第9話

夏儺での想い



「!!」



病院に着いた時にはもう処置は終わっていて、

皮膚が見えないほどに包帯やガーゼがついていた。


とても痛々しい。



「むー?」



起きない。


力なく夢眠に歩み寄り、

夢眠の手を握ると膝から崩れてしまう。



「ごめ、むー。何も出来なくて。むー、帰ってきてよ」



両目からボロボロと涙が溢れてくる。


もう、あのツンデレで、

笑った時が可愛くて、かっこよくて、

優しい夢眠に会えなくなるかも知れない。



「むー。また、キスしてよ。


また、なっちゃんって呼んで」



それから僕は毎日夢眠に会いに行った。


でも目を覚ますことはない。


僕が勝手に朝日奈先生の運転で

会いに行って夢眠の筋肉が固まらないようにマッサージして

(ネットや苦手な本で勉強した)たわいない話をしてキスをして帰る。


けれど。




それは1週間しか続かなかった。






「夢眠!」



病院から夢眠が危ないと連絡が届いたので

急いで朝日奈先生の車で来た。


でも知ってる。


そういう時は大体、




死ぬって事を。





馬鹿なりに勉強したから。


病室に着くと処置も何もせず

主治医の先生と看護師はこちらに頭を下げて挨拶をした。



「5分ほど前から脈拍が薄くなってきました」


「大丈夫なんですか、夢眠は」



大丈夫じゃないって、

解ってるはずなのに聞いてしまう。



主治医の先生は首を横に振った。


夢眠の横の機械は弱々しく

ゆっくり音を鳴らしている。



「むー?聞いてる?僕を置いてかないでよ」



夢眠の脇に座り、手にほおをつける。



「もっかい、僕に笑って?


もっかい、僕にキスして?


もっかい、僕を抱きしめて?




夢眠、僕は一生夢眠しか見ない。




だって、



世界で、


宇宙で、


この世で夢眠のこと1番好きだよ。


愛してる」



そう告げると夢眠は


それをしっかり聞いていたみたいに一雫涙を流して



僕を置いていった。

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