第14話 兄と従兄

派手過ぎない化粧を施してもらい、長い金髪は結い上げられ大粒のサファイアが嵌められた銀色のティアラが乗せられている。そして上質な布と糸で作られた着心地の良い純白のウェディングドレスを纏う。

鏡に映る自分はまるで自分じゃないと思ってしまうほど美しく仕上がっていた。


「本当に凄いわ」


エディングが贈ってくれたウェディングドレスをよく見ると随所に施されているのは帝国の国花である百合の花だった。

もちろん凄いのは刺繍だけじゃない。

ドレス自体の縫い上げも職人が丹精込めて丁寧に作ってくれたものだろう。素人目で見ても素晴らしいものであるとよく分かる。


「しっかり着飾ればそれなりに見えるものだな」

「素直に綺麗って褒めてよ」


嫌だと笑うのは今朝こちらに来てくれた兄ウィルベアトだった。

急遽決まった婚姻であった為、予定がある両親は来れなかったがウィルベアトだけは来てくれたのだ。


「レイ、綺麗だよ」

「ありがとう、アル」


笑顔で褒めてくれた人物の名はアルウィン・バナン・ベシュトレーベンだ。

我が祖国ベシュトレーベン王国の第一王子で王太子。そして私とウィルベアトの同い年の従兄だ。

輝く金髪に穏やかな新緑の瞳を持つ美丈夫。王国の王族代表で来てくれたのだ。


「褒めるなよ、調子に乗るぞ」

「本当に綺麗だから綺麗って言ったんだよ」

「ウィルはアルを見習うべきよ」


全く素直じゃないウィルベアトに笑顔を送ると「うるさい」と返されてしまう。


「レイ、エディング殿下とは仲良くやっていけそうかい?」

「多分?」

「噂通りだったか?」

「違うと思う?」


怖い風貌を持つ人だけど話してみると優しいし、甘い人という印象を受ける。

曖昧な答え方をする私に二人は苦笑いを浮かべた。


「一日で分かるわけないよね」

「それもそうだな」


勝手に納得する二人は立ち上がり「そろそろ行く」と揃って言ってくる。

もう既に招待客達の入場が始まっているのだ。遅れるわけにはいかないのだろう。


「レイ、頑張ってね」

「緊張して転ぶなよ」

「アル、ありがとう」


意地悪を言うウィルベアトを無視してアルウィンだけにお礼を言う。ウィルベアトは罰が悪そうに「悪かったよ」と呟いた。

私達を見ていたアルウィンは悲しそうな表情を浮かべる。


「アル、どうかしたの?」

「ううん。二人の面白いやり取りが見れなくなると思ったら寂しくてね」


国が一緒なら三人で会う事も容易かった。でも、今日から違う。その事実を突き付けられて胸の奥が痛む。

どう返せば良いのか分からずにいるとウィルベアトが「馬鹿らしい」と呆れた顔をする。


「また会えば良いだろ。死に別れるわけじゃあるまいし、悲しむなよ」


やれやれと首を横に振るウィルベアトに一瞬呆ける。

私とアルウィンは顔を見合わせて同時に笑い出した。


「それもそうだね」

「ウィルのくせに良い事を言うじゃない」

「くせに、は余計だ」


顔を逸らすウィルベアトはらしくない発言をしてしまったと頰を赤く染める。

その姿が面白くてまた笑った。


「簡単には会いに来れないでしょうけどまた三人で会いましょう」


私の言葉に二人は笑顔で頷いた。


「ああ、言い忘れるところだった。レイ、結婚おめでとう」

「おめでとう。離婚されないように頑張れよ」


相変わらず口の悪いウィルベアトの背中を小突き、アルウィンと握手を交わす。


「二人ともありがとう」

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