第23話


 最初は普通の飲食店やコインパーキングなど、ありふれた街並みだったというのに、少し路地を外れたら、どこか異様な雰囲気の店が立ち並んでいた。

 

 同性同士で手を繋いでいる人たちも沢山いて、改めてここがどういう街なのかを認識させられる。


 「あたし、二丁目とか初めて来た……」

 「僕もです。補導とかされないですかね……一応、僕らまだ高校生ですし」

 「相川、老け顔だから平気でしょ」

 「調子乗らないでくださいよ」


 同じく、町の雰囲気に呑まれて圧倒されている相川と言葉を交わしつつ、気を紛らせる。彩葉はいつも通りリラックスした様子で、どこか堂々としていた。


 「じゃあ、聞き込み始めようか」


 彩葉の言葉を引きりに、周囲の人たちに、初の画像を表示したスマートフォンを見せながら情報を探す。

 初が出入りしているのはゲイバーであろうから、男性を中心に声掛けをした。大学生らしき若い人から、サラリーマンぽい風貌の中年男性まで、対象は幅広い。


 「あの、この人知りませんか」

 「ごめん、知らないや」


 しかし、そう都合よく目撃者がいるはずもない。どれだけ返ってくる返事は「知らない」ばかりで、次第に皆の表情は曇り始めた。


 それでも、この方法が初と繋がれる最後の手段なのだからと、励まし合って聞き込みを続ける。時間はあっという間に経過して、1時間ほどが経ってしまっていた頃。


30代ほどの長身男性に声を掛ければ、ようやく手がかりらしき情報を得ることができた。


  「知ってるわよ。アタシがよく行くバーにいること多いもの」

  「本当ですか?」


 初めての目撃者に、三人とも嬉々としてその情報に飛びつく。男性いわく、リンリンというゲイバーでよく見かけるとのことだった。


 「ええ。さっきも行ったけど、今日もいたわね。そういえば最近毎日見てるかも」

 「ちなみに、リンリンってどちらにあるんですか?」

「そこ」


 男性が指さした先は道路を挟んだ向かい側で、目と鼻の先だ。お礼を言ってから向かおうとすれば、「ちょっと」と男性に引き止められる。


 「そこ、メンズオンリーだから。女は入れないわよ」

 「メンズオンリー……?」

 「男しか入れないってこと。そこのメガネボーイしか無理よ」

 「じゃあ、僕一人で行ってきます」


 相談する間もなく、相川は一人で決断を下してしまった。彩葉と二人で顔を見合わせる。お互い、その顔には心配の色を滲ませていた。


 「相川くん、一人で大丈夫?」

 「はい、先輩方は駅前のカフェにでもいてください。その方が安全ですから」

 「でも……」

 「僕が余計な口出しをしてしまったのが、今回の騒動の発端です。自分で蒔いた種ですから、ちゃんと責任を取らせてください」


 大丈夫ですから、と言い残して相川は一人でリンリンへ向かっていった。その背中をジッと見つめる。


 これは紅葉と初の喧嘩だというのに、相川に全てを託すことになってしまった。巻き込んでしまったことに罪悪感を抱きつつ、にわかに期待をしてしまう。


 初は紅葉の言葉に耳を貸すことは無い。ずっと、どん底の場所で傷を舐め合ってきた人間に何を言われても、きっといまいち心に響かないのだ。


 しかし、相川であれば初も何か響くものがあるのでないだろうか。紅葉が彩葉に救われたように、初の心にも変化が現れないだろうか。酷く人任せであることは分かっているけれど、どうしても願わずにはいられなかった。

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