第27話 吐き気

開かれた扉の向こうもまた豪奢な部屋だ。

重厚感のある赤い絨毯に、飴色に輝く家具。

年季が入ったカウチでさえ、趣味が良い。

ガラス棚には年代物の洋酒が並び、蓄音機からはジャズが流れている。

そして頭上に燦然と光るシャンデリア。

異国へ渡り一代で身を立てた男の、意地を感じるようだった。


クリーム色のカウチは部屋の中央に二つ配置されている。

右手に現地人の夫妻が、左手には豊田の旧知の友人が深々と腰掛けていた。

「やあやあ、桐島くん。」

豊田の友人とは、私も顔を見知った中だった。

親しげに声をかけてくる男は、港湾都市と祖国を繋ぐ貿易商として名高い。

「ご無沙汰しております、堤社長。」

「いやあ。暫くぶりだね。見ないうちに、男ぶりが上がったよ。」

「いえ。そんなことは。」

「本当のことさ。さてはいい女でもできたのかね。」

丸メガネの上から丸い瞳がのぞいている。

好奇心を募らせた目。

だが、甘くみてはいけない。

この上役にして、この友人ありだ。

そして、曲者の知り合いは大抵が曲者である。

「どうなんだね。んん?」

揶揄うように探りを入れてくる。

「残念ながらそちらの方はからっきしでして。」

頭を掻いて苦笑いする。

年配者のこういう絡みは案外面倒くさい。

「そうかね。それは悪いことを訊いたなあ。もし女日照りなら、一人か二人融通するが。」

金を持っている男にありがちな話だ。

己の愛人のことでも示唆しているのだろう。

「私には勿体無いお話ですよ。」

下世話な男に吐き気がした。

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幻影と愛染 吉野コウ @ladygaga

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