第9話 アレクサンドリア図書館関連書誌

 二〇一五年の二月の初め――


 都内の私立大学で講師を務めている有栖川哲人(ありすがわ・てつと)は、春休み休業期間を利用して、研究と観光のためにパリを訪れていた。

 有栖川が来年度に担当することになっているのは『文化論』で、春学期には「書物の消失」というテーマで講義をする予定であった。

 およそ二ヶ月に渡る海外滞在になるため、哲人は、来年度の前期講義の準備のための資料として、日本からフランスに何冊もの書物を持ち込んでいた。

 短期滞在用のアパルトマンの中で、哲人は荷解きをしながら、スーツケースから、一冊一冊を取り出して、それらを出版年代順に、貸部屋に備え付けられていた本棚に並べていった。


 エル=アバディ(モスタファ)著 ; 松本慎二訳,『古代アレクサンドリア図書館:よみがえる知の宝庫』、中公新書[1007 ]、東京:中央公論社、一九九一年,一九九頁。

 カンフォラ(ルチャーノ)著;竹山博英訳、『アレクサンドリア図書館の謎:古代の知の宝庫を読み解く』、東京:工作舎、一九九九年,二八二頁。

 フラワー(デレク)著;柴田和雄訳、『知識の灯台:古代アレクサンドリア図書館の物語』、東京:柏書房、二〇〇三年、二五四頁。

 バトルズ(マシュー) 著;白須英子訳、『図書館の興亡:古代アレクサンドリアから現代まで』、東京:草思社、二〇〇四年、三〇二頁。

 野町啓『学術都市アレクサンドリア』、講談社学術文庫[1961]、東京:講談社、二〇〇九年、二五〇頁。

 フォースター(E.M.)著;中野康司訳、『アレクサンドリア』、ちくま学芸文庫[1961]、東京:筑摩書房、二〇一〇年,二一一頁。


 有栖川は、書物破壊の歴史の中でも、まずは、古代エジプトのアレクサンドリア図書館から集中的に調べようと考えていた。


 そうだ、パリ滞在の合間に、時間を設けて、パリの図書館や古本屋を巡ってみることにしよう。

 どの図書館にしようか?

 フランス国立図書館(ビブリオテーク・ナショナル)にしようか、それとも、ポンピドゥーの図書館にしようか、あるいは、サント=ジュヌヴィエーヴ図書館にしようか?


 本の頁を捲りながら、そんなことを考えていた哲人だったのだが、時差ボケ対策のために、飛行機の中で睡眠をとらなかったせいで、突如として眠気を覚えてしまった。哲人は、なんとか気力を振り絞って、本棚の前から寝床へと瞬間移動した。そうして、ソファーベッドの中に潜り込むや否や、たちまちの内に深い眠りへと落ちてしまったのであった。

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