あまりにも危うい無垢、その上に建てられる幸せの楼閣の残酷さ

 恋する青年が、思い人へと贈る花を摘もうと登った山の上、翼を持つ幻獣「ハルピュイア」に出会うお話。
 悲しい恋のおとぎ話です。いや「悲しい恋」で済ますにはあまりにも重いというか、古典的な童話顔負けの残酷さを孕んでいるのですけれど。
 タグの「悲恋」の文字を見るまでもなく、もう露骨に悲劇を予感させる、この序盤から中盤の展開。ハルピュイアの無垢さに若者の朴訥さ。「絶対このままハッピーエンドとはいかない」と、堂々知らしめた上で積み重ねてくる幸せの描写というか、初々しくも奥ゆかしい恋の成立を一からやってみせるところがもうあまりにも、こう、(これは本当に賞賛の言葉だと、読んだ方ならわかると思うのですけれど)意地悪でした。なんてことを……この青写真を頭に描けることもなのですけれど、単純にこの設計を成立させてしまう剛腕がもうとんでもない。
 娘こと〝薔薇の姫君〟さんが好きです。特に終盤の山場の彼女がもう大好き。総じてとても残酷な物語ではあるのですけれど、でも決してただ残酷なだけではないというか、
「彼らには幸せになってほしいのに、でもそうならないところがこの話の本質である以上、結局本当に読みたいのはそこ」
 という意味で、最高に胸に突き刺さってくるお話でした。こちらの望みをあべこべに引き裂いてくるこの感じ! 大好き!