魔女の黒歴史伝説

愛すべき魔女

オナラの話

 タイトルで異世界ファンタジー詐欺をして申し訳ない。異世界ファンタジーと思って飛び込んできた人は帰っていただきたい。いや、多分1話目タイトルを読んだ時点で帰っているに違いない。カックイイ小説名にしてしまったが、この小説の趣旨は「私の黒歴史を語ること」である。まあ、生きてりゃ黒歴史の一つや二つ誰にでもあるだろう。『失敗は成功するまでの過程である』とかよくいうから、落ち込まないでほしい。落ち込んだら私の黒歴史を読んで、「コイツよりはマシだ」と元気になってほしいのである。

 さて、黒歴史メーカーである私のエピソードは多岐に渡っており、それはそれは膨大な量であるが、1話目でう○ちだのキモい恋愛だのを書くと誰も次の話を読んでくれなさそうなので、まずは軽くオナラの話といこう。オナラだけに。



 突然の告白だが、私はオナラの量がどうやら人よりも多いのである。ググってみたところ成人のオナラは「1日に200~2000ml程度が作られ、平均回数は約7〜20回」らしい。ミリリットルについては目に見えないのでなんとも言いようがないが、回数は軽く超えていると思われる。これは、水を飲むときに空気を飲むクセと、オナラ家族の元に生まれたがゆえである。

 水を飲むときのクセはしょうがない、自業自得である。ゴキュゴキュ音を立てて飲むと天然水のCMみたいで、小さい頃からついやってしまうのだ。

 ただ、私のオナラ体質には、絶対に遺伝の要素があると思う。我が家は非常にオープンかつ下品なので、客がいない限りはトイレに行かずその場で放屁し、そして空気を汚染した者は「ごめんなさい」をいうことになっているのだが、あまりにも数が多いため言う方も咎める方も面倒くさくなり、このルールは形骸化している。

 家族のオナラ紹介もしておこう。同居する母方の祖父は、長く細く音を出すが、不思議なことに臭いはあまりない。祖母は一点豪華主義。トロンボーンで吹いたような短くて大きな音を出し、必ずヒッヒッヒと笑う。母は、音はめったに出さないものの、腐卵臭があたりいちめんに立ち込める。非常にタチが悪い。つまり、私のオナラ体質は母方からの血なのである。

 自分のオナラが多いと自覚したのは7歳ぐらいの時だった。ある時いきなり量が多くなり、それを「おじいちゃんからうつった」と思い込んだ私は祖父を責めてワンワン泣き、その日から今に至るまでオナラとともに生活している。

 これは生理現象なので、上手に付き合っていくのが大切である。下品でオープンな暮らしをしている私でも、学校や公共の場ではキチンと我慢している。たまに出てしまった時は、スゥ〜ッと深く息を吸って空気を回収している。こんなにも運命と真面目に向き合い努力しているのだが、少し気を緩めると悲劇は起こるものである。



 それは、高1の夏の合宿でのこと。昼間はクタクタになるまで練習し、やっとお楽しみの夜が来た。部屋のメンバーは縦割りで、高2の面倒見がいい部長さんと、ノリの良い同級生だった。三人でアプリで顔交換をしたり、ドラマ風の写真を撮ったりした。例えば、ピンク色のフィルターで部長さんを私が壁ドンする様子を同級生が撮影するといった具合である。「フア〜ン」と色っぽい声が聞こえてきそうなその写真たちは、ちゃんと私のスマホに青春の思い出として取ってある。

 そんなこんなで夜も更けてきた頃、三人で向かって地べたにあぐらをかき、合宿場にまつわる心霊ばなしやバカバカしい経験などのおしゃべりが始まった。あぐらの姿勢をとった私は話を聞きながら、少しずつ体内の空気が下降しているのを感じた。緊張を走らせる私に容赦なく、同級生は面白い話を次々と繰り広げる。なるべく刺激を与えないよう、ふふふ、と控えめに笑ってやり過ごすしかない。

 だが、新たな試練が私を襲った。安い合宿場の寝室はホテルのように綺麗というわけでもなく、私のホコリアレルギーが発動し始めたのである。同級生の話に部長さんがバカ笑いしている横で、私は鼻と肛門に全神経を集中させて何とかその場をしのいでいたのだが、ついに堪えきれなくなり、「ハックシュン!」、途端に大爆発である。三人分の笑い声をかき消すような大音量で「ブゥオンッ!!!」というオナラが出た。祖母に引けを取らないド迫力のトロンボーンである。地響きがして、お尻がビリビリした。

 私は青ざめながら、しかし二人の笑いモードにつられてしまって半笑いの顔のまま「ごめんなさい(笑)」と謝った。本当に恥ずかしかったし、目を合わせるのが怖かった。ところが、二人は「何が?」「何のこと?」と笑いながら聞き返してきたのである。



 あれからずっと考えている。その時は、「笑い声に紛れて気づかれなかったんだ、ラッキー」とホッとしたが、冷静になってみると、あんな地鳴りをともなうようなデカい屁の音が聞こえなかったはずはない。二人は瞬時に状況を察し、私を気遣ってくれたのだろうか。でも、表情からして、本当に訳が分かっていないようでもあった。思い出してみれば、カオスな状況である。大爆笑とくしゃみと大音量の屁が同時に発生しているのだ。合わせたエネルギーで発電でも出来るんじゃなかろうか。

 まあ多分私のオナラは二人にバレているだろう、という結論に辿り着き、思い出しては落ち込んでいたのだが、ある日、吉沢亮が映画の舞台裏を語った動画に巡りあった。

「羽交い締めのシーンで、力をグッと込めたときにすっごい勢いでオナラが出て…しかも、プゥ〜みたいな可愛いやつじゃなくて、ブンッみたいな、爆裂音みたいなオナラが…」

 これを聞いた瞬間、私は呪縛から解き放たれた。吉沢亮もオナラするんだ!じゃあ、私が止めようったって無理な話だ。私は激しい同情を感じ、吉沢亮の手を取って同盟を組みたい気持ちになった。勇気を出して私たちに一歩近づいてくれた吉沢亮には感謝しかない。お陰で私の心は軽くなった。オナラだけに(?)

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