21話 ヒーローの定番


《タケシ!あれを見て!》


ーーーん…?あれか!竜王って野郎は!!なんか紫色に光ってるんだけど…怖っ!!


《すっごく禍々しいオーラだ…下に見えるのは、ワイド先生と生徒たちじゃない?》


ーーーほんとだ!よかった、まだ生きてた!しかし、校舎も何もかも吹き飛ばしちまってんのかよ!神聖な学舎をぶち壊しやがって!!竜王だか何だか知らんが、絶対倒してやる!!


《その意気だよ、タケシ!あとは僕の合図でお願いね!!》


ーーーおう!リーナ!!タイミングは任せるからな!!


《うん!!って言ってる側から竜王の奴、また魔法を放とうとしてる!急がなきゃ、ワイド先生たちがやられちゃう!!》


ーーーあれ、魔法陣てやつか?くそぉっ!あいつに近づいたら、セミオートになるって学園長先生は言ってたけど、どれくらい近づけばいいんだ!?早くしないと、みんなやられちゃうじゃないか!!


《…そろそろのはずなんだけど…あっ!きたよ、タケシ!体を動かせるようになった!!》


ーーーよっしゃぁ!!行くぜぇぇぇぇぇぇ!!!遅れて間に合うのが、ヒーローの定番ってもんだぜ!!


《行けぇぇぇぇぇ!!!》





「喰らえぇぇぇぇ!イビルブラストォォォォ!!」



(…くっ、万事休すか。)


「先生ぇぇぇぇぇぇ!!!」


(マリンたちの声だ…すまない、みんな。君たちだけでも、救いたかった…)



そう言って、自分めがけて飛んでくる魔法を、ワイドは強い眼差しで見つめる。



(お前がわたしを殺そうとも…必ず、必ず誰かがお前を討ち滅ぼしてくれるはずだ。俺は…それを信じる!!)



ワイドがそう心で呟いたその時であった。

辺りが紫の光に包まれていく中、白く輝く球体が自分の目の前に突如として現れたのだ。


しかし、それを認識した途端、急に意識が遠のいていくのを感じる。それに合わせるように、白い光も輝きを増していくようだ。



(…これは…魔力欠か…この感じ…以前もどこかで…同じことが…)



薄れゆく意識の中、霞んでいくワイドの視界には、いつぞやに見たそれが映っている。



(…最後に見た物が、黒板消しとは…な)



その瞬間、ワイドの意識はそこで途切れた。





ジマクは目の前で起きたことに、まだ頭が追いついておらず、必死にその理由を探していた。



(…なんだ?何が起きたのだ?俺の魔法が…チョークに当たる前に消えた…?)



理解不能な出来事に、背筋に嫌なものを感じる。



(…チョークの奴が何かした?確かにそれはあり得る…奴は元宮廷魔導士だ。死力を絞って今のを塞いだ可能性は考えられるが…)





ーーーあいつ、めっちゃ考えてんな!今なら隙だらけじゃないか?いけるんじゃね?


《今はダメ!動いたらバレちゃうもん。ベストは、あいつがワイド先生に近づいた時…僕らの近くに来た時だよ!》


ーーー了解!リーナの合図に従うよ。でも、本当に近づいて来るのかなぁ?


《来るよ、絶対!だって今、あいつは自分の魔法がいきなり消えて驚いてるもん…おそらく、ワイド先生が何かしたんだろって、そう考えてる。だから、物理的な方法でトドメを刺しに近づいてくるはず…だって、また魔法を消されるのが怖いからね!!》


ーーーなっ…なるほどな。しかしさ、リーナ…お前って本当にクリーナーの付喪神なの?なんかすっごい策士に見えてきた…


《えっへん!でも、その状況を作り出せたのはタケシのおかげだからね。吸引魔法の精密な操作のおかげで、ワイド先生やマリンたちを魔力欠で眠らせつつ、あいつの魔法を吸い取れたんだから!》


ーーーそうかな?褒められるとなんか嬉しいな!!覚悟決めて勇気を出した甲斐があったぜ!!そんじゃまぁ、あとは奴がこっちに近づいてくることを祈って…


《…なんて言ってる間に、あいつ降りてきたね。…よし、ワイド先生に近づき始めたよ。そのまま…そのまま…来ぉい来ぉい…》


ーーー怖ぁ…なんかリーナが妖怪か何かに見えてきた…。ってか、付喪神って妖怪だっけか…いや、神さま?精霊さま?どっちなんだろう…





(念には念を入れて…チョークは直接トドメを刺そう。何度も魔法をかき消されても面白くないしな…)



ジマクはそう考えて、地面へと降り立った。そしてそのまま、チョークへと近づいいていくと、あるものが目に入った。



(黒板消し…?なぜこんなところに?)



一瞬だけ、ジマクに疑問が浮かぶ。


学園自体、吹き飛んでいるのに、無傷な黒板消しがそこに転がっているのだ。本来の彼であれば…疑り深い彼であれば、気づいたはずの違和感。しかし、強大な力を手にした彼には、その違和感を感じ取ることはできなかった。



(…ふん、まぁ良い。今はチョークにトドメを刺す事が先決だ。)



そして、その黒板消しの横を過ぎ去ろうと足を踏み出した瞬間、近くで少女の大きな叫び声が聞こえてきた。



《タケシ!!今だよ!》


「なっ…何だ今の声は?誰だ!!」


ーーープロテクションサークル!!!


「…!!?球体の障壁…?なんだ…誰の仕業だ?いったいどうなっているのだ!!?でぇやぁ!!!」


ガツンッ


「…くっ、硬いな…なんと強靭な障壁だ!わたしの手に傷をつけるとは…しかし、これならどうだ!!ハァァァァッ!」


ドォォォンッ


「グアッ!?こっ…これでも無理だと!?何なのだ…これは…」


《フッフッフッフッフッ》

ーーーフッフッフッフッフッ


「だっ…誰だ!?笑っているのは!」


《驚いているようだね!》


「どこだ!?姿を現せ…!卑怯であるぞ!!」


ーーーはぁ…悪役ってさ、どうしてすぐ相手のことを『卑怯だ』とか言うんだろな…自分だって卑怯なことしてるのになぁ。こういうのってなんて言うだっけ…セオリー?定石?小説とかアニメでよく聞くよね〜ハハハ!


「どっ…どこだ!どこにいる!!くそっ!!ハァァァァッ!」


ーーーあ〜ダメダメ!そんな物騒なもの…こんな狭い場所でそんな何発も打たれちゃたまんないでしょ…それっ!


「なっ…魔法が発動できん!これは…魔力が吸い取られているのか?!」


《ご名答!こうなったら、もう君は何もできないよ!大人しく観念しなさい!!》


ーーーちなみに、俺たちはここにいるよ!お〜い、下だよ下!


「…下…だと?下には黒板消しが…あるだけ…」

(いや、そんな事があるわけなどない……無機物に意思があるなど…ましてや、ただの黒板消しに、これほど強力な障壁と吸引魔法が使えるはずなどないのだ…)


ーーーリーナ、こいつやっぱり信じてないよ。めっちゃ考えてるもん。


《まぁ、そりゃそうだよね。黒板消しにこんなことされてるなんて、普通思わないもんね!》


「…?!この黒板消しが…しゃべっておるのか…?いや!!そんなことあるわけがないのだ!…どこだ?どこかにこれを操る本体がいるはずだ!姿を現せ!!」


ーーーこれが普通の反応だよね…やっぱり学園長先生がおかしいんだよ。普通は黒板消しがしゃべるとか信じないもん。


《でも、それを受け入れちゃうところが、お爺ちゃんのすごさであり、人望の厚さにつながってるんじゃないかな?》


ーーーおっ!リーナ、いいこと言うね!まぁ、半分は女神狂徒な面も否めないが…


《だよね!アハハハハ!》


「私を差し置いて、世間話などするな!!ぐおぉぉぉぉぉぉ!!」


ーーーありゃ?こいつ、なんか力を溜め始めてない?こっ…この感じ、ちょっと…やばいんじゃね?リーナ…どうすんの?!


《本当だ!…ん〜でもこの感じだと、魔力を全身から一気に放出して、障壁を壊そうとしてるみたいだね。大丈夫大丈夫!さっきみたいに吸い取っちゃおうよ!》


ーーーなんか…リーナ、楽しそうだな…


《めっちゃ楽しい!!》


「さっきからごちゃごちゃと…私を愚弄…するなぁぁぁぁぁぁ!!!」


ーーーえい!


「…!?…また吸い取られた?…いや、まだまだだぁ!」


ーーーそれ!


「うおぉぉぉぉぉ!!」


ーーーセイッ!


「がぁぁぁぁぁぁ!!」


ーーーとりゃッ!






「カッ…カハッ、ま…だだぁ…ぬぉぉ…」


ーーーほい!


《…あのさ〜タケシの方が楽しんでるじゃない?》


ーーーえ?…うんまぁ、なんか癖になるよね。見てて面白いというか…


「ぐぬぬぬぬ…」


ーーーてい!


《…でもさ、この人どんどんやつれて…というか、老けていってない?》


ーーーあ〜確かに…お〜い、大丈夫かぁ?


「ばっ…馬鹿…にぃ…すっ…するなっ!」


ーーーてやっ!


「…ぐっ、ぐふぅ…ハァハァ…」


ーーーしっかしまぁ、どんだけ吸い取りゃ終わるんだ?もうかれこれ、1時間以上は吸い取り続けてるけど…


《それだけ魔力が多いんだね。でもそろそろ終わりにしてあげたら…?なんか可哀想になってきちゃったよ。》


ーーーそうだなぁ…じゃあ、そうするか!怖がって来てみたけど、リーナのおかげで無事倒せそうだな!おい、オッサン!!聞こえるか?


「…ハァハァ、さっ…最後まで…姿を…見せん…とは…」


ーーーだから!!あんたが戦ってたのは俺だよ、俺!!ほら!目の前に浮かんでるだろ?見える?


「…もはや…幻覚が…こう…なれば…最後の…手段だ…」


ーーーん?最後の手段だって?またまた定型文なんか言っちゃって!オッサン、大丈夫?


《タッ…タケシ!!その人、なんかするつもりだよ!!!》


ーーーへっ?

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