2月17日 フナおばさん

近所には色々なおじさん、おばさんがいる。いつも大福を食べている大福おばさん、いつもスズメに餌をあげているスズメおじさん、シュナウザーを散歩させているシュナウザーおじさん等々。皆、私が帰国してから知り合った人たちです。というのも、帰って来てから犬の散歩係に任命されまして。おじさんとおばさんたちは犬の散歩ルートにいるんです。

ほぼ毎日会うのでお互いの名前は知らなくても挨拶はします。最近は犬の名前を覚えてくれたようで、犬にも挨拶してくれるようになりました。でもうちの犬は動物が嫌いなもので、シュナウザーおじさんのシュナウザーに吠え、スズメおじさんが集めたスズメにも吠えるのでちょっと申し訳ないです。


2ヶ月ほど前でしょうか。見たことがない女の人がいました。川の方を向いてぼんやりと立っています。きっと近所に住んでいる人でしょうから、挨拶して通り過ぎようとしました。


その時、犬が吠えたんです。動物にしか吠えない犬ですが、女の人に向かって強く吠えたんです。女の人はそれでもじっと川を見たまま。「すみません」と謝って小走りに通り過ぎました。


その日から時々見かけるようになりました。いつも川を見ています。犬の散歩は行きも帰りも同じ道ですが、帰る時には女の人はいなくなっています。ある時、彼女が何をみているのか気になって帰りに川を覗いてみました。


フナでした。


死んだフナがぷかぷか浮かんでいました。女の人はいつもこれを見ていたんでしょうか。その日以来、私は彼女をフナおばさんと命名し、後ろを通り過ぎる時は注意して見るようになりました。そこで気が付いたんですが、おばさんはドボン、ドボンと川に何かを投げ入れているようでした。


帰り道、おばさんがいなくなった後の川を覗くとやっぱりフナが浮いていました。まさか石をぶつけてフナを殺していたのでしょうか。足元に目をやると、何かがキラキラと光っています。よく見るとそれは、鱗です。鱗が彼女の立っていたところに散らばっていました。


今日も犬の散歩に行きます。フナおばさんはいるでしょうか。

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