第8話 酒場の女

「よお。久しぶりだな。ホンファ」

「コンニチハ」

背後から声をかけてきたのは、女給だった。

「もうこんにちは、じゃなくってこんばんはの時間だけどな。」


『無理して日本語使わなくてもいいんだぜ?』


柄本は女給に異国の言葉で諭す。

『エモトさんがよろこぶかと思ったの。』

女も異国の言葉で返す。

『なあんでも嬉しいさ。お前のすることなら。ありがとうな。』


そういった優しげな言葉で女を誘う男だ。案の定ホンファと呼ばれた女も、その眼差しは熱を求めている。


首筋のあたりで揺れるその黒髪の裾がなんとも扇情的だった。

なかなかの器量で、赤く彩られた唇は艶めいている。

安酒を出す店にはもったいないくらいの女だと思った。


「おい、ホンファなら何か知ってるかもしれないぞ。あの写真貸してみろ。」

柄本に促され、手帳の写真を取り出した。

『突然なんだけどな、この女に見覚えはないか。』

写真を奪うと、柄本は女給に向かって掲げる。

『この、俺の友達がな。この女を探してるんだ。』


尋ねられた女給は、ゆっくりと首肯した。

『知ってるわよ。』

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