第6話

タイムリミット


結局、

それから話せるときは自分の過去

(父親に襲われたことは言ってない)

をはなすことになってしまい、



「はぁ。疲れたんだけど。寝かせて」



寝る寸前まで班長の部屋で話をさせられた。



「夢眠、お前頑張ったな」


「何を」



なんかよくわからないが。


でも、自分から昔の話をしようとしたことは初めてで、

そうやって言ってくれる奴も初めてだった。



「じゃあ、部屋戻る。夏儺行こ」



返事も待たず、立ち上がると。



「へ、夢眠⁈大丈夫⁉︎」


「花影⁉︎」


「うわ、ちょなに⁉︎」


「どうした⁈」



体がぐらりと傾いた。



「ん、大丈夫」


「じゃないでしょ!」


「先生呼ぶか?」


「いいよ」



まぁ、中は大丈夫ではない。


実はまだ夏儺にも言ってないこと。


それは言わないことにしているから。



「ごめん、俺が話させたから負担がかかったんだろう。部屋まで送っていくよ」


「ごめんな。夏儺、先に帰ってていいよ。ちょっとポカリ買ってくる」



班長にはちょっと申し訳ないけど、勘違いしてくれてよかった。



「分かった。夢眠の荷物、持ってくね」







「なぁ、花影」


「何?」



ピッ。とボタンを押し、ポカリを買い飲む。



「お前、もしかして、死ぬ気じゃないだろうな」


「ゴホッ」


むせた。


「お前と新垣、さっき2人でどこか行ったとき、

本当はホテル行ってたんだろう。

新垣の首元に薄くだが跡がついていた」



うわぁ、やばいなー。

でもよかった、気づいたのが班長だけで。



「だが普通愛し合うなら

濃くつけるのが普通ではないか?

それに、今日は何時もよりも雰囲気が違うし、

自分の過去のこと中心に多く喋っている。その話も話だしな」



あう。

色々と図星だな。



「この修学旅行が終わったら何処かで自殺するのではないか、そう考えたんだ」


「うう。なんかすんません。

色々とバレてたな。夏儺の事は本当に好き。でも、本当にこの世界で生きていくのが辛いんだよ。

夏儺には本当に申し訳ないけど言わないで」



本当はもっと跡を強くつけたかった。


もっと深く繋がっていたかった。


もっと抱きしめていたかった。


もっと夏儺に触れたかった。


でも、もう苦しい。


体が、心が限界。



「…お前、まだ隠している事あるだろう」


「うん、いっぱい。って、隠してるわけじゃないんだけどね」




「新垣ー。すまん、立ち話が長くなってしまってな」


「そっか。ちょっと心配した。お帰り、夢眠」



とさっ、と夏儺の肩に乗る感じになってしまった。

だるい。



「んー」



少し体調が悪くなって来たな。


頭痛が酷いし、胸も痛い。



「あ、班長もう少しで消灯時間だよ」


「そうだな。すまん、あとは頼んだ、新垣」


「うん。夢眠、どうする、お風呂」


「ごめん、入れそうにない」



そう言うと無言でベッドまで運んでくれた。



「どした?風邪ー?」



こつん、とおでこをあわせて熱を測る。


うわ、近い近い可愛い。



「熱はなさそうだねぇ。風邪じゃないのか」



んー、なんだろと考えてくれている隣で

少しキツくなってきて声を出せないほど

小さく唸っているとドアがノックされた。



「おーい、寝たか?」


「なんか先生来るとか

小学生とか中学生みたいで笑える。

ちょっと行ってくる」



とたたっと高校生男子とは思えない軽い足取りでドアに向かった。


すると少し話していた2人が部屋に入ってきた。



「やっぱりお前、ダウンしてたか。

ごめん新垣、1回廊下出てくれないか?」



僕の事情を知っているから一旦夏儺を廊下に出してくれた。


戻ってくると僕のカバンから「開けるぞ」と言って薬を出してくれた。



「ありがと」


「夢眠、さっき聞いたが、大丈夫か?」



…。班長、知らせてくれたんだ。



まぁ、中学の時に3年間担任をしてくれて

何故か僕がここに入学すると同時に

こっちに赴任して来て

翌年に2年生の学年担当になった朝日奈先生。



「んー、最近自分で死ぬか、これに殺されるか微妙になってきた」



この先生は、余り自殺することを止めない人だからいい。



「そうか」


「と言うか、本当は入院しないと駄目らしいけど、

あと少しだし、お金ないからやめた」



バイト代は入院代よりも

修学旅行費に充てたかったから。


最後の思い出作りとして。



「んー。なんか何も言えんな。複雑。夢眠が一番やけどな」



僕と2人の時は地元の岐阜弁

(なんかちょっと関西弁っぽい。

イントネーション的には岐阜弁らしい。)

になるらしくてそれがいつもおもしろかった。



「先生、鞄の中から茶色のノート出してくれる?」


「あぁ、あれか」



先生がいるときか1人の時に書いている日記を取ってもらう。


誰かに読まれないように。


だが、僕は英語で書くようにしている。


…英語が苦手な夏儺の為に。

(まぁ、読まないと思うけどね。)



「今のうちにしか書けないし」


『School trip 1st day .

I was told you like it.

I’m really happy, bat

I can’t spend it all the time .

I’m sorry. Thank you,kana.』



「んー、やっぱ俺も寂しいわー。夢眠が居なくなるとか」



頭に手が伸びてくるが一度止まった。本当はがしがしと撫でたいはず。


でもそれがダメなことを知っているから


優しくポンと撫でてくれた。



「じゃ、俺行くわ。あまり無理するなよ」


「ありがとう、先生」



先生と入れ替わりで凄い勢いで夏儺が飛んでくる。



「夢眠ー?無事ー?」


「休めばなんとかなるよ」


「本当?信じていいの?」


「良いんだって」



ごめんね、夏儺。

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