1-10 ギルドに戦士の誇りは測れるか

「ギルドを知らないとか、一体今までどこで育ってきたんだよ」


 そこらの子供でも知ってるぞ。


「普段は一族の皆と屋敷に住んでいてだね。あまり外のことは知らないんだ」

「屋敷ぃ?」


 普段聞きなれない言葉に、思わず聞き返す。


「そうだとも、そこで日々戦うための訓練をしているのさ」

「へぇ……ん? だとすると、普段の魂の回収はどうすんだ」


 戦って死ぬ奴がいない日なんて、あるわけがない。

 魂というのは、ほったらかしにしていいものなのか?


「普段は召使とかがやってくれるんだ」

「召使とかいんのかよ」


 斜め上の回答に、びっくりする。

 召使がいる家なんて、そうないのだが……。


「シュバルツ家は誇りある一族だからね。仕え人もいるさ」

「高貴な出というのは本当だったんだな……」

「む? 信じてなかったのかい」


 心外そうな顔をするな。

 仕方ないだろ。この二日の出来事を思い返してみろ。


「だって金も持ってないし、全く偉そうに見えないし……それに、会った時服着てなかっ」

「変態! さっさと忘れてよ!」


 いやぁ……忘れたいのは山々なんだが。

 インパクトが強すぎて、すぐには難しそうだ。


「というより、なんであんとき裸だったんだよ。理由によってはルアネのほうが変態認定まっしぐらだぞ」

「まだこの話するの!? 恥ずかしいんですけど……。その、あれなのよ。一族のしきたりなの」

「裸で飛び回るのが?」


 真っ赤になりながらルアネが頷く。

 なんだ。そのしきたりは。

 シュバルツ家とは一体何なんだ。

 戦闘民族で、上流階級らしくて、そのうえ変態の集団かよ。

 ……全く想像がつかないな。うん。


「そ、そうなのよ。なんでも立派な戦士になるための試練みたい……な?」

「ふぅん……なんというか大変なんだな。死神も」


 裸で外に出るとか、俺だったらお断りだな。


「あまり深堀してこないのね。……私が言うのもなんだけど、結構変なしきたりだと思うんですけど」

「あ? ……まぁ、誰にでもそういういえないことの一つや二つあるだろ」


 死神には死神の事情があるのだろう。

 そう思うことにした。

 思考停止ではない、決して。


「ふふ、意外と優しいのね」


 顔を赤らめつつ、ルアネがそう呟く。

 いきなり褒められると、何というか困るな。


「……話し方変わってんぞ」

「つっ! わ、分かってるわよ! ……ごほん。わかっているとも。それよりギルドについてさっさと話してくれたまえよ」


 苦し紛れにそう指摘すると、ルアネは慌てて取り繕いつつ話題を変えようとする。

 ホントかよ。俺が言わなかったら、気がつかなかっただろ。

 まぁいい。

 話を戻して、ギルドについて説明するか。


「ギルドの話をするのはいいんだが、そもそも冒険者ってのはわかってるんだよな」


 もし知らないなら、そこから話さないといけないからな。


「あぁ、冒険者なら知っているとも、モンスターと戦って死んだり、そこら辺の荒野で野垂れ死にしてるやつらのことだろ?」

「間違ってはないけどさ……」


 微妙に認識が違う気がするものの、知らないわけではないようだ。

 話を続ける。


「そういった冒険者を支援したり、金を払ってくれたり、評価するのがギルドの仕事だ。他にも色々とやってはいるけどな」

「評価?」


 ん? 変なところに食いつくな。

 こいつのことだ。「お金をたくさんくれるのかい!?」とかいうかと思っていたが。


「あぁ、冒険者をランクごとに分けて、それに応じてクエストを紹介してくれるんだ。あー、クエストってのは仕事の依頼のことな」

「へぇ、何というか変な組織だね」


 ルアネは不思議そうに言う。


「どこがだよ?」

「いやだって、支援するということは冒険者の召使みたいな立ち位置なんだろう? なのに、そんな彼らが冒険者を評価するのかい?」

「それがギルドの仕事だしな」

「うーん」


 納得してなさそうだ。


「冒険者というのは戦士だろう?」

「戦士じゃない奴もたくさんいるけど、まぁそうだな」

「なら自分の誇りを周りからとやかく言われるのは嫌なんじゃあないか」

「ん?」


 冒険者からどうして誇りの話になるんだ。


「戦士たるもの、自分で自分の力を信じてこそじゃあないか」

「あー、なるほどな。評価そのものが、そいつの実力だと思ってるんだな」


 コクリと頷くルアネ。

 ようやく合点が言った。


 戦う能力があるなら自分で、どれぐらい戦えるかの見極めはできて当たり前。

 それなのに、戦うこともないギルド職員に一方的に決めつけられるのが我慢ならない。


 そう言いたいようだ。

 なんというか、戦士らしい考え方だった。

 この誤解は晴らしておいたほうがいいな。


「そういう疑問だったなら、さっき答えたことは訂正しないといけないな。冒険者と言っても戦士だけじゃないんだ」

「む、そうなのかい」

「あぁ非戦闘職と言われる奴らだって冒険者として働いてるんだ。それこそ俺とかもそうだぞ。これまではもっぱら罠の解除とか、バックアップばかりしてたんだ」

「あぁ、そうか。キエルは戦えなくて、追い出されたんだっけか」

「ぐ」


 悔しいけど事実だ。事実なのだが、わざわざ言わなくても。

 ちなみに、昨日の時点でルアネには追放されたときの詳細は話済みだ。

 腹抱えて、爆笑してたよこいつ。


「ん、すまない。あまり言わないほうがいいのかい。まぁキエルが弱かったんだから、仕方がないんじゃあないか」


 あっけからんといった雰囲気で、ルアネが言う。

 戦闘至上主義者みたいなこと言いやがって。

 くそ。俺は戦闘以外で役に立ってたんだ。

 いつか思い知らせてやるからな。


「覚えとけよ……ともかく非戦闘職もいるから、そういう奴らには、一定の指標としてランクの評価が大切なんだ」

「なるほど。それなら戦闘職には評価は必要ないんじゃあないかい?」

「わざわざ分けるのが大変だろ。分けても申告を偽る奴もいるだろうしな。それに冒険者ってのは、だいたい自分の実力を過大評価するからな。どちらにせよあったほうが都合いいんだろ」

「自分の実力も把握していないとは、戦士の風上にも置けないね」


 手厳しい感想だこと。


「まぁともかく、冒険者のために力を尽くしてくれる組合がギルドだ」

「なるほどねぇ。じゃあ私が冒険者になるのも簡単なわけだね」

「あぁ。登録すればいいだけだからな。ほらついたぞ」


 目的地に到着したので、足を止める。

 といっても、ルアネも知ってるんだがな。

 昨日で初めて出会ったところだし。


「なんだ、ここが冒険者ギルドだったのか。道理で戦士たちが多く集まっているかと思った」


 納得するルアネ。

 本当に知らなかったのか。

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