第6話 物の価値観

「今日の我が国の現状ですと歳入さいにゅう……これはいわゆる国へとお金が入ってくる額を指しますが、そして歳出さいしゅつ……これは逆に国から出ていってしまうお金ですが、それが上回っている状態でして、それを補うため国債と呼ばれる国の借金が増える形となっております」

「むむむむっ。国なのに、借金があるんですか? だって国は日銀(?)とか言うところでお金を発行できるんですよね?」

「はい。日銀とは政府の銀行、いわゆる発券銀行と呼ばれる中央銀行にあたります。これは国の指導の下、今年はいくらお金を市場へと流通させるかなどを決めるところでもあります。確かに朱莉さんが仰るとおり、国が借金するということは一見するといささか可笑しな状態であるとも言えますね」


 みやびさんはまるで先生のように朱莉へ授業をするかのように、質問とその答えを分かりやすく教えてくれていた。


「ですよね? それにそれに国の借金があって自分でそのお金を刷れるなら、いくらでも刷ったら借金は無くなるんじゃないですか?」

「ふふっ。確かにそうなんですがね、国と言えども何も無制限にお金を流通させることはできません。もしそれをしてしまえば、たちどころにお金の価値が下がってしまうハイパーインフレというものになり、ジュース1本買うのに100万や200万といった大金が必要になってしまうんです」

「ジュース1本に100万円もっっ!?」


 さすがに中二病である朱莉と言えどもそのような例えを聞かされてしまったら、おいそれと銀行券を発行させようとは思わなくなる。


 実際ある小さな諸外国では国の借金を無くそうと躍起となり10兆ドルなどまるで子供の玩具道具のようなお札を発行してしまい、ハイパーインフレを起こしていたのだ。パン一つ買うのにもバケツ何倍分もの紙幣が要るようになってしまい、その国の経済は混乱を極めた。


「ま、お金の云々のお話はこの辺りにしまして……。今年の10月我が国でも消費税増税が決定されております」

「そういえば、ニュースとかでやっていましたね」


 俺は改めてみやびさんから消費税増税について話を聞いた。もしかすると国はその批判をかわすため、国民の中から首相である代表を決めたのではないかと疑念を抱いた。


「みやびさん、一つ聞きたいんだけど……消費税増税って、さっき言っていた医療費だかの予算が足りないからするわけなんですよね? もしも経済が良くなれば増税しなくても済む……で、合ってます?」

「ええ、概ねその見識で合っています。そもそも賄えないから国民へ平等に負担してもらうわけですからね。もし不足分の予算を補うことができれば、増税する意義は消失するでしょう」


 朱莉は念を押すようにみやびさんにそんな質問を投げかけると、何かを考えるように丸めた右手を顎に乗せた。そしてモノの数秒後にはその考えがまとまったのか、明るく元気にこう叫んだ。


「うん……ワタシ、決めましたっ!」

「き、決めたって何をだよ朱莉?」


 これまでみやびさんや俺の話を聞いていた朱莉がいきなり何か決断したようだ。


「うん。消費税増税なんて経済を悪くするだけだもん! だから予算が足りないからと安易に増税するんじゃなくて、逆に減税をしたらもっと経済が良くなると思うって考えたんだよ♪」

「増税ではなく、減税ですか……なるほど」

「げ、減税ってそんな無茶苦茶な……みやびさん?」


 俺は朱莉が適当なことを言い始めたと思うと頭が痛くなっていた。

 けれどもみやびさんは何か思うところがあるのか、真剣に何かを考えていた。俺は不安になり、思わずみやびさんに声をかけた。


「ま、まさかみやびさん、いくら朱莉が首相だからって何も言うことすべてを鵜呑みにするわけじゃないですよね? ね?」

「いえ、一考する価値はあるかと思います。それにそもそもこのままの国の財政状況ではジリ貧になるだけなんです。何かしら奇抜なアイディアを……とは思っていましたが、まさか朱莉さんの口から減税が出てしまうとは……」


 しみじみとしながらも、どこか納得する形でみやびさんは深く頷き、朱莉の言葉に耳を傾けている。


「あっ、もちろん無駄な予算は徹底的に省いたうえでだし、それにさっき言っていた積み立て(?)って言うのも、もうこの際だから切り崩しちゃえばいいんじゃないかな? 数十年後先よりも、今現在をなんとかしなきゃ日本国の未来はないと思うの。そもそも国が破綻してからそれに気づいてももう遅いでしょ? あと税金の使い道である用途を最初から決めているはずなのに個々で賄えているってことはだよ、そもそも変な話だよね? 本当に足りないんなら他の部分を削ってでも捻出するはずだもん。それに道路の整備にしたって何故か年明けから3月末にかけてどこでも工事をしてるでしょ? あれも付けられた予算を余すことなく、無理無理に消費するためだと思うしね。むしろこれからの各省庁には『与えられた予算を使い切らないこと』を念頭において欲しいかな。予算を使い切ればペナルティーを、逆に余るようならばその分その省庁で働く人達へのボーナスや特別手当として支給してもお釣りがくるはず。それに想定よりも多く削減できた人には、昇進も含めた裁定を加味する。うん……今までの予算案なんかよりも、断然こっちのほうがみんな率先して予算の節約してくれるようになるよね♪」


 朱莉が今しがた口にしたことは、まるで子供が安易に考えついたアイディアとも言えよう。

 けれどもその原点に立ち返ってみれば、それは斬新なことこのうえないアイディアだったに違いなかった。


 そもそも積み立てができるということはその年の予算でも余る・・ということであり、無駄であるともとれるわけだ。朱莉は何十年後の未来よりも、今現在のあるべき姿に戻るべきだと主張した。またそれがこれまでの政府の無駄であると同時に、失敗でもあると結論付けたのだ。


 また年金などに関しても、今受け取ってる年代は自分が払ったその何倍も受け取っているため、そもそも最初の構造からして破綻するようにできている。尤もその意図も当時の政府が票集めに使った道具としてであり、その後自分が死んで何十年後の将来なんて初めから考えてはいなかったのだ。だから今の世代が苦しみ、その負債を背負うことになっている。


「さすがに今年金を受け取ってる人から奪うことはできないけど、これから年金を積み立てる年代は自分自身へ積み立てるようにすればいいんじゃないかな? それなら誰にも文句は言われないわけでしょ?」


 朱莉は今の年金制度である年金を納める若い世代が年金を受け取る世代を支える仕組みにも着目していた。そもそも破綻が前提の欠陥制度なのだから、今のうちに手をいれなければと考えたみたいだった。


 ふと疑問に思い、どうやってそんなことを思いつき発言したのかと俺は聞いてみたのだったが、朱莉は何食わぬ顔でこう言った。


「うん? ああ、元ネタ? これは魔王軍が人間社会を経済支配して統治するっていう、有名な作品からだよ。確か元ネタはweb小説のラノベじゃなかったっけ? 確か悪魔deなんとか~っていうお話のやつ」


 そう朱莉先生がこれまで言ってきたアイディアとはすべてがすべてアニメやゲーム、そしてラノベを初めとするコンテンツからの引用……つまり中二病によるアイディアの賜物だったのだ。

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