DEVIL HUNTER ~普通のJKの私に悪魔退治なんて無理なんですけど!~

第1話 不思議な力


―――


「もうすぐ期末だよ……やる気なーし。」

「ホントそうだよね。勉強なんか将来役に立つのかな。あ、ねぇ。美佳。あんたさぁ、この間言ってたイケメンとはどうなったの?」

「どうって?」

「だから~、付き合ったりとかさ……」

「あぁ、してない、してない。だって性格超悪かったしこっちからさよならしてやったよ。」

「へ、へぇ~……でもさ、彼氏欲しいよね。せっかく花のJKになったんだから。」

「由希は一生無理だよ。性格は男っぽいし女らしいとこなんて微塵もないし。ま、あたしぐらいになったら男なんていくらでも寄ってくるけどね。」

「何よ、それ!」

 私は笑いながら美佳の頭を拳骨で殴る真似をした。



 あ、紹介が遅れました。私は成沢由希。高校一年生の16才。ちょっと毒舌だけど憎めない親友の高地美佳と普通のJKライフを送っていた。


 そう、この時までは――




「ごめんってば~」

「いいや、許さん!」

 誰もいない教室内を逃げ回る美佳を追いかけてちょうど捕まえたところだった。


 急に辺り一面がオレンジ色に光って私達を包み込んだ。


「な……何?」

「まぶしっ……」

 二人して思わず目を細めた時、その光の中から人間らしき物体が出てきた。


「え?」

「な、何?」

 その人物は私達の方に近づいてきて、徐に私の手を握った。


「成沢由希さん。貴女を『DEVIL HUNTER』に任命します。」

「はい?」

「何?そのデビル何とかって。」

 呆気に取られている私と何故か興味津々な美佳。そんな私達を尻目にその人はさっきと同じく淡々と話す。


「デビルハンターです。悪魔を退治する人の事ですよ。」

「悪魔を退治?私が?」

「へぇー、面白そう!ね、格好良いお兄さん。あたしは?由希より役に立つよ。」

「いいえ。DEVIL HUNTERになるには素質が必要なんです。貴女にはそれがない。」

「えー?何で、何で?わかんないじゃん。修行?とかすれば目覚めるかも。ねぇ、ダメ?」

 美佳の得意のぶりっ子作戦にも靡かず、その人は私の手を握りしめたまま私の瞳をじっと見つめてくる。


「えっ……と、あのー……」

「やっと素質のある貴女を見つけたんです。お願いします。」

 そう言いながら深々と頭を下げる。私は慌てた。


「頭を上げて下さい!そんな事されても困ります。私に悪魔退治なんて出来る訳が……」

「大丈夫。僕も一緒ですから。」

「だけど……」

 躊躇いがちに目を逸らす。


 いきなり現れて『DEVIL HUNTER』とか悪魔を退治とか素質があるとか言われてもね……

 そもそもこの人一体何者なの?


 でも……美佳の言う通り確かに格好良いし。嘘を言ってる風には見えないしなぁ。どーしよ……


「騙されたと思ってついて来て下さい。」

「え?何処に……」

 私の悪い癖である優柔不断を発揮していると突然腕を引かれた。


 戸惑っていると次の瞬間、私は宙に浮いてその格好良いお兄さんと一緒に光の中に吸い込まれていった。


「由希!由希ーーーー!!」


 美佳の私を呼ぶ声が遠くから聞こえた……




―――


「ちょっと!何処に行くの?ねぇ!?」

「……うるせぇな。いいから黙っとけよ。もうちょいで着くから。」


 ん?何か言葉遣いがさっきと大分違うような……

 き、聞き間違いだよね。だってあんなに丁寧な喋り方で柔らかい物腰だったんだもん。

 こんな、乱暴な事言う訳が……


「これって……空飛んでんの?」

『黙っとけ』って言われたけど、今のこの状況を確認せずにはいられない。

 だって本当に空飛んでるんだから!


 右手はこの格好良いお兄さんに掴まれてるけどその他は無防備のまま。そっと薄目で下を見ると遥か彼方に地面が見えて、今更ながら足がすくむ。


「ねぇってば!」

「見りゃわかんだろ。くだらねぇ事聞いてんじゃねぇよ。」

「…………」


 聞き間違いじゃない!もしかしてこっちが素って事?うわ~、騙された……


「あのー、つかぬ事をお聞きしますが……」

「何だよ?」

「いえ、あの……」

「面倒くせぇ奴だな。言いたい事あんならさっさと言えば?」

「な、何でもありません……」


 凄い顔で睨まれた……美人が怒ると恐いってこういう事か。

 思わず顔を伏せた時、深い溜め息が聞こえた。


「はぁ……さっきと違うって言いたいんだろ?」

「え?」

「悪いがこっちの方が地だ。あれは社交辞令。第一印象が大事だからな。」

「そ、そうだったんですか……」


 やっぱり……でもこうも早く素を出されて第一印象も何もないんじゃ……


「敬語やめろよ。タメなんだし、これからのパートナーだしな。」

「え!?タメって事は……あなた16才?高一?」

「あぁ。魔法学校の高等部の一年だ。」

「魔法学校?」

「詳しい事は後だ。ほら、着いたぞ。」

「げっ……何ここ?」


 そこは荒れ地帯だった。砂漠のように何もなく、でもところどころに黒い何かがあった。


「ここには元々綺麗な街があったんだ。それなりに栄えてて、国民もみんな幸せに暮らしていた。だがある日突然悪魔が侵略してきて、あっという間にこのザマさ。ほら、そこに黒いのがいるだろ。あれが悪魔だ。ここにいるのは低級魔と呼ばれるもので、力はそんなに強くない。けれど奴らは集団で行動し、こういう栄えた街を狙って人間や建物を喰っちまうんだ。」

「酷い……」

「こいつらを退治して街を元に戻すのが俺らの仕事の一つ。それをお前にも手伝って欲しいんだ。」

「言ってる事はわかったけど、どうして私なの?」

「言っただろ。お前には素質があるんだ。この世界に悪魔を倒せる力を持つ者は少ない。半年かかってやっと力を持つお前を探し当てたんだ。だから、頼む。力を貸してくれ。」

「と、言われても……」

 格好良いお兄さん、タメだからお兄さんじゃないか。そのイケメンに再び頭を下げられて、私は戸惑った。


「でも……」

「という訳でだ。今ここにいる奴らをさっさとやっちまおうぜ。」

「はぁ!?」

 さっきまで殊勝な感じだったのに、急に腕まくりしながらそんな事を言うイケメン。私は口をあんぐりと開けた。


「マ、マジで?」

「もちろんだ。俺はいつでもマジだからな。」

 そう言うとイケメンは急に真剣な顔になって、両手を胸の前で組んだ。

 すると胸元にかけてあったペンダントが光輝いた。


封印sealed!」

 イケメンがそう言った瞬間、ペンダントの光が低級魔を包み込み、光の終わりと共にあちこちにいた黒い物体は姿を消した。


「すっ……ごーい!凄い、凄い!格好良いじゃん。」

「バーカ!お前もやんだよ。ほら。」

 私に自分のペンダントを渡して微笑んでくる。

 ちょっと、ほんのちょっとだけね!ドキッとしちゃったじゃん……


「笑った……」

「何だよ?それよりあと数匹残ってるから。」

「う、うん……」

 さっきの彼の真似をして胸の前で両手を組む。そしてお腹に力を込めた。


封印sealed!」


 シーン……


「あれ……?」

 瞑っていた目を開けて辺りを見回すがペンダントから光も出なければ、二、三匹いた低級魔もさっきと変わらず蠢いている。


「ちっ……まぁ最初はこんなもんか。しょうがねぇな、貸せ。」

「あ、はい……」

 ペンダントを無理矢理奪われる。呆気に取られているとイケメンはさっさと呪文を唱えて低級魔を一匹残らず消してみせた。


 ……っていうか、今舌打ちしたよね。


「そう言えばまだ名乗ってなかったな。俺は柊木志月。よろしくな。」


 突然右手を差し出される。舌打ちされた事で拗ねてた私はわざと手を出さなかったけど、無理矢理掴まれて前のめりになった。


「うわっ!」

「それ、お前のだから。無くすなよ。」

「へ?」

 手の中に何かを握らされた感触がして、体勢を立て直しながら手を開いてみた。


「これ……」

 それはイケメンのペンダントと同じデザインのネックレスだった。


「お前はそれで悪魔を封印するんだ。まぁ、何回か実践を踏めば出来るようになる。」

「は、はぁ……」


 不安しかないんですけど……


 私はネックレスを首にかけながら重い溜め息をついた……




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