不条理なんです、恋心

桔梗花

プロローグ未満:いつかの友達との昼休み

「色葉さ、友達としての好きと恋愛的な好きの違いって何処からだと思う?」


 なんでもない、いつかの昼休み。取り留めのない一瞬だったのに、この時の会話はいつまでも私の中に残っていた。


 教室の真ん中あたりの席でタコの形をしたウインナーを頬張った詩織が唐突に言った。いつも一緒にお昼ご飯を食べている他の数人は部活の集まりや休みで、机を突き合せた私と詩織と二人だけしかいなかった。こうやって二人で食べるのは久しぶりだったが、特に話題もなく黙々と米を口に運ぶ時間が続いていた。


「どうしたの急に」

 冷えた白米をゴクンと飲み込んで、玉子焼きに突き刺す。耳だけは詩織の方を向いていた。


「いんやね、弟……中学生なんだけど、友達だと思っていた女子に告白されて云々みたいな話が学校であったみたいでね」

「うーん、どうだろ」

 口いっぱいに頬張って考える。


「毎日、」

 どこかで読んだ少女漫画のヒロインのセリフを思い出して、そのまま口にする。


「毎日その人を考えているか、とかじゃない? 友達の事毎日思ったりはしないじゃん? 好きな人の事は毎分想っていたくなるものなんじゃない?」

「おお、それらしい」

「漫画の受け売りだけどね」

 隠すような事でもなく、素直に暴露した。


「そりゃそっか。色葉みたいなのがそんな立派な答え持ってるとは思えなかったもん」

 口の戸が軽い友人はそうやって軽口を言う。

「みたいってなーに、みたいって。私そんなに阿呆に見える?」


「じゃあ、瀬尾とはどうなのよ」

 詩織は目を細めて笑っていた。

「別に何ともないって。瀬尾君はただの友達……だと思う」

「毎日考えていたりしない?」

「しないってば!」

 もうおしまいと言って、私は乱暴に弁当を閉じた。


 詩織はいつまでもニヤニヤと笑って「ほんとにー?」とさらに揶揄ってきた。


「ホントだって」

 私の言葉に嘘偽りはなかった。そのことを察した詩織は、別の話題に切り替え始めた。

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