1章 4話 真実への入り口

目が覚める。この場所はどこだろう。直哉は左右に視線を動かした。世界が横に見える。どうやら自分はベッドか何かで寝ている姿勢になっているらしいという事に気づき、ゆつくりと上半身を起こした。


「あ、起きました?」


横から声を掛けられる。声をしたほうを見ると白衣を着た若い女性が椅子に座りながら何かの書類を読んでいるところだった。顔立ちは欧米系に見えるが、流暢な日本語を喋っている。


「ちょっと待ってくださいね。今呼んできます」


ここは一体何処なのか。誰を呼んでくるのか直哉にはさっぱり理解出来なかったがとりあえず周りの様子を見るにこの場所は何らかの医療施設である事は想像できた。広い部屋のは何床ものベッドが置かれており、その脇に点滴台や心拍モニターなどの医療器具が置かれている。ふと自分の身体を見ると入院着の様な服装をしている。どうして自分はこんな場所にいるのか。そう考えた瞬間、直哉の脳裏に先ほどまで自分が巻き込まれていた余りに非現実的な事象が浮かんできた。そうだ、自分は学校帰りに妙な事件に遭遇して、誰かに助けてもらってそれから……どうなったんだろう?車に乗ってからの記憶がいまいち思い出せない。直哉が自身の脳細胞と必死に格闘しているとこの部屋につながるドアが開いた。入ってきたのは先ほどここにいた女性だ。


「伊吹直哉君……で間違いないですか?」


「え……はい?」


「良かった。調子はどうです?どこか痛いところがあるとか気分が悪いとか」


「いえ、今は特に……」


そう直哉が返答すると女性は白衣の胸ポケットからペンライトを取り出し直哉の目に光を当てる。


「うん、脳神経系も以上無さそうですね。恐らく急な事にまきこまれたショックと疲労で倒れちゃっただけだと思います」


「あ、ありがとうございます」


白衣の女性はそう言うとバインダーに挟んだ書類に何かを書いていく。その所作からやはりここは病院かそれに属する施設だという事を直哉は確信した。


「あの、すみません」


直哉の言葉に女性の手が止まる。


「ここはどこなんでしょうか?」


「ああ、そうそう。起きたところすぐで悪いんだけどちょっと部屋を移動してくれないかしら。貴方に是非会いたいという方がいらっしゃって」


女性はそう言うと自分に付いてくるように身振りで直哉に知らせた。


「はあ……」


未だによくわからないがここは付いていくしか無さそうだ。そう直哉は判断した。随分長い間眠っていたのか鉛のように重い身体を引きずりながらベッドから降りる。ベッドのすぐそばに用意されていたスリッパに履き替えると女性の後を追い部屋から出た。

 直哉が部屋から出てまず感じた事は通路が非常に狭い事だった。大人2人がすれ違うのが精いっぱいの様な細い通路を女性に先導されながら歩く。やがて目的地にたどり着いたのだろうか女性の足がとある部屋の前で止まった。直哉がその部屋の上に掲げられているプレートを見るとそこには『officer room』と英語で書かれている。女性は直哉が自分の後ろにいることを確認するとその部屋の扉をノックした。


「アルマです。直哉君を連れてきました」


アルマ、というのが直哉の目の前にいる女性の名前らしい。直哉がそう考えた瞬間に士官室の中から返答が返ってきた。


「入ってきてくれ」


野太い男性の声だった。その声を聞き、アルマが部屋の扉を開く。


直哉はゆっくりと部屋の中に足を踏み入れたーーー


続く

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バーバ・ヤガーに花束を @komatu174

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