羅列

  4月 余震の音に慣れ始めた


 震災の影響で、自室に雨漏りが発生。

 天井修理を行ってもらっている期間中に降水。

 業者の補強が甘く、私がアルバイトに行っている間にふたたび雨漏りが発生。

 それにより、某アニメの初回限定盤DVD、第一期と第二期が全巻水没。

 被害総額10万円超。弁償されたお金は半分未満。



  5月 たまにデカい余震が起こり全身が飛び跳ねる


 我が家には新しい風呂が設置され、地盤の強化も終わった。

 母の老後の金まで終わってしまわなければ良いのだが、という不安がつきまとう。



  6月 地震の起きない日はない


 震災の影響で、家のあちこちに隙間ができた。

 そこからムカデが頻繁に侵入してくるようになった。

 ムカデ戦は、終始緊迫しっぱなしだ。



  7月 今月は大きな地震が頻発している


 ムカデのみならず。家にはが大量発生。

 キーボードを打っている最中、机上を――目前を――両腕の下を――高速で通過されてしまうくらい、大量発生。奴の名は?

 芥虫、油虫、御器囓、cockroach――(あえてルビは控えておく)。



  8月 地震よりも暑さが堪える


 虫の数、増加。

 あゝ――増加。

 虫たちとの戦闘回数も増加。



  9月 上辺では正常


 我が家は、いつもの光景に戻った。

 ――心の中を除いては。

 やはり、ギスギスはしているのだ。上辺では仲良く接していても、ふとした拍子にあの時を思い出して、気が違ってしまうのだ。



  10月 恐怖はだいぶ忘れていた


 時間とともに、教訓まで忘れかける。

 だからこそ己が心に、『忘れてはいけない』と言い聞かせ、それこそ洗脳のように、恐怖をずっと植えつけなくてはいけない。――本当にそうなのか?


 被災していない人間が『忘れてはいけない』と、うそぶく。

 被災した人間は『忘れられない』と、声を小さくする。

 これが現実ではないだろうか。



  11月 忘れかけた震度5強に戦く


 なんでもそうだが、気を抜いている時に『訪れる』とビックリ! するものだ。

 サプライズプレゼントもしかり、学校のテストもしかり、人の死もしかり。

 地震もしかり――



  12月 ニュースは震災で持ちきり


『今年は、誰しもが予想しない出来事が起きてしまいました。しかし皆で力を合わせて、復興を行っています。東北では、まだまだ仮設住宅で生活している方が大勢いらっしゃいます。そして、多くの犠牲者が出たこともまた事実で――』


 こういうことを放送すれば、視聴率が取れるのか?

『わすれない』とは言うが、そっとしておくことはできないのだろうか?



  1月 新年も震災で持ちきり


『去年は、誰しもが予想しない出来事が起きてしまいました。しかし皆で力を合わせて、復興を行っています。東北では、まだまだ仮設住宅で生活している方が大勢いらっしゃいます。そして、多くの犠牲者が出たこともまた事実で――』


 コピー&ペーストでも、視聴率は取れるのではないだろうか?

 メディアは、いつからこうなったのだろう。

 いや、昔からこうか。



  2月 無心


 来月は、いよいよ一年――なんて、日々思っていた。

 だからこそ無心なのだ。



  3月 この月も震災で持ちきり


 2012年 3月10日 2時25分頃 茨城県北部 震度5弱

 丸一年が経とうとする頃、やはり大きな余震はやってきた。

 あの時の恐怖を思い出し、同時に悟ってしまったことがある。

 これから何年間も――ずっと、余震と付き合っていかなくてはいけないのだと。

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