第13話 応接間の会話

身を縮める私の向かいで、柄本は肩を震わせていた。

「何を笑ってる?」

「何って……」

「何が面白いんだ。」

「お前だよ。」

「はあ?」

「面白いに決まってるだろ。お前いくつだよ。」

「今年で二十六だが。」

私の答えを聞くなり、また柄本は震え出した。

「お前、どれだけ女慣れしてないんだ。女を抱いたことないのかよ。」

「ある。」

もちろん人並みに経験は済ませた後だった。二十五ともなれば。

「それでアレか。じゃあまだ見ぬご婦人に恋してるってわけだな。」


そうではない。とは言い切れなかった。

むしろ、肯定する方が簡単だった。


「彼女は記事を書くのに必要な情報を持っているかもしれない。それだけだ。」

毅然とそう言ってみせた。

「嘘だな。お前鏡を見てきたほうがいいぞ。どれだけ緊張してるか確かめてこい。」

「緊張はしてるさ。なにせ出世を懸けた大勝負だ。」

「いいや。お前のそれはとびきりの女に会いに行く時の男の顔でしかない。にやけるのを必死で抑えてる。」

指を指されて、思わず頬を手でなぞった。

「ほら。」


まあせいぜい格好つけてろ。


悪友の軽口がこんなにも癪に触るのはその日が初めてだった。

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