13 評価不能

「それで、何なんだよ?あの武技スキルを止める手品はよ」


 応接間のソファに座るなり、マノスが膝を乗り出して聞いてくる。

 お茶の用意くらいの待てないのかと言いたいところだが、あまりにキラキラとした目で見つめられるので、答えてやることにした。


 気持ち悪いので。


「簡単に言えば、貴方の剣に触れた瞬間に静止の付与で貴方の武技スキルを上書きして、対物障壁で受け止めたのよ」


「……意味がわからん」


 マノスは脳筋っぽいので、仕方ないだろうと思っていたが、イリーナもぽかんとしてしまっている。どうやら、基礎的な魔法についての理解が浅いようだ。


 仕方がないので、前提から話をしていこう。


魔力場マナフィールドというのは、頭を中心に同心円状に広がっていて、例外となるのが、体表と武器などの持ち物よ。魔力場マナフィールドがどれだけ小さかろうと、体表は常に最も強い魔力場マナフィールドを持つから、他人の体内で魔法を発動することはできないわけね」


「えっと、リアリス様が魔力場マナフィールドを広げても、他人の魔力場マナフィールドは体表までしか抑えられないってことでしょうか?」


 領主館での威圧の原理を気にしてか、イリーナも質問に加わってきた。


「そうよ。人は無意識的に魔力場マナフィールドによる感知を行っているから、身体に関わる魔法を使わずとも、一瞬で体表あたりまで魔力場を奪われるだけでショック症状に近いものがでるの」


「なるほど、魔法を受けたわけでもないのに、あれほどの効果があるのですね……」


「普通は他人のを奪えるほど魔力場マナフィールド広くねえけどな」


 それもそうだ。


 だが、魔力量は意図して増やせるものでなくとも、魔力の制御力によって魔力場マナフィールドを広げられるので、訓練はしたほうが良いだろう。


 少し脱線したので、話を戻そう。


「話を戻すけれど、持ち物、今回で言えば剣の魔力場マナフィールドも体表と同じ扱いになるわ。素材によって強度は変わるけれど、同心円から離れても一定の強度を保てるの。この特性は、間接的にでも地面に触れていたり、他人が触れていると無くなるわ」


「つまり、切り合いの中で、敵の間近にある剣から魔術を撃てるってことかよ」


 おや、脳筋とは思えない理解力である。この見た目で頭は回るようで、この特性のに気づいたようだ


「その認識で間違いないわ。ここからが本題だけれど、お互いが武器に触れている状態であれば、先ほど説明した特性は働かず、魔力場マナフィールドは通常の通り同心円での押し合いになるわ。そして、武器の特性を強化する武技というのは、『斬る』や『穿つらぬく』という思念による、瞬間的な付与魔法に分類できる」


「あっ……触れた瞬間に武技スキルを静止の付与で上書きしたってことですか!?」


「そういうことよ。といっても、あの一瞬では減速が限度だったのだけれど」


 付与魔法は、効果の具体的なイメージと十分な魔力があれば発動するのだが、今回は動いているものを静止させるという非常に単純な効果だった故に、ほんの一瞬触れるだけでも発動が容易だったのだ。

 しかし、魔力の放出量を制限していた為、静止するほどの効果は得られなかったようだ。


「剣に触れてから、斬られる前に付与魔法をかけるって……そんなことが可能なのかよ」


「ああ、ただの素手だと、剣に触れた瞬間には手が切り飛ばされるから、対物障壁を張っていたわ」


 武技スキル相手では破られてしまうが、それでも僅かながら抵抗があるため、その一瞬を利用したのだ。


「手の中ってのはどういうことだ?」


「魔力自体はすべての物質を透過しているんだもの。身体の中で魔術が使えないなんてのは思い込みに過ぎないわ」


 手のひらの上に魔術の炎を出し、それが手を貫通して動く様を見せてやる。


「ガハハッ!!もう笑うしかねえな。ハッキリ分かったが、アンタとじゃ見えてるものが違い過ぎるな」


「私からすれば、なんて有って無いようなものだもの」


 こちらに来てから一年も経っていないので、当然である。

 とはいえ、思い込みや常識というのは、魔法の幅を狭めるだけとも限らないのだが。


「それで、私なりに技量を示したつもりなのだけれど、私のランクはいくつになるのかしら?」


 最早忘れかけていたが、これを聞くために手合わせをしたのであった。


「ハンッ、初めから分かりきってたことだ。Sランク、だ」


「そう……。つまらないわね」


 そんなことだろうとは思っていたが、戦力評価をする機関の逃げには失望してしまう。


「そうは言われてもな、例えA+が何百人いてもアンタを殺せる気がしねえんだわ。逆に、アンタはあの爆発で街一つ消せるんだろ?」


「ふふっ、リア様が人間の枠組みで測れるわけないじゃないですか〜?」


 それはその通りだが、せっかく段階で評価するのだから、五○段階くらいに分けてでも、正当な評価を付けてほしいものだ。


「そんなにランクが欲しけりゃ、魔女基準で作ってくれよ。街道の距離測るのに、ものさし使うようなもんだぜ」


 ぐうの音も出ない正論である。腹が立ったので、マノスの脛にストーンボールを叩き込む。


 マノスの絶叫にあわせて、先ほどの受付嬢がお茶を運んでくるのであった。

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