2月11日 エジプトより

同僚のイタリア人がエジプトを旅行したのは確か、去年の2月でした。兄弟がエジプトに転勤になったとかで、訪ねて行ったんです。彼は私がオカルトやオバケや怪しい超常現象的なあれこれが好きだと知っているので、エジプト滞在中は色々な”あやしい”写真を送ってくれました。


『今日は博物館に行ったよ。ミイラがあったから写真送るね』


『ピラミッド見てきたよ。レンタルラクダのおじさんがクフ王の棺のひとかけらを持ってるって言うから写真撮らせてもらったよ』


『土産物屋に頭蓋骨飾ってたから写真撮ろうとしたら本物だからやめろって言われたんだ。だから撮ったよ。君、こういうの好きでしょ』


……いや、頭蓋骨は別に好きではないんですが。そんな写真もらっても、ねぇ。彼は私のオカルト趣味を面白がっているので中国で一緒に働いていた時から妙な話や写真を見せてくれていました。


そんな彼が私へのエジプト土産に選んだのはベス神の置物です。数年前にSNSでにわかに人気になった、大英博物館土産の青いタヌキがそれです。彼がエジプトで買ったベス神は大英博物館のものとは比べ物にならないほど愛想の悪い顔なんですけどね。


その不器量なベス神の置物に、なんと神様を降ろして入れてもらったというんです。こちらでいうところの魂入れみたいなことでしょうか。


本来であればその後すぐに中国に戻って業務を開始するつもりだったので、彼はベス神をスーツケースに入れたままにしていたそうです。


リモートワークが始まってから数ヵ月後、

『部屋から妙な音がするから、ベス神は明日君に送るね』と意味不明なメッセージが来ました。ベス神のせいなのか?そしてそれを私に送ると?色々と理解不能です。ちょっと心配でしたが、届いても家に入れなければいいかと思い了承しました。


それから時間は過ぎ、昨日のこと。


『去年の7月に君に送ったベス神、届いた?』


届いていません。というか、『ベス神は明日君に送るね』のメッセージから音沙汰がなかったのでてっきり送るのをやめたのだと思っていました。しかし7月に送ったと言うことですから遅くても10月くらいには着いていないとおかしいです。


そこで追跡番号を調べてみると、荷物は随分前に最寄りの郵便局へと到着していました。だから取りに行くことにしました。昨日の夜です。


郵便局員の方からは「不在票を入れておいたんですが」と言われましたが、この一年家には常に誰かがいたはずです。不審に思いながらも受け取った箱は意外に軽くてびっくりしました。事前に写真で見たベス神は成人男性が両手でしっかりと抱えていて、見るからに重そうでした。が、受け取った箱は私が片手で軽々と持てる程度です。しかも中からはカサカサという紙が擦れる音しかしません。とても石でできた置物が入っているとは思えません。


家に持って帰って開けるのも怖いので、郵便局の中で開けることにしました。びりびりとガムテープを剥がして箱を開く。真っ先に目に入ったのはくしゃくしゃになった紙でした。丸められた紙を一つずつ外に出すと、箱の底にターコイズのブレスレットとピラミッドのポストカードが入っていました。ポストカードには


”エジプトよりオカルトを込めて(発送はイタリアからだけどね!)”


込められたオカルトはどこに消えてしまったのでしょうか。


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