第19話 朝の時間 コンサート

ここのところ、家では主にショパンを聴いている。

手持ちのCDやe配信なので、何か物足りなさを感じていた。


たまには生演奏を聴こうと思いたち、とある国際

ショパンコンクールコンテスタントのオールショパンコンサートへ。


コロナ禍に入り、コンサート会場へ出かけるのは本当に久しぶり。


全席指定コンサートは、いい席を確保するのがポイント。開催直前の申し込みにつき、チョイスが少ない中の参戦。


今回はピアノのコンサート。弾いているところがよく見える左側の席は既に満席だ。


「音がバランスが良く聴こえる」と人気の中央の中列。こちらも残念ながら空きがない。


二階席の真ん中も埋まっている。


今回は500席程の、ピアノコンサート向きの中規模会場。


色々悩んだ末、何故か空いていた最前列のやや右の席を選んだ。


映画を見にゆくときもそうだが、足をゆったりと伸ばせる最前列を選びがちな傾向がある。


コンサート当日。


グランドピアノの大音響を間近に味わう。

よく見ると、マイクが何箇所かに仕込んである。


目の前で上がっている蓋にピアノの弦と、ピアニストの手が映って眩しく反射する。


思わずプラトン哲学に浸っている自分がいる。


キラキラと光をちりばめたような音色。

そして、奏者のショパンへの情熱を噛み締めながら、目を閉じて聴き入った。


途中、おもむろに眼を開いた時のこと。


「ぎょっ」


何と、ピアニストの首がピアノ越しに生首みたいに浮いて見える!さらに、ピアニシモから突然フォルテシモ展開する時、振動を腹に衝撃が走る!


席が当たりかはずれかは、実際コンサートが始まらないとわからない。

これは当たりなのか?


残り物に福があるというけれど、やはり残るからにも意味があったのだと思う。


「‥‥」


素晴らしい演奏だった。でも、何か見てはいけないものを見てしまったような気持ちになった。

コンサートは音だけでなく、視覚も大切だ。


次回は早めに良い席を確保したい。


と言いつつもクセになり「生首席」リピートするかもしれない。


家に戻り、会場で購入したCDを流しながら眠った。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


虫の音が聞こえる。


つい この間までは蝉が鳴くのが聞こえていたのに、いつの間にか涼やかな虫の音にバトンタッチしている。


「若干涼しいかな」と思いながら、肌がけ布団を引き寄せた。


ベットサイドテープルの上に、昨日のコンサートのパンフレットがあるので手に取った。


写真は、若くてあどけない。しかし、昨日見た人は痩せて、髪と髭を伸ばしたい放題の年よりかなり老けた容貌。


確かに。

この一年で、人々の暮らしは大きく変わった。


メッセージ文を読んだ。


籠っている間、ありとあらゆる本を読んだと書いてあった。そして色々と学び直した‥らしい。


SNSやってなさそうな人だものなぁ‥

仙人みたいな生活してたのか。


そうして生まれた世界観を披露してくれたのだな‥


ヨーロッパには、芸術家が育つ環境が整っている。

時間がゆっくりと流れ、中世の街並みが残っていたり、活動する基盤が整っている。


コロナが過ぎ去ったら、また出かけよう。


(後日談)

この年のショパン国際ピアノコンクールで、このアーティストは高評価!


翌年も 日本でのコンサートツアーを行いました。


後に知ったのですが、コンサート当日 録音をしいたらしく 公共放送でこの日の音源が放送されました。

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