の子「イヌさんもいる……」

女の子の母親「あら……こっちの子は首輪がついてるわ。誰かの飼い犬かしら?」

人間の女の子「ねえ、イヌさんは持って帰っていい?」

女の子の母親「しかたないわね……」


………

……


ネコ「うぐ……はっ!?ここは……」


どれくらい時間がたったのかわからなかった。ネコが気が付くと、そこはまだ山の中だった。

周囲にイヌはいなかった。


ネコ「イヌの野郎どこへ……うぐっ!?」


その瞬間、ネコの脚に激痛が走った。


ネコ「な、なんてこった……右の前脚を骨折してやがる!!」


野生動物にとってケガは致命的。

その弱みを狙い、やってくる動物もいるだろう。


だがそれはすでに遅かった。

すぐ近くに、獰猛な息づかいがいくつも聞こえる。


ネコ「こいつら……野生のオオカミか!!う……囲まれてやがる!!」


すでにネコの周囲をオオカミの群れが囲っていた。


ネコ(逃げられない……くっ……!!)


完全に囲まれていた。おそらく脚をケガしていなくても逃げられないだろう。


ネコ(くそっ、くそっ!!このイヌどもめ……おのれ……おのれッ!!)


オオカミたちはいっせいに飛びかかってきた。


オオカミ「グワアーッ!!」

ネコ「ちくしょおおおあああ!!」


………

……


イヌ「う……はっ!?」

人間の女の子「あ、気が付いたね、イヌさん!ママー!!」


イヌが気が付くと、そこはどこかの人間の家の中だった。

イヌも大ケガをしていたが、人間たちが手当てしてくれていたようだった。


イヌ「……生き……てる?」



ネコ→死亡

イヌ→生還。ただしレースからは離脱。



………


同じころ、カラスとウグイスは白山の頂上へ向かっていた。

だがそれは、御在所山の時とは異なり、簡単ではなかった。


●白山

石川県白山市にある山で、頂上の標高は約2700m。

標高1500mまでは自動車で行くことができるが、その後は自力で登るしかない。


だが今ここで問題なのは、その高度だった。

山頂である標高2700m地点での気温は、10月では昼間でも5度を下回る。


カラスが到着したとき、運の悪いことに悪天候だった。山頂付近は吹雪いていた。

気温は0度付近だったが、山特有の強風のため、数字以上に強烈な寒さで、体温はあっという間に削られていく。


ここでは空気が薄いという問題もある。酸素量や気圧は生物の体に多く影響している。

通常、人間では2400m以上の山に一気に登ると高山病にかかり、強い疲労感やめまい、吐き気などを感じることがある。


鳥とて例外ではない。まして頂上付近では気圧は700ヘクトパスカル台にまで下がるため、飛行が困難になっていた。


カラスは2000mまでは何とか飛行できたものの、それ以上は歩いて登るしかなかった。


カラス「寒い……寒い、寒い!!それに気分が悪い……頭痛がする……どうなってやがる!!」


カラスはすでに疲労しきっていた。また吹雪による体温低下もひどかった。


カラス「う……」


突然カラスはバランスを崩し、その場に倒れた。


カラス「う、動けねぇ……体が……動かねぇ!!」


あたりはすでに暴風雪となり、雪が積もり始めていた。


そして後ろからやってきたのは……ウグイスだった。

ウグイスもやはり歩いていた。


カラス「お、おめぇ……来れたのか?」

ウグイス「……」

カラス「た、助けてくれ……このままではオレは……死ぬ!」

ウグイス「愚かな……」

カラス「……??」

ウグイス「野生のカラスはこの程度でくたばったりはしない」

カラス「なんのことだ……」


このカラスは都市部に生息しているカラスで、日々の食糧は人間が廃棄した生ゴミだった。

野山の鳥のように、狩猟をしなくても簡単に食糧が手に入る生活。


ウグイス「自分では気づいておらぬようだな……己の肉体が弱まっていたことに。狩りもせず、人間どもに媚び、ぬくぬくと生きてきた貴様の体は、もはや自然を生き抜くにはあまりに衰えた。まるで飼い犬よ……」

カラス「……」

ウグイス「お前たちが媚びている人間どもは何をしてきた?地球を汚染し、自然を破壊しつくし、しかも少しも反省しておらぬ。やつらに媚びるなど言語道断!!」

カラス「たす……けて……くれ……」


ウグイス「貴様にはふさわしい末路よ、受け入れよ!!」


その後ウグイスは頂上へ到達し、フラッグを入手すると一直線に朝熊山へ向かった。



カラス→凍死



●朝熊山(あさまやま)

三重県伊勢市と鳥羽市の境目にある、標高約500mの山。自動車で頂上まで行くことができる。

海に面した東海岸にあり、冬はよく晴れる気候のため、初日の出を見るための名スポットになっている。

元旦の早朝には1000人以上の観光客が訪れる観光地であり、海の水平線から出てくる太陽を拝むことができる。



チンパンジーとヘビは道路を歩き、朝熊山のフラッグを入手した。このフラッグの入手は簡単だった。


だがここからのゴール地点である伊良湖岬へのルートが問題だった。山を下りた鳥羽市から伊良湖岬へは、海を渡らなければならない。

陸上動物にとって、もし海を泳がないならば陸地から回り込んでいかなければならないのだ。だがこれはあまりに時間がかかりすぎる。



チンパンジーとヘビにとって、この海をどう渡るかがカギになる。

そうしている間にもウグイスは猛スピードでこちらへ向かっていた。


チンパンジーはヘビを連れて鳥羽市のフェリー乗り場へ向かっていた。

鳥羽市のフェリー(伊勢湾フェリー)は鳥羽市と伊良湖岬を行き来しているフェリーである。


チンパンジーとヘビは隙を見てフェリーに乗り込み、身を隠した。

フェリーは出発した。


チンパンジー「音を立てるなよ……」

ヘビ「人間に見つかったらどうするんで?」

チンパンジー「おめぇがそいつにかみついてパニックにしろ。その隙に逃げる」

ヘビ「逃げるって……どこへ?」

チンパンジー「……」



その心配をよそに、フェリーは無事伊良湖岬に到着した。


だがそこからが問題だった。フェリーから出る隙がないのである。

周囲には人間がたくさんおり、さらにフェリーの船長は船内を点検する義務がある。

船長は隅から隅まで見て回る義務があるのだった。


船長「……え?」

チンパンジー「……」

船長「な……なんだァーーー!?ご、ゴリラがいるぞォ!!」

チンパンジー「逃げるぜヘビ!!」


チンパンジーは逃げたが、船長が警察に通報したため、すぐにハンターが到着した。

チンパンジーとヘビはハンターたちに包囲されてしまった。


チンパンジー「くそっ!もうゴールが目の前だってのに!!」


チンパンジーは海岸に追い詰められた。


チンパンジー「こうなったら……オラァ!!」


チンパンジーは海へ飛び込んだ。そして岬のゴール地点である灯台へ、泳いで回り込んでいこうとした。

しかしその努力もむなしく、灯台のすぐそばにもハンターたちが待ち構えていた。


ハンターたちはチンパンジーを捕獲しようとした。


チンパンジー「触るんじゃねぇ!!」


ハンターたちが取り押さえようとした瞬間、チンパンジーはハンターの一人を拳で殴った。


ハンター1「うわあっ!!こ、このゴリラ、殴ったぞ!やはりこいつは危険だ!射殺命令を!!」

ハンター2「やむをえん……」


ズドドドッ!!


チンパンジー「ギャアア!!」


チンパンジーは倒れた。


チンパンジー「く、くそっ……くそォッ!!も、もう少し……だった……のに……」



チンパンジー→死亡



それをヘビが遠くで見ていた。ヘビは小さすぎて人間たちには見つからなかった。


ヘビ「な……なんてこった……」



騒動が終わったころ、もう日が沈みかけていた。

伊良湖岬から西の海を見渡すと、小さな赤い夕日が今にも海の水平線へ沈もうとしていた。夕日が地面に、灯台の長い影を作っていた。


ヘビは一人さびしく、とぼとぼと灯台へ向かった。

そこには神がいた。


神「よくやったヘビよ。お前が優勝だ。褒めて遣わす」

ヘビ「え?……あ……え?」


少し遅れてウグイスが到着した。

そこには神とヘビがいた。


ウグイス「……なにがあった?」

ヘビ「……」


それから3日もした後、ようやく陸の方向からトラがやってきたのだった。

トラは御在所山と朝熊山のフラッグを入手した後、名古屋のさらに北、岐阜の山地から回り込んでようやくここまでたどり着いたのだった。


トラ「すっかり遅れちまった……すまねぇクマ、おめぇとの約束は果たせなかったようだ」

神「なにを言っとる。お前は3位。インド洋の島をくれてやる」

トラ「……え?」


神「よし決まりだな!これより干支は、ヘビ、ウグイス、トラの3つとなった。これが最終決定だ。異論は受け付けん!」


おしまい

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新・十二支 ヴァレー @valleysan

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