第4話「空間戦闘」

 漂う小惑星たちは、その大きさも様々で、常に揺れ動いている。

 無数の小惑星の細かな動きを全て捕捉して把握し続けることはこの時代のシステムでも困難なことで、一般的に、小惑星帯の中は危険な空域であるとされている。


 その小惑星帯の中を、レナは愛機であるミーティアを操り、逃げていったブリッグを探して進んでいた。


 ミーティアに搭載されている各種のセンサーは、近年まで試作中だったこともあり最新かつ高性能なものが搭載されており、それらのセンサー類から上がってくる情報をAIを利用して連携させ、パイロットに知らせる高度なシステムが採用されていた。


 このシステムによって、レナの眼前のバイザーデイスプレイには、漂う小惑星たちが強調して表示され、その進行方向と速度を示すベクトルの矢印が表示されている。

 レナは刻々と位置が変わり続ける小惑星の中を、せわしなく視線を動かしてバイザーデイスプレイに表示される情報を確認し、かつ、最新のシステムにも捉えきれない事態をも警戒しながら、慎重に操縦を行っていた。


 やがて、ミーティアのシステムが、金属反応の塊を捉え、レナに警告音でそれを知らせてきた。


 バイザーデイスプレイ上に強調表示されたその金属反応の画像をレナは拡大すると、それは、小惑星の表面にぴったりとくっついてうまく偽装を行ってはいたが、明らかに船の形をしていた。

 宙賊の密輸船、ブリッグだ。


「見つけた! 」


 レナは不敵に微笑むと、ミーティアのブースターに点火して、ブリッグに向かって接近を開始する。


 ブリッグは恐らくレナが追跡してくることを警戒して息をひそめていたはずだったが、レナに発見されたことを悟ると、すぐさま停泊していた小惑星の表面を離れ、小惑星帯の中をジグザグに逃げ始める。

 同時に、武装を起動して、迎撃態勢を取った。


 ミーティアのシステムがブリッグから放たれた射撃管制レーダーの電波をとらえ、レナに敵から捕捉されていることを知らせる警告音を発する。


「やっぱり、レーダー、ちゃんと動くじゃない! 」


 レナは自分を騙(だま)そうとした宙賊に怒りを覚えつつ、ミーティアに回避運動を取らせた。


 直後、ブリッグから放たれたレーザー砲の光線が、先ほどまでミーティアがあった空間を突き抜けていく。


「ECM作動! それから、全火器の安全装置解除! 」


 レナが声で指示を与えると、ミーティアのシステムはブリッグから浴びせられる射撃管制レーダーの電波を妨害するべく、自機の装置を使用してジャミングを開始する。

 同時に、暴発を防ぐためにロックされていたミーティアの兵装の安全装置が解除され、いつでも発射できるようになった。


 レナのミーティアに装備されているのは、ベルーガに装備されている艦載砲と同じ口径で威力もほぼ等しい、75ミリ中性子ビームライフルだった。

 それを、機体の右手と左手に1丁ずつの、2丁持ちをさせている。


 MFは宇宙空間に存在する様々な環境と状況に応じて多様な兵装を選択できる汎用性が特徴の機動兵器だったが、この、中性子ビームを発射するライフルはもっとも基本的な兵装だった。

 MF同士の戦闘だけではなく、対艦攻撃にも使用することができる。


 それを2丁持ちしているのは、レナの性格だった。

 守るより、攻める方が好きなタイプなのだ。


 レナはブリッグから浴びせられる射撃を回避し、小惑星を盾にしながら接近を続けた。

 彼女の操縦とミーティアの機体性能が優れているということもあったが、ブリッグからの攻撃は精彩を欠いた。

 ミーティアのシステムによるジャミングも効果を発揮できているらしかった。


「上に2門、下にも2門! 艦首側には、中性子ビーム砲が1門! 」


 レナはブリッグからの攻撃を受けながらも冷静にその武装を数え、自分がどれを優先して攻撃するべきかを素早く計算した。


 そして、レナは小惑星の陰から飛び出しざまに、ミーティアの両手に装備したライフルを連射する。

 レナは敵からの反撃を受けない様に機体を操作しつつ、次々と目標を破壊していった。


 狙いは、ブリッグの武装と、射撃管制レーダーのみだ。

 ブリッグの船体を狙わないのは、レナは宙賊を憎み軽蔑してはいるものの、皆殺しにしたいとまでは考えていないということと、宙賊は生きたまま、船もなるべく無傷で当局に引き渡した方が、受け取れる賞金の額が高くなるからだ。


 ブリッグもレナと同様にECMを作動させ、ミーティアの射撃システムを妨害しているはずだったが、新鋭機であるミーティアのシステムは優秀で、その射撃は正確だった。

 ミーティアから放たれた中性子ビームはブリッグの兵装と射撃レーダーだけを射貫き、船体にダメージを与えないまま、無力化してしまった。


 ブリッグの宙賊たちに被害は出なかっただろう。

 ブリッグに装備されていた武装は全て無人砲塔にまとめられており、レナが撃った場所には誰もいないはずだった。


 そして、ブリッグは、レナに反撃する手段を全て失った。


「降参しなさい! 勝負はもう、ついたわ! 」


 レナはミーティアをブリッグの前方に移動させると、通信回線を開いて、ブリッグの宙賊たちに命令した。

 通信システムがある場所は攻撃していないから、ブリッグの乗員たちにレナの声は聞こえているはずだった。


 しばらくして。

 レナが威嚇のために2,3発ビームを撃とうかしらと考え始めた時、ブリッグの女船長から返答があった。


「分かった、参った、降参だよ、賞金稼ぎさん! 降参するけど、条約は守っておくれよ!? 」

「ええ、もちろん。善処するわ」


 抵抗を断念し機関を停止したブリッグの姿を見て、レナはそう答えてから、ほっとしたように深呼吸をした。

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