第7話 本当の陰キャを舐めないでいただきたい
「気を付けてね、セレス、嫌な事があったらすぐ戻ってきていいのですよ?」
と、母。
「虐められたら兄さんに言うんだよ?無理はしないでね」
「セレス!虐められたら僕がすぐ駆け付けるから言えよ!」
次に、兄ズ。
「気を付けて行っておいで僕の可愛い娘セレス」
最後に父が微笑みます。
「はい、お父様、お母様、リュートお兄様にアレスお兄様」
と、涙目に見送る家族に手を振り、私は歩き出しました。
こんにちは、今日からセレスティア・ラル・シャンデール(10歳)(王族)改め、セレス・キャラデュース(10歳)(平民)となったセレスです。
なんとなく思い付きでなろう小説のように学校に行って俺tueeeしてみたいと父に願いを出したところ、なぜかそのまま快諾されてマジで平民のふりをして魔術学校に通う事になりました。
自分から言い出した事なのに家族とのお別れに涙が出てしまいそうになるのをこらえます。
私は貴族特有の銀髪では目立つので茶髪に髪色を変え平民風の装いになっています。
身分は商人の家の娘という事になっており、偽装両親もちゃんと用意してあるという徹底っぷりです。
流石善王と言われる父です。やる事に抜かりがありません!
ただ子育てだけは失敗したようですが。
それは前世の記憶を憶えているというイレギュラー要素があったためで仕方がないのでしょう。
「行くぞセレス」
本物父たちと別れ、駅に着いたところで偽装父が私を魔道機関車に乗るように指示します。
「はいお父様」
乗り込む私。
私達は機関車に乗って魔法都市サラディウスに向かいます。
この世界は魔王に聖王国が滅ぼされる前は魔道機関車が走っている設定でした。
ただ魔王軍に線路をずたずたにされてしまい、ゲームでは動けない設定でしたが。
私がさっくり魔王を倒したので、現在も健在のようです。
なんだかあれですね。
こういうのはゲームオタクとしてはドキドキします。
大体ゲームでは機関車はフラグでなにかイベントがおきるものですが。
などと思いながら電車に乗り込めば。
「や、やめてください」
「いいだろう、貴族席に入れてやるっていってるんだつきあえよ」
いかにも高そうな服を着た金髪の悪ガキが、制服のような恰好をしていた少女の手を無理にひっぱっていました。
早速イベントですか。
少女はピンク髪でとても可愛らしく年齢も私と同じくらいでしょうか。
大方、可愛いから貴族席にいれてやるよ!→すみませんごめんなさい!
からのこの展開なのでしょう。
すごく……Web小説っぽいです。
ここで助けて流石主人公!をされるのですね。
初めて異世界に来た感じがします。
これはぜひ助けなければ!
私はがしっと金髪貴族の手を取ると
「な、なんだ!?」と貴族が睨んできました。
ここは斜め45度の決め顔で決めるべきと、きっと貴族をにらんでかっこよく言い放ちます。
「や、やめなひゃい!!!」
……と。
「………」
「…………」
噛みました。いますごく噛みました。
かっこよく決めようとしたがあまり、おもいっきり声が上ずりました。
恥ずかしいです。現実は小説のようにうまくいきません。
あまりにも恥ずかしすぎて少し涙目になってしまいます。
そもそも陰キャが転生したからといって、いきなり出来る子になるなんて夢を見たのが間違いなのです。
よくよく考えれば、両親や兄弟ががっちりガードしてくれていたため、顔なじみ意外とあまりしゃべった事がないのに、いきなり第三者に挨拶もなくかっこよくしゃべれるわけがなかったのです。
Web小説でよくコミュ力皆無の陰キャが異世界転移するとオラオラとイキルキャラになれるといいますが、あれは嘘です。
本当の陰キャは決め台詞すら声がうわずって上手く言えません。
マジの陰キャの出来なさを舐めないでいただきたい。
恥ずかしいです。穴があったら入りたいです。
いやむしろこの場に穴をつくるべきでしょうか。自力で。
「はぁ?」
貴族が侮蔑をこめた目で見てきます。
「うるさい平民が黙ってろ!!」
と、魔力を放ってきました。
王族の専属教師に平民に理由もなく魔力を放つのは禁止されていると聞いたことがあるのですが、それは聖王国のみの話なのでしょうか?
ウザいので私はその魔力を貴族に跳ね返してやりました。
とたん
ぼんっ!!
壁に叩きつけられる貴族様。
私はあちらの放った魔力をそのまま返しただけです。
まさか平民(女)にこの威力の魔力を放っていたとか引きます。
ドン引きです。噛んだ事をごまかしたいのもありますし、世のために滅ぼしておくべきでしょうか。
「貴様!!俺が誰だかわか……」
「名乗らない方が賢明かと思いますよ」
私を遮って前にでたのは偽父でした。
茶髪の紳士です。
「なっ!?」
「平民に魔力返しをされた貴族としてこの場にいるものに名を広めるおつもりでしょうか?
公共の場で平民相手に魔力を放ち、魔力返しされた令息として名を馳せたいとおっしゃるのならご自由にどうぞ」
と、柔和な顔に似合わない辛辣な笑みを浮かべます。正直私でも怖いです。
流石父が私につけた偽装父です。ただものではありません。
理想では私があの偽装父の立場になり、かっこよく決めるはずだったのですが。
現実はモブに近い偽装父に見せ場を取られるという悲しい結果に終わってしまいました。
陰キャの私が、いきなりパリピになれるはずもありませんでした。Web小説のようないきり主人公を演じようとしても無理だったようです。イキル事ができるのもある種の才能が必要だと思います。
いきなりイキル事の出来るなろう主人公は私から見れば立派な陽キャだと思います。
「くっ!!貴様ら覚えてろよ!!」
貴族ぼっちゃんが取り巻きを引き連れて去っていきます。
この世界の貴族と平民の格差感が今一つよくわかりませんが、逆らったら即断罪★というほどひどくはないようです。貴族設定があやふやなRPGの世界で助かりました。
「あ、あの、ありがとうございました」
と、お礼を言う少女はよく見れば私と一緒の魔術師学校の制服を着ています。
「いえ、当然の事をしたまで……」
と、私。さらりと偽父の功績を奪ってしまったような気もしますが、つい口からでてしまったので仕方ありません。最後位かっこつけたかったからではありません。断じて。
「あ、あのもしかして貴方もサラディウスに?」
「うん、そう。貴方と同じ」
「すごい、在学生ですか?貴族でもないのにあんな魔力返しが出来るなんて凄いですね!」
「まだ、私も今年入学。これからテスト受けに行く……」
「え、じゃあ私と一緒!」
「……そうなの?」
「はい!私も今から、サラディウスに入学試験に行くんです!」
女の子が嬉しそうに微笑めば、
「なら一緒の席に座ったほうがいいだろう。また何か因縁をつけられるかもしれないからね。それでいいかい?セレス?」
と、偽装父が私に聞くので、私はこくりと頷きました。
これは、もしかして……はじめての友達作りのチャンスなのではないでしょうか。
せっかくできた同年代とのお友達を作るチャンスです。
このチャンスを逃す手はありません。
たとえパリピは無理でもこの四年で脱陰キャは目指さないと。
「ありがとうございます!私の名前はアリーシャ……えっと貴方は」
「……セレス。宜しく」
「宜しくね。セレスちゃん」
そう言って微笑むアリーシャの笑顔は天使そのものでした。
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