第24話 添い寝

「ねぇお兄ちゃん……まだ起きてる?」

「ああ」


 俺達は互いに一つのベッドに横になり眠っていた。だが朱莉も俺も互いに触れ合う繋いだ手から体温が伝わり、眠れずにいた。

 それは先日した熱い抱擁とキスが原因だったのかもしれない。隣に好きな女の子が……それも飛びっきりの美少女とともに夜を過ごしているのだ、これでは眠れるはずがない。


「ねぇお兄ちゃん……聞きたいことがあるんだけどさ」

「んっ? なんだ遠慮せずに言ってみろ?」


 朱莉が体を横にして俺のほうを向いたのがベッドから伝わる振動と熱い吐息で理解する。

 俺は未だに目を瞑り、受け応えるだけに留まる。


「首相ってさ、恋愛してもいいんだよね?」

「うん? あ、ああ……たぶん大丈夫なんじゃねぇの? ほら奥さんっつうか、夫人(?)のことをファーストレディとかって呼ぶはずだろ? 日本じゃなんて呼ぶか知らねぇけど、他の国だって国のトップは既婚者がほとんどかもしれないな」


 俺は朱莉が何でそんなことを聞いてきたのか、その意味を考えながら上の空で思いつくままそう口にする。


「そっか……そうだよね」

「……それがどうかしたのか? 気になるのか?」

「んんっ……ただ聞いてみただけ」


 気になっているのは聞いてきたはずの朱莉よりも俺のほうだった。

 内心では心臓が煩いほどの鼓動を奏で繋いでるいる右手も汗ばんでいないか、そしてそれを朱莉に悟られてはいないかと気が気でなかった。


「朱莉は気になるやついるのかよ……」

「うん? ふふっ……そうだねぇ~。気になる人はいるかな。なんてね」

「そ、そうか……」

「お兄ちゃんはいるの?」

「俺か? ああ……俺も気になる人がいる……かな。ははっ」

「なにそれ~っ。ワタシの真似のつもりなの? まったくもう……ふふっ」


 俺達は互いに気のある素振りを見せながらも、ついつい可笑しくなって笑ってしまう。


 世間体的には兄妹にも関わらず互いにキスをしたりする仲へと発展したのだったが、未だ面と向かって気持ちを伝えてはいなかったのだ。

 それは気恥ずかしさもあり、そしてどこかこれまで培ってきた兄と妹しての関係が壊れてしまうのを恐れてもいた。


 だがここから更に関係を深めるには兄と妹という家族関係から、恋人へとステップアップするしかない。

 でもそこで問題が生じるのは、対外的に見て俺達が兄と妹という兄妹きょうだいという間がらである。


 誰も居ない二人っきりの時には平然とキスもできるだろうが、一歩外へ出てしまうとそうもいかない。

 それに朱莉は首相という国を背負う立場であると同時に今や日本一……いや世界を代表する有名人にその名を連ねている。


 俺達が互いの気持ちを口に出来ない本当の理由……それはスキャンダルだった。

 いくら血のつながりが無いとは言え、第三者から見れば兄妹という家族なのだ。それが街中でデートをしたりキスをしたりすれば忽ち世界中の人々から注目を集め、首相という立場すらも危うくなってしまう。


 もしも……もし俺と朱莉とが兄と妹でなかったら……そう考えずにはいられなかった。

 だがそこで同時に思ったのは兄妹として出会うことがなかったらそもそも恋愛感情どころか、互いの存在すら知らないままだったんじゃないのか……そう考えただけでも胸が苦しくなってしまう。


「お兄ちゃん……ちゅ♪ おやすみなさい」

「あ、ああ……おやすみ」


 眠くなったのか、明日も早いので朱莉は俺におやすみの口付けをすると、握っていた手を離して俺に背中を向けて眠りに入ってしまう。

 俺は唇に残る朱莉の温もりとシャンプーと女の子特有の甘い香りが何故か鼻腔をくすぐり、余計眠れなくなっていた。


「朱莉?」

「くぅ~っ、くぅ~っ」

「なんだ本当に寝ちまったのかよ……」


 そんな俺の想いを知ってか知らずか、朱莉は一人先に眠っている。


 俺は鬩ぎ合う葛藤に苛まれながらも一人これから先二人の関係について、そしてどうすることが一番の方法なのか夜が開け外が明るくなるまでそのことをずっと考えるのだった。

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