第2話ナギサの来訪

 男だったか…いや髪長めだし、この美形は分からないだろ。


「ご、ごめん。気にしてたか?」


 美少女改め美少年は、気を悪くしたようでさっきまでと表情を変えている。


「別に、気にしてないよ!だけど、だけどね、僕のことを二度と女の子扱いしないでくださいね!酷いです。ちょっと僕の顔が可愛らしくて、髪さらさらで、足首細くて、ちょうど上目遣いになるくらいの身長だからって!」


 別にそこまで褒めてねぇんだけど、というか結構自分の見た目気に入ってんじゃねぇか。


「あー悪い、悪い。とにかくだ。これからは歩く道にも気をつけるんだぞ。お前一応そんな見た目だし。わかったか?」


 少年はまだ不服そうにこちらを見つめている。


「ナギサです。」


 なんの話だ?こちらの戸惑った顔を見て付け加えるように言う。


「僕の名前ですよ渚です。気に入ってるので二度とお前なんて呼ばないでくださいよ。」


 今度は呼び方にご不満とは…忙しいやつだな。


「それじゃあ渚くん?ね、お家に帰ろうか。きっとお父さんとお母さん心配してるよ。」


 そう言うと渚は急にもじもじと言葉をにごらせる。


「えーと…お父さんとお母さんは別に心配していないっていうか…実は頼みたいことがあるというか…。」


 頼み事とは、道案内ぐらいならばしてやろう。


「実は探しモノをしていまして、それを探すために田舎から出てきたんですよ。」


 おお、それは大変だ。


「それであまりお金も持っていなくてですね…。」


 おお、それは、大変だ…。


「頼みっていうのはお家に泊めてもらうことはできないかな?と…。」


 おお、それは…


 30分後、渚は俺のベッドに飛び込んでいた。


「イヤッホー!やったー!久しぶりのお布団だ〜。顔に似合わず結構いいお布団使ってるじゃないですか!」


 余計なお世話だ。しかし、出会って30分かそこらの未成年を自宅に招き入れるとは俺もなかなかお人好しだ。かく言う俺も未成年に違いないのだが。


「それにしても、樹って結構ケチなんだね。家に泊めるのもだいぶ渋ってたし。こんなに困ってるのに!」


 いやいや、結構スムーズに話は進んだと思いますけど?尋いたのは、最低限の質問だけ…というか急に呼び捨てとか、距離感の詰め方どうなってんだよ!


「普段僕がお願いしたら、み〜んななんでも「はい」って言うこと聞いてくれるのにな〜」


 まったく、どうやったらそんな幸運な人生を送れるんだよ。


「はいはい、そっちが呼び捨てだから俺も呼び捨てで呼ばせてもらうけど。渚、お前ドロドロだからベッドに入る前にシャワー浴びて来い。」


 渚は自分の姿を見て、俺が指差す方に歩いて行った。


「ねー、お風呂じゃだめー?」


「2人しかいないのにお湯がもったいないだろ、シャワーにしとけ。」


 渚がお湯を流す音が聞こえてくる。何やら鼻歌を歌っているのまでも聴こえているが、伝えた方がいいだろうか。


「あのさー、樹は一人暮らしなの?」


 渚が風呂場から大きな声を出して聞いてきた。


「そうだ。それと、うちのアパートはボロいからそんなにデカイ声は出さなくていいぞ。ちゃんと聞こえてくる。」


 返事をしながら俺は夕飯の支度を始める。2人分作るのは初めてだ。


「えーと、お父さんとお母さんは?一応連絡しといた方がいいのかな?」


 冷蔵庫の中を覗くと中華そばがある。焼きそばでも作るか。


「いや、俺は孤児なんだ。親はいないよ。16年前新人類との争いが激化したとかあったろ?その時に孤児院の前にすてられていたんだと。よくある話さ。おおかた経済悪化だとか徴兵に引っかかってだとかで育てられなくなったんだろーよ。まぁ、育ての親と言えないこともない人もいるし問題ないよ。」


 ふーん。と風呂場からどうでも良さそうな渚の声が聞こえた


「あー。悪かったな、自分語りなんてしちゃってよ。」


 体を洗い終えたようで、渚がタオルをとる音が聞こえる。


「別にいーよ。それに血が繋がって無くても、親だと思える人間がいるなら。それだけでも幸せだと思うよ。」


 シャワーを浴び終えた渚は俺のブカブカのTシャツと短パンをいた姿で出てきて俺に言った。


「そーだな。」


 俺はニッと笑って焼きそばを作った。


 俺の作った焼きそばは、冷蔵庫に入っていた肉やら野菜やらを取り敢えず入れただけのものだったが、渚は気に入ったようで2回おかわりしていた。

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