第17話 えくぼ

『ごめんなさいね。話に夢中になってしまって。』

彼女が心底楽しげに笑う。コロコロとなるような声は可愛らしい、と思った。


『こちらこそ名乗りもせずに。』

柄本が名刺を取り出すのと同時に私も我に帰った。

低い卓の上に小さな白い紙が二つ。


『柄本さんに、桐島さん。』

おそらく漢字の下に印字された英文字を読み取ったのだろう。

それぞれと目を合わせて、彼女は確認する。

『日本のお名前は、いいわね。涼やかだわ。』

『いいえ。マダムほどでは。』

柄本は馴れ馴れしく彼女に話す。

『あら、私の名前をご存知なの?』

『丘の上にレティシアという名の美しい女性が住んでいると噂で。』

歯に浮くようなセリフを言って見せる友人に渡した辟易していた。

『冗談がうまいのね。』


『私の名前はレティシア・リシャール。丘の上に暮らしているけれど、褒めそやかされるほど若くはないわ。』


悪戯っぽく微笑む彼女の頬にえくぼがふたつ、並んでいた。

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