第9話 寝室

「言い忘れていたがこの部屋はレイの部屋だ。好きに使ってくれ」


入った時に言ってください。

ガリオン、イーゴンを始めとする男性の立ち入りを禁止していたのは私の私室だったからだ。

皇族であろうと貴族であろうと私室に配偶者、婚約者以外の異性を連れ込むのは醜聞を招く。

それにしても…。

部屋の中を見ると壁紙、調度品の全てが私が好きな色である白基調になっている。

とても居心地の良さそうな部屋だ。

私が白色を好きって教えた記憶はないのだけど、当てずっぽうかしら。


「レイ、こっちに来てくれ」


立ち上がったエディングに手招きをされてついて行くと入り口とは違う真っ白い扉が存在していた。

おそらく隣の部屋に繋がっているのだろう。エディングが扉を開くとだだっ広い部屋が広がっていた。

中には若草色のソファと天蓋付きの豪奢なベッドが置かれている。

ここはもしかして…。


「私とレイの寝室だ」


ああ、やっぱり。

分かっていたけど本当に同じ部屋で眠るのね。

ここで私達は毎夜を過ごす事になるのだろう。実際に部屋を見せられると夫婦となる事を余計に意識させられる。

上手くやれるのだろうかと考えているとこちらの気など知らないエディングが口を開く。


「今日は君一人で使ってくれて構わない。私は自分の部屋で眠るから」

「自分の部屋ですか?」

「こっちだ」


私の部屋と真逆の方に向かって歩き出す。

寝室の中にある黒い扉を開けると黒基調の部屋が存在していた。

さっきの部屋は私の私室。寝室を通り抜けた先にある部屋と言ったら一つしかない。


「ここは私の執務室だ」


エディングの答えは予想通りのものだった。

中を覗くと端に設置されている簡易ベッドが目に入る。どうして執務室にベッドがあるのだろうか。

寝る為だろうけど隣は寝室なのだ。そちらで寝れば良いのに。


「今まで使っていた寝室は遠くてな。基本的にはあそこで眠っていた」


私が眺めていたからかエディングはベッドについて説明してくれた。


「先程の寝室を使用されたら良かったのでは?」

「あれを用意したのはつい数日前だ」

「そうですか…」


それなら納得だ。

ただもっと近くに寝室を構えたら良いのにと思ってしまったのは仕方ない事だろう。それよりも執務室という事は特別な用事がない限りは訪れるべき部屋じゃないだろう。


「ここにはあまり訪れないようにしますね」

「何を言ってる。君ならいつでも出入り自由だぞ」


貴方こそ何を言ってるのでしょうね。

普通に考えたら公務の用事以外で来るなと言うべきところだ。遠回しにお茶でも淹れに来いとお強請りされているのだろうか。よく分からない。


「むしろ会いに来てくれ。特に書類仕事が溜まっている時に会いに来て貰えると嬉しい」

「えっと…」


書類仕事が溜まっている時に訪れたら苛立たせてしまうような気がするのだけど。

どう答えたら良いのか分からず反応に困っていると後ろから抱き締められてしまう。


「癒しが欲しいんだ」


耳元で囁くように言われる。

癒しって私だと癒やされないでしょう。

そう思うが口には出せない。それよりも抱き締められている事の方が気になる。

どうして抱き締めてくるのよ。


「お邪魔にならない程度に訪れさせてもらいますね」


早く解放して欲しくて答えを返すと「君を邪魔に思う事はない」と言われてしまう。

邪魔になるならないじゃない。用もなく執務室に訪れる事自体が間違っているのだ。


「そういう問題じゃないです」


仕事の邪魔をしたくないって気持ちくらい察してください。

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