20話 万事休す


紫色の光が一瞬、ブラックボード学園で煌めいた。そして、次の瞬間には大きな爆発が…爆風と衝撃が…周りの街を飲み込んでいく。


学園を中心に発生した大爆発。

それは空から見れば、水面に起きた波紋のように、建物を…人々の生活を飲み込んでいった。



ガラガラッ…


「…ゴホッゴホ…タケシ?リーナちゃん?だっ…大丈夫かの…?」


《うっ…うん!僕らはお爺ちゃんが庇ってくれたから大丈夫だけど…》


ーーー学園長先生こそ、大丈夫か?!っていうか、なんだったんだ…今の爆発は!?


「…おそらくじゃが、さっきの竜王が何かしたんじゃろ…とんでもない威力じゃ…街が…ほとんど吹き飛んでしまった…」



辺りを見れば、建物はほとんど崩れ落ち、いろんなところから、悲鳴や助けを求める声が響き渡っている。



ーーーなっ…なんだよこれ。竜王って奴がやったのか?なんでこんなこと…


「理由はわからん…が、こんなことができるのは竜王しかおらんだろうな…しかしこれほどとは…」


《今のって学園の方からだよね?みんな大丈夫かな…》


ーーーくっ…!助けれる人たちを救助しなきゃ!学園長先生!!


「…そうじゃが、まず元凶をどうにかせんと再びあの爆発を起こされたら、今度こそみんな死ぬぞい。」


ーーーそうだけど…!目の前で助けを求めてる人がいるのに…!!くそっ!!俺は何もできないのかよ!!!


《…タケシ》


「タケシよ、そんなことはないぞ。お主はお主にしかできないことをやるのじゃ…あれを倒せる可能性があるのは、今やお前だけじゃからな。皆の救助はわしがどうにかしよう…」


ーーー学園長先生…わかった。俺も覚悟を決めるよ!!奴は必ず俺が倒す!!


「頼むぞ…リーナちゃん、奴を倒すにあたり、わしに手伝って欲しいこととはなんじゃ?先程言っておったろう?」


《…えっ?!…あぁ、それには奴を倒す作戦を説明しないと…》


「手短に話しておくれ…」



《…と言う感じかな。お爺ちゃんになら難しくないと思うんだけど…》


「なるほど…確かに奴の目の前までお主らを誘導することは、ここからでも出来るが…防護障壁の方はちと、難しいやもしれんな…距離がありすぎる。」


ーーー学園長先生でも無理か…でもそれができないとなると、前と一緒で周りにもかなりの影響が出ちゃうな…


《…そうだね。だけどどうしよう…他に方法が浮かばないよ。》


ーーーそういえば、ワイドは?あいつならできるんじゃないか?


「…できないことはない。…が今や奴の生死も含め、学園の状況がわからんからな。生きておればいいが…動けないもしくは死んどる場合も否めんからのぉ。それでは結局一緒じゃ…」


ーーー確かにそうだな…はぁ…結局振り出しかよ。


《…ごめんね、タケシ。》


ーーーリーナが謝ることじゃないよ…仕方ない!他に手を考えよう!!とりあえず俺とリーナは学園を目指すぞ!!


「…わしも己の力の無さを恨むわぃ…ん?タケシよ、それは何じゃ?」


ーーーえ?それって…どれ?


「ほれ、今まで気づかんかったが、そのバンドかの?その裏に付箋のようなものが…」


《…あれ?ホントだ!全然気づかなかったよ!…しかも、何か書いてあるね!》


ーーーえ?どこどこ?バンドってみんなが手をはめるとこのやつ?…あっ!ホントだ!…一体誰がこんなものを…えっと、なになに?


『いい道具をあげるよ。ライブラリと約束してたしね。"プロテクションサークル"って言う神界でよく使われている防犯グッズだ。リーナのプランに役に立つと思うよ。ツクモより』


《それってツクモ様からのメッセージだね。しかも神具付きだ…》


「なんと…粋なお方じゃのぉ。」


ーーー最後のニコニコマークがイラっとするけどな…しかしこれ…"プロテクションサークル"だっけ?どうやって使うん…うっ…うわ!?


「なんじゃこれは…球状の膜が周りに広がったぞい?!」


《これは…すっ…すごいよ!この前、女神様がタケシに張った結界と同じくらい強度があるよ!》


ーーーそっ…そうなのか?…しかし、何で急に発動したんだ?


「お主が"プロテクションサークル"と言ったからではないか?おそらく、その言葉がトリガーなんじゃろ。」


ーーーなるほど…だけど解除は?どうやったら消えるんだ…これ?


《えっと…あっ!付箋の裏にもメッセージがあるよ。》


『追伸、黒板消し君のことだから、ついつい"プロテクションサークル"って言っちゃって、発動した事に驚いていることだろうね。解除したいときは"リリース"って言ってね。僕ってとっても親切だね!』


ーーーなんかやっぱりムカつくな…しかも自分で親切とか言いやがって…リリース!


「ほっ…解除されたのぉ。」


《よぉし!これでなんとか準備が整ったね。あとは作戦を決行するだけだ!そうとなれば、タケシ!急いで学園に向かわなきゃ!!》


ーーーそうだな!まずはその竜王ってやつを倒して…それからツクモに文句言ってやる!!俺の静かな異世界学園ライフを、絶対取り戻してやるからな!!


「よし!では、手筈通りに学園まで…竜人のところまで誘導するからのぉ。ある程度奴に近づいたら、セミオートになるよう設定しておくから、そこからは自分たちで行くのじゃぞ!!」



ライブラリはそう言うと、タケシたちに魔法をかけた。すると、今までにはないほどのスピードで、タケシたちは学園に向けて飛び去っていった。



「…お二人さん、頼んじゃぞ。」



ライブラリはそう言うと、街の人々の救助に向かうのであった。





爆発の中心地であった学園。

あたり一面が焼け野原となり、学園の建物もほとんど残っていない。


崩れた建物の所々から、呻き声や助けを呼ぶ声が力なく聴こえてくる。


まさに阿鼻叫喚…地獄絵図のような風景が、そこには広がっていた。



「グッ…グハッ…」


「せっ…先生!!大丈夫ですか!?」



両手を広げて立ちすくんでいたワイドは、片膝をつき、座り込む。肩で息をするワイドに後ろの生徒たちが駆け寄ると、エミリアが声をかけた。



「だっ…大丈夫だ…ハァハァ。クラスのみんなは…無事か?」


「…はい、うちのクラスは…」


「そうか…すまない。学園の全体に防御障壁を展開したが…グッ…」


「…分かっています。先生も無理しないでください…」



ワイドはとっさの判断で、学園全体に防御障壁を張り、講師や生徒全員を守ろうとしていた。しかし、その甲斐虚しく、ジマクの攻撃に防御障壁はかき消され、学園ごと吹き飛ばされてしまったのだ。


唯一、防御障壁の中心であったワイドの後ろは障壁が他より厚く、マリンやエミリアたちは一命を取り留めていた。



「フハハハハ!見たかぁ!これが俺の力だ!しかし、お前は強欲だなぁ…チョークよ。」



ジマクは宙に浮いたまま、ニタニタと笑みを浮かべている。



「全部を守ろうとは、お前らしいよ。…だが、そんなのはただの偽善だ。結局、守れていない…希望を与えるだけ与えて、期待させておきながら失望させるなど、何という偽善者だ…ハハハハハ!」


「きっ…貴様にそんなことを…言われる筋合いはない。ハァハァ…こんなことをして、何になるのだ…グッ」


「言ったであろう?これは、お前への恨みだ、と。それ以外に意味はないのだよ。これは全てお前のせいなのだ。」


「そんなの!たっ…ただの逆恨みじゃない!」



ジマクの言葉を遮るようにマリンが叫んだ。



「…ほう?なかなか強き意志を持った生徒もいるものだな。だがな小娘よ…私の逆恨みなど、どうでも良いのだ。この結果はチョークが招いたもの、チョークが私を生かしたからこうなったのだ。」



マリンは怯えながらも、ジマクをじっと睨みつけている。



「チョークのせいで講師も生徒も死にかけている、チョークのせいで学園は無くなってしまった、チョークのせいで…ヒューマニアは滅びるのだ!!!フハハハハハハハ!!!」



笑い声と共に、ビリビリと大気を揺らすような衝撃が広がっていく。

生徒たちは悲鳴をあげ、ワイドも立っているのが精一杯なほど消耗している。



「…さて、そろそろ終わりにしよう。ワイドよ、最後に言いたいことはあるか?」



ジマクはそう言いながら、右手で魔力を練り始める。天気が良かった空には、それに同調するようにドロドロとした暗雲が拡がり始め、雷鳴が轟いていく。



「くっ…これまでか…せめて、生徒たちだけでも逃さねばッ」



ワイドは残った力を振り絞り、防御障壁を最大限に拡げ、生徒たちへと大きく叫ぶ。



「お前たち!私が命を賭して退路をつくる!だから…その間に逃げるんだ!!」


「先生っ…!でっ…でも!!」


「いいから早くしろ!!お前たちはて俺が守る!!!」



その言葉に生徒たちは、ゆっくりと退がり始める。



「言い残すことはそれでいいか?…残念だ。ワイド=チョークよ、俺様の…勝ちだ!」



そう言い終えると、紫色に輝く右手から巨大な魔法陣が現れる。



「塵と化すがいい!イビルブラストォォォォ!!」



そうして、強大な魔法が放たれ、ワイドたちに襲いかかるのであった。

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