14話 お茶目なナンセンス
「コホンッ…なるほどな…事情は承知した。しかし、神界のどなたかが、なぜ学園の生徒にこのような貴重な物をお渡しになったのか…きな臭いのぉ。」
ーーーそうなんですよね…何が目的なんだろう。
「わしにはわからんな…とはいえ、学園の生徒がそのような風紀を乱す行為をしているのを見過ごすわけにはいかんからな。まずは明日、わしからロック=ミステイクに事情を聞いてみるとするか。」
ーーーお願いします。でも、そんな簡単に口を割りますかね…
「ホッホッホッ!元宮廷魔導士であり、尋問官でもあったわしの力…みくびるでないぞ。」
ーーー宮廷魔導士!?ワイドと一緒だ!
「なんじゃ?チョークを知っとるのか。ん?そうか…ここはあやつの講義室であったな…」
ーーーええ…毎日、授業を聞かせてもらっていますよ。
「あやつは教えるのがうまいからのぉ。何、せっかくじゃ!お主のこと、チョークに話を通しておこうか?もっと授業が聞きやすくなるぞ。」
ーーーいやいや!俺のことは内緒にしといて…学園長のことを信用してるのは、女神さまからの推薦だからなんで…授業もコソッと聞ければいいので。
「そうか?やつは信用に足る男だと思うが…まぁよい、お主が望まぬなら話さないでおこう。」
ーーーありがとうございます。
「しかし、意志のある黒板消しとは…非常に興味深いのぉ…お主…我が研究を手伝わんか?」
ーーー学園長の研究…ですか?
「さよう。簡単に言うと、無機物にも意思が宿るのかを調べとる。お主はまさにその最たる例…いや、わしの求める結果じゃからな。」
ーーーでも、俺って女神さまが直接宿したものですよ?自然に宿ったものではないから、例外なんじゃないかな?
「なんと!女神さまが直接とな…確かにそれは例外中の例外であるな…」
ーーーん?そう言えば…一人いたな。自然に無機物に宿った奴…
「それはまことか!?」
ーーーえぇ、呼びましょうか…リーナ?聞こえる?起きてるか?
《ん…あれ?僕…寝てた?何か用かな、タケシ…》
「これは…先ほどから聞こえておった声じゃな。お主の中にいるのか?」
ーーーそうです。彼女は付喪神と言って、ある道具に自然に宿っていました。今は訳あって、俺と共存してますけど…彼女の話は、学園長の研究の参考になるんじゃないですかね?
「ほう…興味深い話ではあるな。」
《なになに?なんの話??》
ーーー学園長の研究に協力してくれないかって話だよ。
《僕が…?!》
「お願いできぬかのぉ。」
《…別に僕は構わないけど。タケシがいいのなら…》
ーーーじゃあ、交渉成立だな。
「それは助かる。わしもお主らのことは一切口外はせんから、安心して学園生活を過ごしてくれて構わん。」
ーーーありがとうございます!やっぱり女神さまが信用しているだけあって、話が早いなぁ!
「そっ…それとのぅ…」
ーーー…どうしたんです?モジモジして。まだ何かありました?
「めっ、女神さまの事なんじゃが…」
ーーーえ?女神さま…?あ〜また、やましい事を考えてるんですか?学園長はエッチだなぁ、もう…
「エッ、エッチ!?!わっ、わしはやっ、やましい事など…!!そんな不敬な事は一切考えとらんわ!!!…ハァハァ…」
ーーーどう見ても考えてるじゃん。ハァハァ興奮してるし…また、鼻血出てますよ…
「ぬぁ…!?じゃっ、じゃが、女神さまじゃぞ?!!!銅像や絵でしか見たことないお方を…この目で…拝むことができるかもしれんのだ!!!こっ、これが、興奮せずにいられるか!!!」
ーーーちっ…近いって。そっ…そんなに凄まなくても…理由はわかるけど、鼻血まで出さなくてもいいような気が…
「頼む!一度でいい!生涯かけて信を捧げてきたその想いを、女神さまはお伝えしたいんじゃ!この通りだ!!」
ーーーちょっ…!学園長!頭を上げてください!わかりました!わかりましたから!!!今度女神さまに聞いてみます!!だから、頭を上げてください!!!
「ほっ!本当か!?」
ーーーええ…すぐにだとめちゃくちゃ怒られるから、少し時間をください…はぁ。
「感謝する!長年願い続けてきたんじゃよぉ〜わしの人生で最大の願いなんじゃ〜」
ーーーなんか…もっとこう凛としている人かと思ってたけど、けっこうお茶目な人なんだな…
《このお爺ちゃん、面白いね!》
暗い講義室には、3人の笑い声が静かに響いていた。
◆
その翌日。
「ふわぁ〜…昨日は驚いたなぁ、まったく。よく考えれば黒板消しが飛ぶとか、誰かが魔法で操作していたに違いないんだ…いきなりで焦っちゃったから、あれも講義室に忘れてきちゃったし…今なら宿直もいないだろうから、早く回収しなくちゃ!」
ロックは、まだ誰もいない静けさの漂う道を、学園へと向けて足早に歩いていた。すると、どこからともなく自分の名前を聞く声がするのに気づいた。
「ミスターミステイク…こっち…こっちじゃて!」
建物の影から半分だけ顔を出して手招きするのは、学園でよく見かける人物だ。
「がっ…学園長先生?!!こんなところで何を…って、いぃ!!!??」
手招きに招かれるまま近づいたロックは、ライブラリの状況を見て驚きの声を上げた。
ライブラリは体半分が建物の壁にめり込んで…いや、同化しているのだ。
近くで見るとけっこうエグい…
ライブラリは驚いたロックを見て笑っている。そして、壁からするりと抜け出すと、尻餅をついているロックへと話しかけた。
「ホッホッホッ!秘技"ウォールスルー"なんてな…。」
(この人のお茶目さは、学園では有名だけど…ギャグセンスはどこかズレてるな…)
髭をさすりながらニコリと笑いかけるライブラリに、ロックは少し警戒しながら、問いかける。
「いっ…いったい何をなされているのですか?」
「いやな…ちと、君に聞きたいことがあってなぁ。」
「学園長先生が僕に…聞きたいことですか?」
「うむ…これのことなんじゃが…」
「そっ!それは…!」
ライブラリが手に持つ"それ"を見て、ロックは焦りを隠せない。
(なっ…なぜ学園長先生がそれを?!!気づかれるのが早すぎないか?そもそも僕以外、魔力を持つものには目に見えないはずなのに!!)
「これはある講義室で見つかってのぉ…どうやら映像を記録する道具のようなのだが、持ち主は君だと聞いてな…返しにきたんじゃよ。」
「そう…ですか。あっ…ありがとうございます。」
ロックは起き上がり、ライブラリからカメラを受け取る。
「なかなか精密に作られたものだのう。君が作ったのかね?」
「え…?いや…まぁ、そうです。」
「驚きじゃのぉ!わしでも構造がわからんかったのでなぁ…何よりそれからは一切魔力を感じなかった…いったい、どんな構造になっとるんじゃ?」
「そっ…それは…」
(なっ…なんで魔力がないことまで…)
「君が作ったんじゃろ?教えてくれまいか…」
ロックはその瞬間、彼に逆らうことがどう言うことか悟った。
史上最強と謳われたブック=ライブラリ。
全てを見透かすような彼の瞳に、ロックは嘘はつけなかったのだ。
「すっ、すみませんでしたぁ!!!」
土下座をして頭を下げるロックに、ライブラリは静かに語りかける。
「何があったのか…全部教えなさい。」
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