平成特殊能力・ハンサム!

茶々丸ロココ

青梅院恋一郎(25歳/O型)クン、結婚する…の巻!

1994年 世紀末・東京─歌舞伎町

これは若者がまだ我武者羅だった時代の伝説の記録である。



【1】


お馬鹿な獣医・青梅院恋一郎(25歳/O型)クンは親のクレカでピンクの薔薇の花束を購入した。

花束を携えた恋一郎はここ一番、「ヨシ!」と気合を入れる。

マザコン丸出しの銀縁眼鏡をしているが、これでもビシッとしているつもりなのだ。

恋一郎ときたら、これから大切なイベントがあるのだ。


まずは青梅院恋一郎(25歳/O型)クンのプロフィールを紹介しよう。


青梅院恋一郎:せいばいいん れんいちろう

職業:獣医

年齢:25歳

血液型:O型

新潮:183㎝

趣味:食べ歩き

特技:ハンサム

将来やっていたい事:お洒落な結婚


そんな彼が満を持しての人生初デートである。

恋一郎もいよいよ男になるのだ。

スーツだって靴だって新しいものだし、髪もギバチャンみたいに美容室でセットしてもらった。

少しでも魅力を上げたくてコロンも振った。24時間戦えるようにリゲインも飲んだのだ。

姿だけなら電通の社員に見えるだろう。

まあ、全て親の金を使っているのだが。


先だって、恋一郎は伝言ダイヤルで婚活を始めていた。

ダイヤルQ2は高額請求がニュースで取りだたされていたので怖くて出来ない。

さりとて、雑誌の読者投稿ページにある文通募集から始めるだなんて、もっと敷居の高い。

そもそも恋一郎はお馬鹿なのである。字もヘタッピだし漢字も得意ではない。


ゴホン。

此処だけの取って出しの話だ。


恋一郎は一応は『青梅院コンツェルン』の通称で知られる金沢の財閥一族の長男坊なのである。

お馬鹿なので経営から離れて好きな事を仕事にしているが、世継ぎだけは作らないとならない。

恋一郎の母親は跡目争いに躍起なのだ。

だのに当事者の恋一郎と来たらお見合いを幾度となくすっぽかす(忘れる)おドジである。

それでお腹様は自分で探すように再三言われていた。

実は、今年中に結婚相手を見つけなければ親子の縁を切るとまで言われてしまっている。

そうなると親のクレカを使えない。


恋一郎にとっては大問題なのである!


諸君、話を戻そう。

伝言ダイヤルによる運命のパートナーとマッチング出来る仕組みについての話だ。

電話ボックス番号と組み合わせて4桁の暗証番号を設定すると数十秒のボイスメッセージが数件吹き込める。

吹き込んだメッセージは8時間すると消えてしまう。

しかしながら、昨今の若人はこの伝言ボックスを利用して運命の赤い糸で結ばれるらしい。

最先端の出会いなのだ。

恋一郎のマンションにほど近い第三倉庫なぞのクラブに出入りしているギャルたちが、伝言ボックスについてきゃいのきゃいの会話に花を咲かせているのを恋一郎はマクドナルドで聞いたのだ。

─ほんまでっか!

恋一郎はマクドナルドの中にあった公衆電話から早速伝言ダイヤルを利用する事にした。

便利な時代になったものだ。

恋一郎は適当に入れた暗証番号の後にメッセージを吹き込んだ。


『えっと…初めまして。新宿・歌舞伎町で動物病院を開業している二十五歳・男です。可愛いお嫁さんを探しています』


伝言ボックスに入れて数時間後。トントン拍子で相手と会う事になった。

恋一郎もチャンスを掴んだのである。

相手も歌舞伎町に住んでおり、動物病院からは目と鼻の先であった。

少しだけ通話したのだが、落ち着いた品の良い印象の娘だった。

デートの待ち合わせは相手の部屋で、夕飯をご馳走してくれるらしい。

初デートが自室とは随分と積極的な子である。二人だけの密室でならグッと距離も近くなれるであろう。


素敵な出会いを一心に願って、恋一郎は高く聳える超高級マンションの自動ドアをくぐった。

果たして。



***


玄関にある数字パネルの前に立ち、電話から伝えられた番号を押すと、恋一郎は深呼吸して首を揺すった。

こんな形で人を訪ねる事が初めてなので、相当緊張しているのだ。


『はい』

暫くするとパネル板の隣にある音声機から応答があった。

「あ、あの…っ!こ、こんばんは!」

恋一郎は身体を前後に揺すって今更ながらワチャワチャした。大理石の床でステップを踏む。

『伝言ダイヤルの方ですか?』

ハスキーな声が耳に届く。恋一郎は訊かれた問いに対して、首を上下に振った。

『今、開けます』

パネルにマイクが内蔵されているので、恋一郎の様子が相手には見て取れる訳である。

自動ドアが開くと同時に消え入りそうな声で『…待ってます』と聞こえた。


恋一郎は大きな蘭が飾ってあるコンシェルジュデスクの前を通って、ガラス張りのエレベーターに乗り込んだ。

ガラス越しに発光する歌舞伎町の夜景に目を向けて、心臓の音を鎮めようと努めたが上手くはゆかない。

恥ずかしい。

初めて会う人に求愛だなんて真似、果たして自分に出来るのであろうか。

それに、相手が自分の事を気に入ってくれなければどんな顔をしたら良いのやら…不安に心が揺れる。

だんだんと自信がすり減って、自然と内股になってしまう恋一郎なのであった。


69階に降り立てば、緊張はピークに達した。

今更引き返せば男がすたる。

不審者のような荒い息を立てつつ無機質な廊下を進む恋一郎なのであった。


69階の7号室はエレベーターから離れた位置であった。


ピンポーン─


何とかインターフォンを鳴らすと、徐ろにドアが開き、長身の女性がちらりと顔を見せた。

「え、えっと、あの、僕…っ!」

「恋ちゃん…、ですよね?」

ドアから身を滑り込ませてこちらに身を傾けるその女性はつみきみほちゃん似の美人だった。

切れ長の目がウルウルしていて、柔らかそうな小さな唇である。

化粧っ気がなくて、清楚な雰囲気だ。ショートボブのスタイルが似合っている。

「あ…はぃ…」

顔から火が出そうだ。

「あ、あのっ!ブ、ブーケさん…こ、これ…っ!」

用意していた薔薇をズズイッと差し出すと、恋一郎は瞳をぎゅっと閉じて「あ、あ、あなっ…ッ貴方と思って選びました!」と叫んだ。

「ありがとう」

女性は素直に花を受け取ってくれて、薄っすらと笑った。

可憐な人だ。良い匂いがする。

どうしよう、好きになりそうだ。

結婚したい。

恋一郎は唇を噛み締めてもじもじとした。

「さ、入って…」

女性はドアを大きく開けて中に招き入れてくれた。

可愛らしいスリッパを出してくれる。


部屋はまるでドラマの撮影用にあるような空間であった。

大きな革のソファに明らかに値の張りそうな間接照明、窓の外に新宿の夜景が瞬きをしている。

窓に貼り付けば、清澄の辺りまで良く見えた。


「恋ちゃんはお肉とお魚なら、どっちがお好みでしたか?」

差し入れた花を花瓶に飾りながら女性は質問した。

「お肉です」

恋一郎がほぼ即答すると、女性はクスクスと笑った。女性が笑うと彼女の着ている緩い色のシフォンワンピースの裾も揺れた。

「…あ、えっと…」

子供っぽいと思われてしまったかも知れない。

笑われた事により急に羞恥した恋一郎がまごついていると、女性は「お肉も用意していますよ」と優しくフォローしてくれた。

「ブーケさん、あ、ありがとうございます」

おっとりとして上品な物腰にすっかり恋一郎は虜になってしまって、恥ずかしくてそちらを見る事すら出来ない。

恋一郎は固く拳を握った。心臓が早く動き過ぎて壊れてしまいそうなのだ。

「すぐ用意します。お酒、飲まれますか?」

「折角なのにごめんなさい。僕、お酒飲めないんです」

恋一郎が手を振ると、女性はにっこりと微笑んでから「待ってて」と科白して目配せをした。


─あ…あかん。


恋一郎は仕組みが単純なので会って五分もしないうちから、すっかりその気になって惚れてしまったのである。

何処もかしこもカチコチだ。



***


ブーケの趣味は料理と裁縫だそうで、大理石のダイニングテーブルに出された料理は豪勢なものであった。

ヘレンドの皿の上にはズッキーニとアサリの白ワイン蒸しとか具沢山のスパニッシュオムレツ、恋一郎の大好きなチーズインハンバーグまで彩り良く盛り付けてあった。

ホテルのレストランのような立派な味だった。


「ブーケさん、料理本当にお上手なんですね」

恋一郎は豪華な装飾のあるカラトリーを使って、料理を忙しく口に運ぶ。

「そんな事ないです。…ただ、好きなだけで…」

ブーケは謙遜して首を横に振った。訊けば、好きが高じて週末は料理教室に通っているらしい。

「いやいや、こんな美味しい料理、毎日でも食べたいですよ!?是非、お嫁さんにしたいくらいです」

恋一郎は母親以外の女性の料理を生まれて初めて食べ、そのまんまの感動を伝えた。

「…それは」

ブーケはピクリと一瞬停止して、目を泳がせる。


拙かったか。


見て取った恋一郎は話題を別の方向に振った。


「あ、その…ところで!そう、ところでブーケさんは普段お仕事は何かされているんですか?…あッ!その、話したくないなら別に…ッ」

「いいえ。お仕事はしてなくて…花嫁修業を、まぁ、気ままにしています」

「へぇ…」

恋一郎はバカラのグラスに注がれたジンジャーエールで口を濯いだ。

「恋ちゃん、一つお願いしていいですか?」

ブーケは窺うように恋一郎を見た。

「何でしょう?」

あっけらかんと首を傾けると、ブーケは「『ブーケさん』だなんて堅苦しいのはよして、僕の事、『ブーケちゃん』って呼んでいただけませんか?」と侍って手を合わせた。

「えッ!?」

恋一郎は恥ずかしいくらい分かり易く赤面して汗を飛ばす。

「え?…えっと、良いんですか?」

それって、もしかしてブーケも自分を気に入ってくれているのかも知れない。

舞い上がった恋一郎は思わずジンジャーエールの隣のグラスを手に取って一度にキューッと飲んでしまった。

「あ…ッ恋ちゃん駄目!そっちはお酒…」

アペリティフ用のシャンパンを気分だけでも楽しめるようにとブーケが気を利かせて置いておいてくれていたのだった。

『しまった』だなんて思っても時既に遅い。



***


「う…ン…てて…」

「大丈夫ですか?」


目を開けると眉を寄せたブーケの顔が広がった。

「恋ちゃん?」

こめかみで脈を打って身体が熱い。

「…え?…僕は…?」

自分がどうなっているのか分からずに、テンパってしまう。空間がゆらゆらと回って見えて気持ちが悪い。

「恋ちゃん、お酒とジンジャーエールと間違えて飲んでしまったんです…僕がややこしい処に置いてしまっていたので…」

どうやらブーケにソファまで運んで貰ったらしい。

「ブーケちゃんは悪くないですよ」

何とか微笑むとオロオロするブーケは水を差し出してくれた。

「本当にごめんなさい」

「いや…僕こそ、情けない男で申し訳ないです…はは」

「恋ちゃん…」

「お水、ありがとうございました」

水の礼を言った恋一郎は眼鏡を外して胸ポケットにしまい、シャツのボタンを二つほど外した。

情けなくて涙が出て来る。

ブーケは魅力的な人だ。

美人で心優しくおまけに料理上手。家庭は彼女に安心して任せられそうだ。

伝言ダイヤルなど遊びに慣れた人ばかり集っているのではないかと多少なりとも心配していたが、彼女は立派な方だった。

自分はブーケに出会えたラッキー君のウルトラ幸せ者なのに、のっけからこんな有様じゃ一晩の出会いで終わってしまう。

そんなのは絶対に嫌だ。

しかしながらブーケにしたら自分はただの迷惑な男なのかも知れない。

そもそも自分は幾ら着飾ってもお馬鹿だし冴えないし、ダサいし、女性を口説いたりエスコートをする事にも不慣れだし、セックスだってした事がない。

ブーケの事を満足させてはあげられないだろう。

自分なんて所詮、親の七光りだけの人間なのだ。

「…あの…僕、帰ります」

恋一郎は身を起こして足を絨毯の上に付いた。

「え…ッそんな、無理ですよ!?」

「大丈夫です」

「僕にも心配させて下さいよ」

「ブーケちゃん…ありがとう…」

「ねぇ、恋ちゃん止して!もう少し休まないと…っ」

ブーケは優しさに徹して心配してくれる。何と素敵な女性なのであろう。

「…ごめんなさい…本当にありがとう」

やんわりと背に手を回してくれるブーケを制して立ち上がると、頭にスッと血の気がなくなった。

「う」

「…わッ!恋ちゃん、危ない!!」

バランスが取れずにゴロンと前に倒れ込むと、回り込んで来たブーケの胸に顔をしたたか埋めて覆い被さってしまった。

「あッ…!」

ブーケは咄嗟に酩酊した恋一郎を受け止めて受け身を取った。

同時に布を裂く音がした。

「…えッ!?」

驚きながらも恋一郎はごくりと生唾を飲んだ。眼鏡を外していてもそう言う事にだけは聡く出来ているのだ。

「れ、恋ちゃん…ッ!」

ブーケは布の裂け目を必死に握って肢体を隠している。

「あ…ッあ、あ…えっと…うあ…どどどどお、ど…え?あ…ッ」

恋一郎はカーッと頭に血が昇ってパニックになった。泣いているシマはない。

転倒する時に恋一郎はブーケのワンピースの生地を掴んでしまい、思い切り破いてしまったのである。

布の裂け目や捲れた部分から白いパンティやブラジャーが生々しく覗く。

「恋ちゃん…ッ」

ブーケは瞳をぎゅっと瞑って恋一郎の事を呼んだ。

可愛らしい唇が震えている。

覆い被さったまま恋一郎は懸命に考えた。


このまま退いて逃げたら、ブーケは悲しむ筈だ。

だって彼女は自室でディナーをご馳走するほどアピールをしてくれたし、勇気を出して『ブーケちゃん』と呼んで欲しいと言ってくれていた。

彼女は自分に気があるのだ。

男女の関係に及んでも変な事じゃないのだ。

自分だってブーケの事が好きだ。

開院して数年経つものの、収入は安定せず忙しいばかりで経済的には余裕がない。

取り立てて、毎月乗っかる医療器具のローンが地味に痛い。こんな事ならリースにすりゃ良かったのだ。

そんなこんなで親の脛を齧ってばかりいるのである。

親の支援がなくなれば好きで始めた動物病院はやっていけないだろう。

彼女とどうにかなってしまえば親に結婚の事をクドクド言われる事もなくなるし、支援は途絶えない。

この部屋の感じからしてもしかすると逆玉の輿の大チャンスかも知れない。

そうだ。

こんな体制でキスしないのは失礼な事だ。

「ブ、…ぶ…ブーケちゃんッ」

逆上せた恋一郎はブーケの顎に手を添え、ちゅっと唇を合わせた。

「…ン…ッ」

物理的には唇を押し付けているだけなのに、その部分に爆竹でも仕込まれているような刺激がある。

「…ブーケちゃん…あの、こんな事、突然で本当に申し訳ないんですけど…その…す、好きです…」

一度唇を離して、恋一郎は後出しジャンケンの原理で告白をした。

上目遣いをする恋一郎をブーケはどう見て取ったのであろうか。ブーケは信じられないみたいな顔をして固まっていた。

おそらくは全てを受け止めきれない様子だ。


「ン…好き…」


一方、味を占めた恋一郎はブーケの目の奥を覗き込んでから深く唇を混じ合わせ、ブーケの内腿に足を突き入れて身体を密着させた。

心臓がはち切れてしまうのではないかと思うほど緊張していたが、酒が回っているので勢いだけは良い。

キスの仕方など学校で習った試しもないので正しい方法かは別として、恋一郎はブーケの口腔に突起物をスルリと差し入れた。

ブーケは驚いたのか反射的に舌を引っ込める。

恋一郎は舌を深く伸ばして縮こまっている舌を掬い取ると、舌同士を擦り合わせて体液を啜った。

ブーケの口汁は甘い気がした。

「ブーケちゃん、セックスしませんか?」

恋一郎は腰をブーケの下腹部に擦り寄せた。

すっかり致せるものだと考えていたらば、ブーケは左右に首を振って拒否した。

「ごめんなさい」

「ど…どうして?」

ズキリと心にクレバスが奔る。

「僕、こんなつもりで食事に誘った訳じゃ…」

ブーケはやんわりと恋一郎の胸を押した。

「じゃあどんな意味だったんですか?」

恋一郎は納得出来る答えを求めた。

「僕はただ、男の人に手料理を食べて貰いたかっただけで…」

ブーケは視線を迷わせた。恋一郎に悪いと思っているらしい。

「料理は頂きました」

「まぁ、そうですけど」

「美味しかったです。ありがとうございます」

「嬉しいです…」

「ところでお願いです、ブーケちゃん。今すぐ僕を好きになって…?」

恋一郎は女性に向かって合掌した。額に脂汗が滲んでいる。

「そんな、突然…もっとお互い知ってからじゃないと…」

初心な彼女は手順に納得していない様子である。

「でも、もうバキバキなんです…僕のセレニティが…」

恋一郎はブーケに跨ったまま股間を押さえた。ズボンの中身が弾けそうだ。息もゼーハーしてしまう。

「え?」

ブーケは目を丸めた。

恋一郎は「僕のセレニティが…僕のセレニティが…」と幾度も譫言のように繰り返す。

要するに恋一郎はギンギンに勃起し過ぎて眩暈を起こすほどペニスを膨張させているのであった。

「恋ちゃん…ッ!?」

「…あの、僕、こう言う事に慣れてなくて、強引な真似をしてごめんなさい!」

恋一郎は謙虚に謝りつつもベルトを寛げて性器を取り出した。ぶるんと竿が揺れ、バチーンと勢い良く腹に当たった。

「イヤぁ!」

ブーケはカァっと赤面して顔を手で覆う。破れたワンピースが肌の上で更に乱れた。

「辛いんです…もう…僕…」

確かに辛かろう。恋一郎の肉棒は涎をだらだらと垂らして射精先を検索している。

「それ閉まって!」

「出来ません。…ねぇ、僕を好きになって?」

「こんなの駄目です!」

惚れたとかヤったとかは男女二人の問題だ。恋一郎を期待させてしまったブーケにも責任はある。

「ブーケちゃん…こうなったら一晩だけでも良いですから僕のセレニティを受け入れる係になって下さい!」

恋一郎は幾度も合掌して組み敷いた彼女に頭を下げた。

「恋ちゃん…」

ブーケは気の毒そうな顔をした。

「お願いです…セレニティが壊れそうなんです」

『ポケモンが瀕死なんです』みたいな響きだ。恋一郎は借金苦の人間のような形相で縋る。

「…でも」

「分かって欲しいんですッ」

分かっても何も、恋一郎はそれで真面目に口説いているつもりなのだ。

ペニスを握って「セレニティの受け入れ先を貸して下さい!」と元気に何度も頭を下げる。


恋一郎も相当のおボケだが、ブーケと名乗る若人もかなりの極楽とんぼである。

どう言う訳か「成程。それだけ決意が固いなら仕方ありませんね」と言葉して脚を開いた。



***


「ブーケちゃん、助かります!」

恋一郎はカラリとした明るい声を上げて女性のワンピースを剥ぎ、白い腰元に張り付いていた小さなパンティを下した。

ブーケの腿を持ってガバリと大開脚させるとブルンと竿が揺れる。

「あれ?!ブーケちゃんのクリトリスが大変な事になってますよ?」

彼女のアンダーヘアは存外に濃く、健康的に生え揃っていた。

その密林の中心にあろう事か恋一郎とほぼ同じ形の性器が鎌首を擡げていたのだった。

「…はい」

彼女は静かに頷くと目をギュッと瞑って唇を噛んでいた。恋一郎は機嫌良さそうにニコニコしている。

「綺麗な色です」

恋一郎は徐に彼女の性器を指で包む。

「れ…恋ちゃん…ッ」

ブーケは胸に手を抱いて身を固くした。可愛らしく恥じらっているのだ。

「多分、大丈夫。力を抜いて」

恋一郎は鼻息を荒くしてブーケの耳元で囁き、蜜袋を掌で揉んで転がした。

袋の中はずっしりとしていて、凝っている。大分と精液が停滞している感じだ。

「アッ」

ブーケは初々しい反応をした。

「ブーケちゃん可愛い声…好き…」

恋一郎はチュッとブーケのこめかみに口付けて、睾丸の更に奥まった部分を指で擦る。

「…ッあ!」

ブーケはカーペットの上に髪を散らした。

「濡れてる…」

「や、ヤダ…き、汚い…」

「厭じゃないでしょう?それに汚くもないです」

「あ」

「良い子…可愛いんですから」

恋一郎はブーケのこめかみに再び唇を落としてからその脈打つアナルにペニスを宛がった。

「今夜だけ…ブーケちゃん…」

「うう」

「僕のおまんこでいて下さい…」

それはスマートな誘い方ではない。完全にルール違反だ。そもそもブーケは道具やダッチワイフではないのだ。

「ブーケちゃん…ああ…好き…だ…」

恋一郎は切ない声を出しながら腰を落とし、ブーケの胎内に入ってゆく。

「あ…ッあ…っう、や…は、はいらな…ッ」

慌てた様子でブーケは恋一郎の肩を揺すったが、それは然したる抵抗にもならなかった。

ペニスは胎内に遠慮もなく押し入って入口に肉の輪を作った。

内臓の色をした部分が露わになり、秘孔は艶めかしい性器へと変化する。

それは一見、ピクピクと健気に痙攣する清廉な綻びであるが、恋一郎のペニスを受け止めて悦んでいた。

「あ…あ…っ」

ブーケは背を丸めて戦慄いた。性感にぞくりと鳥肌を立たせ、白いブラジャーの下にある乳房は魔乳を垂らす。

「ブーケちゃんの中…あったかくて気持ち良いです…」

恋一郎はうっとりとして「あー…」と声を出して腰をへの字にくねらせる。

ブーケの内側は極上で、包み込まれた亀頭をきゅっきゅと襞が引き付ける。

「れ、恋ちゃん…ンッ」

ブーケは誘うように尻を捩らせた。汗ばんだ項が可愛い。

「はぁ…凄い…ブーケちゃん…全部入っちゃった…あー…凄い…」

恍惚の表情で口をだらしなく半開きにした。少し動いたら射精しそうだ。およそ長時間は耐えられそうにない。

「い…ヤぁ…」

「はぁ…凄い…ブーケちゃん…」

恋一郎は獣のような荒い息を立ててブーケの尻を揉んだ。

「ヤ…めて…」

尻の割れ目まで愛液で滑っていた。口では拒んでいても、声は幼い調子で甘みがあり、彼女も感じてくれている事が分かる。

「ン、あぁ…」

「ブーケちゃん、好き…好きです…」

ブーケの肩から滑るブラジャーの紐とカップの間に恋一郎は鼻を埋めた。

「あッ!い、今はだ、駄目ッ!あっ」

ブーケが「恋ちゃん!」と叫ぶ前に恋一郎は鼻で器用に割って胸元に押し入り、彼女の勃起した肉芽をじゅうっと吸った。

「イやああっー!」

びゅるびゅるびゅるっと勢い良く乳液が飛び出て、恋一郎は懸命に嚥下した。

ナタデココの触感と肉芽のソレは似ていて、押し返して来る弾力があった。

「恋ちゃんッだ、駄目!駄目!!へ、変!こ、怖い!!」

ブーケは甲高い声を幾度も出して恋一郎の胴をしっかりと脚で拘束してしがみ付いた。

「こんなに悦がって下さるだなんて…感激です…」

おっぱいをちゅぱちゅぱしゃぶりながら恋一郎は腰を必死に動かす。

「可愛い人」

「うああッン!!」

悦びの声を上げてブーケは惜しげもなく射精した。沢山のおっぱいが天井近くまで散った。

不思議な事に、ブーケは処女だのに尻の綻びで辿り付く術を知っていたのである。

「あ…うう…」

「いっぱい出ましたね。可愛い」

恋一郎は悪戯っぽくペロリと唇を舌で拭った。

「レ…ンちゃ、…」

ブーケは腿やら背をぶるぶる震わせながら胎内の恋一郎をきつく締め付ける。


初めてセックスをして射精を迎える時、何を発するのがマナーなのであろうか。

恋一郎は「ブーケちゃん、好きだッ!」と抱き付いてその時を迎えた。


ハートはフルボリューム。

夏でもないのにサイダーのように身体の内側から弾ける東京は新宿・歌舞伎町の夜だった。



***


ぶるぶると小鹿のように痙攣するブーケを抱き込んで、恋一郎は寝室のドアを開ける。

ブーケはされるがまま、白銀のシーツの上に寝傍った。

彼女はロールケーキの具材のようだ。

それは如何にも柔らかそうで、さっくりとスプーンで切って食べれば優しい味に違いない。

彼女に跨った恋一郎は立派な布地で仕立てられたジャケットを脱いで、彼女の一筋だけ溢れた髪を掬った。


「ブーケちゃん、綺麗だ…」

自分の美人さに気付けない美人は魅力的である。何と口説けば彼女をもっと此方側に引き寄せられるのであろう。

恋愛経験のない恋一郎には未知の領域だ。

「恋ちゃん」

「ブーケちゃん」

自分と彼女の体重の掛かる部分だけシーツが九十九折りになっている。

「ごめんなさい…緊張してて、僕、慣れてなくて…」

彼女はたどたどしい口調で詫びた。

「そんな言葉貴方には必要ありません!十分魅力的です!」

恋一郎はあるがままを言葉した。

彼女はそのままで美しい。

恋一郎は初めてブラジャーに触れ、後ろ側のホックを外した。下着は体液でぐっしょりと濡れて重みがある。

「期待しないで…」

ブーケは胸元をそっと隠して顔を背けた。

「何故?」

「だって…」

ブーケはAAAカップである事を心配しているらしい。困った顔が愛らしい。

「ブーケちゃんは素敵です」

恋一郎にとってはその恥じらいが愛おしいだけである。

そっと手首を握ってシーツに縫い付けると、寛げられた皮膚の上に可愛らしいアイシングが垂れ、脇は汗粒で輝いていた。

「とても、綺麗ですよ」

恋一郎はうっとりとして唇で唇を結び、深く接吻をする。


ブーケと出会えて良かった。

初めての相手が彼女で本当に幸せ者だ。

頭が悪くて誰からも期待されないで過ごして来たけれど、ずっと誰かに虚しさを埋めて貰いたかった。

期待されない寂しさや、無駄だとされて無視される事にどうしようもない焦燥感を覚え、翻弄された時代が長かった。

醜い立場である己を自分自身で受け入れて愛す事は難しかった。

自暴自棄になってしまうのだ。

彼女と結ばれる事で、やっと大きな荷物を降ろせる。

自分は自分のままで良いのである。


一心に恋一郎の口腔を頬張るブーケは顎からツーっと体液を零す。


「ああ…ッだ、駄目!恋ちゃん。な…なりませんッ」

唇を離れて首筋を通り、小さなザクロの粒を舌先でチロチロと舐め転がすとブーケは紅くなって愧じた。

「嘘おっしゃい…こんなに悦んで」

彼女のクリトリスは芯を通して20センチ級に育つ成長過程にあった。

恋一郎はシャツのボタンを最後まで外すついでにそっとその花芯に触れる。

「ああッ!」

「可愛い」

「う…そ…だッ」

大股を開く彼女の脚は沢蟹の如く蠢く。

「本当です。シネマ女優のようですよ」

恋一郎は鬱蒼と笑って「本当に」と続けた。

「イ、やぁ…」

両手で肉芽を揉むと果汁はみるみると溢れ出し、胸の隆起から放射線状に真珠色に光って濡れる。

「君は堪んない美人さんです」

「あぁっ」

耳元で吐息を吹き掛けると豊艶に悲鳴する。

「ほら」

「…あ、いや」

ブーケは欲望を煽るようにオーバーに肢体は仰け反り返った。

「とても素敵」

恋一郎は母乳で汚れた皮膚を凝視しながら揺らぎを打つ。

「こんなグラマーで瀟洒な女性、僕は初めてです。この世に君だけ…好き…」

本当の事だ。こんな幹の如く勃起した試しはない。

「そんな…も…ッああ!」

ブーケは赤面して首を振った。

「好き」

「ああっ…れ、恋ちゃんッ」

切ない喘ぎ声だ。

捏ね繰り回す其処は腫れて天を向いている。

少し力を入れて捻るとびゅるりと勢い良く右胸の乳房から液が跳ねる。

「もっと聞かせて…君のえっちい声…」

興奮して鼻の奥がズキズキと痛感が奔る。

恋一郎はブーケの肉粒に少し歯を立てて扱き、彼女の下半身もわし掴んで揉み始めた。

「ああッ!いやッ」

「イク?」

恋一郎がそう聞けば、ブーケはオートマチックな人形のように「ヤダッヤダ!」と首を振った。

「どうして嫌なのですか?」

真っ赤に茹って随分苦しそうなのにあんまりにもブーケが「ヤダ」と繰り返すから、恋一郎は手を止めた。

肩で息をしてフーフーしていたブーケは凍えたように戦慄く。

呼吸を整えて彼女は「恋ちゃんと一緒が良いです」と可愛らしい事を言って恋一郎のシャツを握った。

「ぶ…ブーケちゃん!!」

カーッと脳天に血が登った恋一郎は自分の中心を握ると、「我慢出来ませんッ!」と降参を告げ、粘ついた雨裂を割って滑り込む。

「ああーっ!れ、恋ちゃんッイくよぉーっ!!」

内腿に痣を作るのではないかと言うほど強く腰を打ち付ける恋一郎を受け止めて、ブーケは飛沫を散らした。

ムッと雄の饐えた香りが広がる。

「ブーケちゃん!ブーケちゃん、好きだ!!」

激しく皮膚を打ち付ける音が室内にリズムする。理性を失った恋一郎は夢中で腰を振った。

燃えるように熱い。襞が密着して気圧されそうになる。

「だ、駄目ッ!もう一回キちゃうッ!!いやぁーッ!」

ブーケは絹の裂くみたいな悲鳴を出して、胸や幹の先端から爆射させた。何処もかしこも嵐である。

「ブーケ、っちゃ…ンッ!」

胎内の収縮につい先ほどまで童貞であった恋一郎は太刀打ち出来ずに種を零す。



【2】


橘イズミ(23歳/A型)クンは放心して朝を迎えた。


そう。

女装が趣味の橘イズミクンである。


長身の眼鏡の男性こと『恋ちゃん』は朝、目覚めるともう何処にも居なくなってしまっていたのである。

こうなったら一晩だけでも良い…―彼の残した言葉が頭を旋回する。


肌を晒したのはそう暗い場所ではなかった筈だのにあの人は男同士で致してそう抵抗もなさそうであった。

無論、酒の勢いもあったのかも知れない。

女装した男だとバレたら脱皮の如く逃げられるかと思っていたけれども、彼は戦々恐々とするでもなく、ごく自然に受け入れてくれた。

もしかして、疑問を持っていたものの優しさから触れずにいてくれていたのか。


ずっと男の人に手料理を振舞ってみたかった。

それだけで嬉しかった。

女性だったら短大を出て結婚して団地妻になれるだろうが、男だもんでしょうがない。

一時の事だったけれど、嬉しかった。

夢を見れた気がする。

若さにかまけて女装を張り切る度に多くの人を傷つけて来たけれど、昨日、彼に出会えた事によって報われた気がした。

彼の事は好きだ。

好きになってしまった。

一夜の事と割り切れない。

玄関を開けて、目と目が合った時から好きになってしまった。

こんな事は初めてである。

東京上空から下を見たらそりゃ星の数ほど出会いは落ちている。

我々はその一粒に過ぎないであろう。

彼はプレゼントしてくれた大輪の薔薇を『貴方だと思って選びました』と差し出してくれた。

彼はどんな思いで自分を選んでくれたのだろう。


女装ばかりいる僕が純愛ぶるのは可笑しいかも知れない。

でも、大切にしたいものは、やっぱり捨てられない。

恋したい。

恋一郎をもっと好きになってみたいし、好きな事を伝えたいし、一緒にいたい。



***


あれから三か月が過ぎたが、イズミは未だ放心していた。


よりによって妊娠してしまったのだ。

妊娠初期、三か月だ。

何度も検査薬で調べたし、恥を惜しんで産婦人科にも行った。

彼との子以外にあり得ない。

医師からは世紀末(グランドクロスやノストラダムスの大予言)の影響だと説明を受けた。

まさか自分がそうなるとは思ってもみなかった。

処女だったし、そんな一回のセックスでぴったり妊娠するとは驚いた。


子供は産みたいと思っている。宿した命は仮にも惚れた男の子供である。

あの逢瀬を一生胸に抱いて一人で大切にしまっておけば良い。

一晩だけでも自分は好きな男から愛されたのだ。


『恋ちゃん』は此処、新宿・歌舞伎町で動物病院を開業しているらしい。

彼の年齢からしてそれは若い店に違いない。

彼が見つからなかったら見つからなかったでしょうがない。

そして身籠ってしまった事を正直に打ち明けて、拒否されたら拒否された時だ。


『ブーケ』ことイズミは部屋の片隅に飾った額の中のドライフラワー・アートを熱く見た。

それはかつて『恋ちゃん』が選んでくれた薔薇である。

彼は自分を見つけ出して選んでくれた。


ネオンの瞬くこの歌舞伎町の何処かに彼がいるならば、今度は自分が彼を見つけ出す番である。



【3】


あの日以来、恋一郎は夢心地で過ごしていた。ぽーっとして気も漫ろだ。

初めての数々が一挙に去来して、消化不良を起こしているのである。


初めてデートをして、人を好きになって、母親以外の異性の手料理を食べた。

初めて人に告白をした。

しかも、その人と生セックスまでした。


美乳の味に恋一郎は想いを馳せた。


『おいッ!恋一郎!?』

恋一郎は目を瞬かせ、立ち上がって気を付けの姿勢をする。

「は、はい!母上!」

母親との電話中に他事を考えてしまっていたのである。

まぁ、一年中頭の中がお正月状態な恋一郎に多くを求めてはならない。

『で、時に恋一郎。世継ぎの方とはどうだ』

「どうって…」

恋一郎は目を泳がせた。

「が、ガンガンやってます…!その…こ、子供が出来るように…!跡継ぎ…」

この期に及んで嘘を付いた。

『ほう…では一度、上京してその女子に逢ってやろう』

「ありがとうございます!」

恋一郎はペコリとお辞儀をした。もう取り返しがつかない。

『して、どんな子だ?』

「とても可愛らしい方です。お優しくて、料理上手で…お裁縫も…あ!!」

もしかして、あの日着ていたワンピースも彼女の手製のもので、それを自分としたら破いてしまったのではなかろうか。

心がチクチクと痛む。


そう言えば、逢わなくなってどれくらい過ぎた事だか。

酔った勢いで『一晩だけでも良い』としょぼついてしまった手前、易々とした真似は出来ない。

終わった仲だ。

しかしながら諦めきれない。

もう一度プロポーズしに行こうと何度も足を向けて、その途中で何度も心が折れて中止して来た経緯がある。

それでも彼女も寂しく思っていてくれたら嬉しい。

こんな事なら恋だなんて知らなければ良かった。

瞼を閉じれば彼女の優しい笑顔が浮かぶ。

ブーケ…―彼女はどうしてあれ程、可憐な人なのであろう。


『って、おーい!!!恋一郎!?聞いておるのか?』


母親は何度も叫んでいたが、「すみません。午後診の時間なので…」と理由だてて電話を置いた。



***


診察:初診

飼い主さんのお名前:橘 イズミ

ふりがな:たちばな いずみ

ペットの名前:Pちゃん

ペットのプロフィール:ペンギンのぬいぐるみ

ペットの性別:女の子

ペットのどんな事でお困りですか:朝から顔色が良くない


イズミは受付で渡されたカウンセリングシートを埋めながら、『恋ちゃん』に気持ち悪がられたり変な奴だと思われたらどうしようかと心配が募る。

妊娠したからと言って、相手の大切な職場に突然押しかけるのは無粋だと百も承知だ。

彼の勤めが動物病院だもので動物を連れて来たら受付でも怪しまれないであろうと、カモフラージュの意味で自分で裁縫して拵えたお猿のぬいぐるみが病気をしたので往診に来た…と言う筋書で逢いに来たのだが、やはり拙い真似をした。

朝刊に挟まっていた青梅院動物病院のチラシを確認して医院長の青梅院恋一郎こそ彼であると突き止めて舞い上がり、その勢いにかまけて押し掛けてしまったのである。

せめて電話一本入れておくのだった。

後悔で心臓が圧し潰されそうだ。


「お待ちの方、どうぞ」

診察室のカーテンの中から『恋ちゃん』の声がする。

ええい、ままよ。

イズミはスカートの裾をささっと直して立ち上がり、カーテンを捲った。

「あーッ!ぶぶぶぶぶ、ぶ、ブーケちゃん!」

白衣を着た恋一郎はイズミを見るや否や、椅子からしたたか転げ落ちた。

「恋ちゃん…ッ」

イズミが傍によると、恋一郎は頭に出来たタン瘤を撫でて情けなさそうに笑った。

「あはは…」

「恋ちゃん、大丈夫ですか?!」

「僕ったらいつもこんな調子で…その…格好悪くて…ごめん」

恋一郎は何とも薄暗い顔をした。申し訳なさそうに眉をハの字にしている。

「…ごめんだなんて」

イズミは大きなペンギンのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。

「その…ブーケちゃん、お元気でしたか?」

恋一郎は探るような言葉を発した。

「恋ちゃんは?」

「ああ、いや、僕はこの通り…、いつも通り…」

取り繕うように恋一郎は立ち上がり、「あ!そうだ。此処にいらしたんだからきっと動物が病気か何かなんですよね?どうなさいましたか?」と続けた。

「その、それは…」

「どうしましたか?」

「ペンギンなんですけど」

「ペンギン?」

「はい…」


アウトや…─


完全にやらかしてしまった。

もうこれ以上変なヤツだと思われたくない。

自分は女装家だし行為中に母乳も出してしまった。

おまけに妊娠していてペットがペンギンのぬいぐるみだなんて絶対に引かれてしまう。

イズミは唇を噛み締めて否定される言葉を待っていたのだが、青梅院動物病院の医院長から返って来た言葉は意外なものであった。


「おや、…はは。可愛いペンギンさんですね。お名前は?」

「ぴ、Pちゃん…」

「もしかしてこれ、あの時のワンピースの生地では?」

「ああ…そうです…その、同じ生地で作ってこの子の洋服もお揃いで…」

イズミはPちゃんの頭を撫でた。

「では診察されて頂きますので待合室でお待ち下さい」

恋一郎はイズミからペンギンのぬいぐるみを受け取ると、「あっち」と指さして笑った。


頭の中は真っ白である。

恋一郎は言い訳に持って来たぬいぐるみの何処を診察すると言うのであろう。


診察は五分も掛からずに終了し、恋一郎はPちゃんを伴って待合室にやって来た。

「あ!恋ちゃん…」

「はい。もう大丈夫ですよ」

恋一郎はあっけらかんとした感じで「美味しいブーケちゃんの手料理を食べ過ぎです」と笑った。

「あ、あ、あのう…ッありがとうございます…」

イズミはペンギンのぬいぐるみを抱っこして頭を撫でた。

「いいえ。どういたしまして。ブーケちゃん…本当はイズミちゃんなんですね…」

「その…それは」

ハンドルネームを使っていた事に対して、良心が呵責する。

「色々事情がおありでしょう?…良いじゃない。これからはイズミちゃんって事で…」

「恋ちゃん」

『これからは』と言う事は、まだ縁に続きがあっても良いのであろうか。

「あの…実はPちゃんの事じゃなくて、恋ちゃんにご報告があって今日は来たんです」

「何でしょう?」

「その…僕、貴方との子供を身籠ってしまって…」

「え!?」

恋一郎は目を剥いた。信じれないって具合である。

「三か月なんです…」

イズミは徐に母子手帳を取り出した。

「え…!!」

恋一郎は水戸黄門の印籠を見た人のような派手なリアクションは出来ずに固まっている。

「ああ…えっと、そんな顔しないで…認知して貰えなくても結構です。その…報告だけでもと思ったので」

「…その…」

恋一郎は目を泳がして口元を覆った。

「我儘でごめんなさい。でも、恋ちゃんとの子を生みたいから、僕、生みます!じゃ、じゃあ!!」


泣き出すのを何とか堪えてイズミは立ち上がった。

消えてしまいたい。


「あ!イズミちゃん!?待って!!」

「失礼します!」

恋一郎の声が聞こえたが、立ち止まったら、優しい恋一郎に甘えてしまいそうだ。

彼は仕事中なのだ。

これ以上、邪魔してはならない。


靴を蹴飛ばして、髪留めのリボンをぐしゃぐしゃにしてイズミはマンションに舞い戻った。


ベッドに顔を埋めると、堰を切った如く涙が縷々と毀れる。


何て事だ。

優しい彼を困らせてばかりで情けない。



【4】


大変な事になってしまった。


『ブーケ』改めイズミが自分の子供を妊娠しているらしいのだ。


イズミは精神的にさぞ不安だった事であろう。彼女は涙を溜めて震えていた。

彼女は身籠だのに走って飛び出て行った。

妊娠初期とはデリケートな時期である。


認知も不要のような事を口走っていたが、そうは問屋が卸さない。

お馬鹿なりにも恋一郎はイズミの事に対しては真面目なのだ。


居ても立っても居られなくなった恋一郎は直ぐに医院を閉めると、超高速で区役所に婚姻届けを貰いに行き、イズミのマンションに直行した。


玄関にある数字パネルの前に立ち、彼女の部屋番号を押したのであるが、何度押しても反応がない。

居留守を使われているのだものにべない。

ムッスリとした恋一郎は眼鏡を外して手をパネル板に翳した。


パチパチパチ…バチン…!


手を翳した部分に閃光が奔り、自動ドアが音もなく開く。

特殊能力だ。

恋一郎はマザコン気味でかなりお馬鹿だが、顔面偏差値だけはすこぶる高いので、時としてこのような力を発揮する事がある。

イズミが恋一郎の謎の説得により足を開いてしまった事も、男の娘であるイズミが妊娠した事も、このハンサムパワーが作用している。

実はそうなのだ。

思い返して欲しい。

酒が点で駄目な男が、酩酊状態でバキバキに勃つのか。

見落としがちだが、男で母乳が出る体質などそういない。

あれもこれも行き過ぎたハンサムの成せる業なのだ。

普段はダサい眼鏡でハンサムである事を隠して保護している。そう言った訳なのだ。

無論、世紀末を席巻する秘密結社やヒーロー団体から声が掛けてもらう機会はあったものの、その面接もお見合い同様にすっぽかしてしまう為、社会の役に立つ事はない。


ガラス張りのエレベーターに乗り込んだ恋一郎はいやに落ち着いていた。

無論、69階の7号室は鍵が掛かっていたが、恋一郎には無関係に等しい。


玄関を開けた恋一郎は己の部屋のように迷う事なく寝室に向かう。

ベッドにはイズミが転がっていた。


「イズミちゃん」

「恋ちゃん…っ!?…お仕事は?」

「仕事なんてどうだって良いんです」

「そんな身勝手な…」

「すみません。つい夢中になっちゃって」

「もう、恋ちゃんったら」

イズミは恥ずかしそうに背を丸めた。

「あんなに走って、お腹は大丈夫ですか?」

「ええ」

イズミは起き上がる事なく答える。

「顔見せて下さい」

「もう」

「安心させて下さい。お願いです」

「…はい」

無茶苦茶な状況だが、お互いに好き同士なので自然と甘い雰囲気になった。

恋一郎はベッドに乗りあがって正座をするとコホンと咳払いをした。

「イズミちゃん。あ、あのですね」

「…?」

「赤ちゃんは母乳を飲んでも一年と少しでしょう?」

「ええ」

「僕、イズミちゃんのおっぱいを飲む係になりたいんです」

おっぱいを飲む係。

「一生、おっぱいを飲む係にしては貰えませんか?」

幼い感じで恋一郎は首を傾げる。

「はい」

瞳を潤ませたイズミは半身を起き上がらせると素直に頷いた。

やはり好き同士なのだ。寄り添ってしまう。

「お腹の赤ちゃんに触らないように…ね?分かって下さい」

「はい…」

「良い子」

恋一郎は隙を突くようにしてイズミの口の端に唇を寄せた。

「あ」

「結婚しましょう」

恋一郎は親のクレカで用意していた指輪をイズミの薬指に填めた。

急いで婚姻届けを貰いに行った折に、ハンサムパワーで用意した代物のである。

無論、サイズはピッタリだ。

こう言う事に関してもハンサムパワーは作用する。


ハンサムパワー…─

不思議なハンサムパワーによって恋一郎の住む歌舞伎町は世紀末のバッドエナジーから護られているのである。



***


ピッタリと抱き合って暫くすると、恋一郎はイズミのスカートの中身に腕を差し入れた。


「そんな、いきなり」

イズミは例の如く恥ずかしがって、足の指に力を入れて腿をもじもじとした。

「駄目じゃない筈です…だって其処、ホラ」

「あ…」

さもありなん、其処はテントを張っている。

楽器のチューイングを合わせるような手付きでパンティの中に忍び込むと、潤んで粘り気を持つ秘部を摩った。

「い…やぁっ」

そんなつもりはないのに誘うような声がまろび出てしまう。

擦られるとグチュングチュンとあからさまな水音が響く。

抑えが効かずに、恥ずかしくなったイズミは内股を擦り寄せた。

「別に野蛮な事をしている訳ではないんですよ?」

そう言う訳じゃなくて慣れないのだ。

「分かっています」

唇を尖らせると、恋一郎は髪を掻き上げて「本当に?」等と悪戯猫の表情をして問う。

「分かっていますよ。自然に生まれる行為でしょう?」

恋一郎の整った頤を撫でてイズミは彼の眼の芯を見詰めた。

彼の瞳は膜が張っていて透き通っている。

透明で全く吸い込まれそうに美しい瞳だ。

「『自然に生まれる行為』…綺麗な言葉ですね」

恋一郎は自身の下半身を寛げると、イズミのソレと裏筋同士を抱擁させて抱き締めた。

「お腹の赤ちゃんに触らないように…だから、これで確かめて良いでしょう?」

子供が玩具を強請るような物言いで恋一郎は見上げて来た。暗に挿入しないと言いたいのであろう。

「ウ…ん」

向かい合ってお互いにM字開脚しているような体位で、イズミが甘く腰を揺すると疑似セックスのようになった。

「は、ぁ」

恋一郎は興奮してくれているようで、顔を歪めている。

彼の綺麗な顔が歪んでいるだけで、胸が熱くなって肉の中身がじんじんと腫れる感覚がある。

もしかするとブラジャーの中はまた入水しているのかも知れない。

「恋ちゃん」

イズミは朦朧とした。

「ンああッん!」

恋一郎に性器同士を束ねられて扱かれる。

大きな彼の手で操られて、潤んで雄汁をぽろぽろと零す二本の肉根はそう言うシステムの楽器のように見えた。

「イズミちゃんのクリトリス、凄い…」

耳元で低く囁かれるとぞくりと肌が粟立ってドッと濡れてしまう。

「れン、ちゃッン!」

イズミは日頃より女装した己の姿を鏡に映して自慰をし、性処理しているのであるが、自分でするより余程快楽美がある。

「これじゃまるで愛液がおしっこみたい」

「ぃ…ヤッぁ…っ」

不意に襲い掛かる射精感と必死に闘いながらも、今はただただ恋一郎に身を委ねるしか術を持ち合わせていない。

「イヤじゃありません。イズミちゃん、ほら、良く々ご覧なさい?びしょ濡れでしょう?」

恋一郎がイズミのスカートを大胆に捲ればブルンとイズミの性器が揺れた。

「ああっ言わないで」

目を離したいようであって、視線が縫い止められて離れない。

鈴口から溢れ出る透明のカウパー液が恋一郎の大きくエラの張った亀頭まで汚していた。

「こんな清楚な格好をして…」

「うっ」

「大きな大きなクリトリスです」

「…ぅ」

意地悪そうに言われると心が圧し潰されそうになる。マゾ気質が備わっているのかも知れない。

「君はエッチ向きの身体なんでしょうね」

確かに、エラの裏筋は青筋を立てて充血し、早急な劣情に愕然とする。

「…う、あ」

イズミは小さくどよめいて疼く尻を振った。

「ご、めんなさ…ィ!」

イズミが顔を覆いながら射精して愛汁を飛ばすと、恋一郎はそっと性器から手を放し、「ちゃんと綺麗ですよ」と囁いて髪を撫でてくれる。

「恋ちゃん…」


甘い接吻を交わす。

大好きなのだ。

彼だけは諦めたくない。


「僕の可愛いイズミちゃん…」

恋一郎はイズミのレース編みのカーディガンから手を侵入させて胸元を揉み始めた。

「ンああッ」

肉色の部分を掠められると、バネのように身が撓る。

男である以上、性には抗えない。

「イズミちゃん、好きです」

「僕も…好き」

「イズミちゃん」

恋一郎はイズミの股座を割ってそのまま覆い被さって来る。

インナーも下着も捲し上げられて胸元を露わにされても、揺れる乳などないのだが彼は夢中になってくれる。

「ゴメン、イズミちゃん…凄ぃ興奮して来た…我慢できないかも」

鼻息を荒くした恋一郎は肉芽にむしゃぶり付くとイズミの股をグッと閉じてその内腿でマス掻きし始めた。

「ひッ」

イズミは思わず悲鳴した。

「お腹、苦しくない?」

「は…い」

「良かった…ン、イズミちゃん…」

指同士を行き止まりまで握り合って、唇が降って来る。恐る恐る目を開けると、恋一郎はニッコリと微笑んだ。

「イズミちゃんの太腿、すべすべで気持ち良いです…」

カァっと耳まで火照る。

裏筋同士が擦れてジンジンと心地良い。快楽を昇ってゆくのにそう時間も掛からない。

「そんな動いたら、また、イ…く…ッ」

びりびりと性感に痺れる。乳首から母乳が勢い良く噴出すると射精が近いと言う妙な新定番が出来上がってしまった。

「あ…ッ!ぼ、僕もッ」

おっぱいのスプリンクラーにパラパラと濡れる彼は恍惚としている。

「あー…気持ち良過ぎ。イズミちゃぁ…ン!」

彼の引き締まった腹が鞴の如く早く動く。

彼の顔が接近して来て唇を合わせると、熱い体液がパタパタと腹に散った。



【5】


甘酸っぱい新婚生活は通い婚としてスタートを切った。


晴れやかな生活である。

彼らの愛の巣はお互いの傷をお互いで埋める都会のホスピスなのだ。


元々女性に強い憧れのあったイズミは可愛らしい新妻になった。

恋一郎を玄関で迎える時にはPちゃんで顔を隠し、『お帰りなさい、お仕事お疲れさまだっぴー』等と可愛い事を言うのだ。

もちろん恋一郎の洋服はイズミが見繕って世話を焼き、料理にも性生活にも益々力を入れる。

夫の為に尽くす事はイズミの長年の夢であった。


恋は魔力だ。

恋一郎は仕事でも私生活でも胸を張るようになり、ハンサムパワーも格段にレベルアップした。

得てせずに歌舞伎町の結界は日本列島の何処よりも強固なものとなったのだ。


「ブーケちゃんただいま!」

パッと明るい顔をした恋一郎はお土産の紙袋を差し出して「クレモンフェランのシュークリーム、買って来ちゃいました」と微笑む。

動物病院から一歩も出ずしてハンサムパワーだけを使ってゲットしたのである。

イズミは柱の陰からパッと現れて、普段通りPちゃんで顔を隠して「恋ちゃん、ありがとうございますだっぴー!」とか楽しくやっている。

「イズミちゃーんッ!」

恋一郎はイズミをPちゃんごと抱き上げると、フィギュアスケートのペアのようにくるくると回る。

「もう、恋ちゃんたら」

「あははっイズミちゃーん!」

二人はチュッチュと可愛いキスをし合って、およそ人生の絶頂とも呼べる幸せに二人して溺れた。

新婚生活はガキのごっこ遊びみたいな事を良い大人が向き合って真剣にする期間なので、そこはどうしようもない。

彼らはそのルールに則って生活しているだけで、罪はない。

一通り踊ってから、イズミは照れながらも恋一郎にこそこそと耳打ちをした。

二人きしだのに内緒話とは贅沢である。

おそらくは『料理にしますか?お風呂にしますか?それとも』などと新婚らしい事を言っているのであろう。

恋一郎はイズミの瞳の奥を見詰めてから、Pちゃんの耳を塞ぎ、イズミにだけ耳打ちを返した。

それから本当に嬉しそうに二人で笑うのだ。



***


「Pちゃんは寝ましたか?」

「はい。ぐっすり」

そりゃぬいぐるみだもので都合よく寝る筈である。

夕食後、子供部屋でPちゃんを寝かせ付けたイズミは食洗器に皿を入れてくれている恋一郎の横にひっつき虫した。

「ところで、今日は何処まで出来ましたか?」

「ええ、スワロフスキーを何とか付け始められました」

「凄い!もう縫えたんですか!?」

恋一郎は嬉しそうに驚き、ドイツ製の食洗器の扉を閉めた。

「挙式が楽しみです」

イズミの手を取ると、イズミは手を握り返してくれる。

「ええ…」

しばらく目と目で抱擁するように互いを見つめ合っていた二人だが、恋一郎は『じゃあ、そろそろおっぱい屋さんしませんか?』と耳打ちをした。

おっぱい屋さん…―言葉を聞いたイズミはポッと赤面してから唇を尖らせる。

「声、響くの恥ずかしいからやっぱり浴室では駄目ですか?」

恋一郎があえて否定的な質問をすると、イズミは左右に首を振った。

イズミにしたら、Pちゃんさえ起きなければ愛し合うなら場所は何処でも良いのだ。

「さ、行きましょう」

可愛らしい姿に満足した恋一郎はイズミを抱き上げて浴室に向かった。

「はい…」

期待から完勃してしまった竿が布に擦れて痛い恋一郎なのであった。



***


「今日のパンティ、可愛らしいですね」

脱衣所で服を脱ぎ、風呂場に入る準備をする恋一郎は紐で結わったパンティに指を滑らせた。

綺麗なゴミのようなフリルが沢山付いた薄い下着だ。

「恋ちゃん」

イズミは恥じらって消え入りそうな声を出しながらブラジャーの紐を落とす。

その愛らしいポーズは恋一郎を興奮させた。

「イズミちゃん!」

恋一郎は強引にイズミを抱き寄せると硬くなった性器をパンティの部分にグッと押し付けてはぁはぁと息を漏らす。

「イズミちゃん好きです」

イズミの耳元で何百回目かの告白をした。イズミは「もう」などと困ったようにして笑っている。

腰に巻き付いていた紐を抜き取れば、イズミの其処も雄を主張していた。


恋一郎は指で二本の肉棒を密着させ、唇を合わせてイズミを抱き込むと、そのまま浴槽に向かった。

「う…後ろ、ジクジク疼いて…」

扱きあって抱擁している半身を引き剥がしてイズミは呟いた。

「え」

恋一郎はキョトンとした後に耳だけを器用に赤らめる。

「でも、そこは赤ちゃんがいるから触っちゃ…」

イズミは片足を高く上げて股を開き、「妊娠中に浮気があるって…ワイドショーで観たんです」と囁いて恋一郎を熱く見た。

「そんな、僕はイズミちゃんだけです」

恋一郎は我慢汁でドロドロになった花芯をぎゅっと握り込んだ。

「…恋ちゃんにその気がなくても、ハンサムだからあっちからやって来るかもって思ったら…僕…」

イズミはかなり一人で悩んでいたのか、唇を噛んで悲しい顔をした。

「妬いて下さるのは嬉しいですけど、僕は普段もっさい眼鏡を…」

弱った感じに目を細めるとイズミはくるりと身を反転して尻を突き上げた。

「見えますか?」

上擦った声を出す。

恋一郎はごくりと溜まった生唾を飲んだ。

「初めて貴方に暴かれて、それから何か月も此処に何も入れて貰ってない」

ぱっかりと足を開いたその窄まりは薄暗いピンク色をしていて、パクパクと口を開閉している。

放射線状に筋の入っている中心は淫らな蜜溜まりが出来てた。

「僕の此処…恋ちゃんをずっと待ってるみたいで…」

イズミは指で玉を持ち上げて自らの会陰をくるくると擦り上げた。

「ああ…」

そしてだらしない表情をして水気を含んだ吐息を漏らす。

「何だか、変な気分なんです…はぁ…ああ…」

イズミはアヌスを押し開けてこれ見よがしに中身を見せた。

「イズミちゃん!僕だってずっと我慢してて…ッ!」

恋一郎は唾を飛ばして「安定期に入るまで一緒に我慢しましょうよ」と続けたものの、イズミにはそう刺さらなかったらしい。

「此処、虐めて」

声もその窄まりも脆弱に震えていた。

「くッ!」

恋一郎は目を瞑って顔を避け、こめかみで高鳴る脈の音を聞いた。

「恋ちゃん…」

イズミは眉間に皺を寄せている恋一郎の頬をそっと撫で、上目使いで子猫のように見詰めた。

恋一郎は新妻から誘われているのである。

「れ・ん・ちゃん…」

イズミはゆっくりと夫の名を呼んだ。

そうして浴室の壁に恋一郎を追い詰めて、ソッと肉芽を抓る。

白い体液がパタタと浴槽の縁に毀れた。

「お尻が駄目なら、おっぱい、舐めて下さい」

「そう言う事しちゃ駄目ですっ」

恋一郎はキッとイズミを睨んで肩を押した。

「え?」

イズミは叱られたのかと驚いていると、恋一郎は獣のような息を立て、「無理矢理とか滅茶苦茶に、ヤるところでしたから」と瞳を揺らした。

「シてよ…」

恋一郎にされるのであれば、どんな事だって受け入れてしまう。本望だ。

「でもイズミちゃん」

恋一郎は弱り果ててイズミの髪を撫でた。

「イズミの身体、夏にシてよ」

イズミは恋一郎にしがみ付いて「待てないの」と促す。

「イズミちゃん」

乳の香りが鼻孔を擽る。

「恋ちゃんのでイきたい…」

「あ!」

「ああ…恋ちゃん…」

イズミは恋一郎の亀頭をアヌスに押し付けると、そのまま体重を掛けて飲み込んでしまった。

「う…ぁ…ッ」

恋一郎の艶めかしい声が浴室に反響した。

茹るような温度と粘膜の生々しい肉感にゾクゾクと身体が震える。

「ああ!恋ちゃんンっ」

内臓が大きく変形して犯される快感にイズミは腰を疼かせた。

イズミのザーメンは恋一郎の胸元に飛び散って、母乳を垂らしているみたいに見える。

「イズミちゃん、駄目な子ちゃんですね」

恋一郎は蠱惑的に笑ってペロリと唇を舐めた。

「ン…あ…ぁ」

「イズミちゃんのおまんこ、熱くて最高です」

恋一郎はイズミの耳朶を軽く吸って尻を揉んだ。

「ああ、あ!」

「ほら、きゅんきゅんしてる…」

ピストン運動の度にイズミの鈴口からは残滓がぴゅるりと飛び出る。その都度、胎内ものたうちうねるのであろう。

「ああ…やっぱり駄目かも…イズミちゃんのおまんこ気持ち良過ぎる…」

怒張は激しく狭い内襞をストロークして暴れ回った。

「恋ちゃぁん」

跨ったイズミはポロポロと乳液を垂らして悦がった。射精したばかりの中心は力を取り戻して立ち上がりつつある。

「イズミちゃん!」

恋一郎は目の前にあるツンと立ち上がった小さな乳首にむしゃぶりついた。

イズミは本当にソコが弱いのだ。

「ああーんっ!」

快楽に酔ったイズミは甘ったれた声を出して恋一郎にしがみ付いた。

恋一郎はじゅぶじゅぶと音を立てて乳を啜る。


粘着質な音が幾重にも連なって二人は到達した。


体液に塗れながら深いキスをしてお互いに射精すると、快楽が愛液の如くつーっと糸を引く。

ハンサム過ぎて、三か月となった赤ちゃんとは別に受精卵をもう一つ作ってしまった恋一郎なのであった。



【6】


「母上。紹介します!えっと、僕のお嫁さんのイズミちゃんです!」


恋一郎の母親はヒルトンのバーで長男坊に結婚相手を紹介され、「ほう、典型的なギャグだな」と感心した様子で顎を撫でた。


「初めまして。イズミです」

振袖に身を包んだイズミは淑やかに頭を垂れる。その様子を恋一郎はニコニコとして眺める。

「って、どない見ても女装した男やん!?」

母親はどうにも堪えきれなくなって喚いた。

「母上。安心して下さい。僕たち籍も入れたので」

「…え!?」


まさか男同士で籍を入れられるとは…!アッパレだ…─


「あ!そうそう。二人で式も挙げちゃいましたから」

「は???」

「これ、写真です。イズミちゃんったらこのウエディングドレス手作りしたんですよ!?」

「おい!ちょっと待て、って、これって何処だ!?」

「ニューカレドニア」

「おい、恋一郎!!」

母親は座っていられなくなって椅子を引いた。顔なんて真っ赤だ。

「まぁまぁ、落ち着いて下さいってば」

「落ち着いていられるか!」

「イズミちゃんは僕たち青梅院ホールディングスとライバル関係にある、あの橘グループの御曹司様なんですよ?」

「うッ!」

母親は頭を抱えた。

「あの…心配なさらないで下さい。僕はほんのお飾りで、実質の経営は天野って代表取締役がしておりまして…」

イズミはすかさずフォローを入れる。

「母上?しかもですよ?実はイズミちゃんは僕との愛の結晶をご懐妊されているんです!」

「ぐおおーッ!!」

恋一郎の母親はその場に突っ伏して気絶してしまった。

恋一郎とイズミは手を取り合って「もうすぐ卵で双子を産みまーす!」と声を揃えて明るく笑う。


便利な親のクレカ。

素敵な花嫁。

無自覚にヒーローもしている。

嗚呼、彼ったらハンサム過ぎて自由なのだ。

人間の皮を被ったハンサムには理屈などない。


He will continue to shine `gold`.


...Chao!


【Fin.】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

平成特殊能力・ハンサム! 茶々丸ロココ @chachamarurococo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ