×フラグタケ

6−1「探偵たちと変死体の夜」

 霧に包まれた孤島の洋館。

 2階の書斎で私は1人の男性の死体を見下ろしていた。


 亡くなっているのはこの館の第53代目縒白よりしろ財閥の当主、縒白定次さだつぐ

 双子の弟の定始さだしさんは顔を青くしながら自分と同じ顔の兄を見つめている。


「脈がない」

「外傷はないが死んでいるようだ…」


 光源であるロウソクをかざしながら医者の葛城かつらぎ兄弟が重い言葉を吐いた。

 そこで死体を入念に観察していた高校生探偵の【銀鴉ぎんがらす】が顔を上げる。


「みなさん、遺体に外傷はありませんがこれはれっきとした殺人事件です。犯人はこれからも館の中の我々を狙うに違いありません」


 部屋の端にいたメイドの大沢姉妹が「どうしてそんな…」と言葉を詰まらせると【銀鴉】は懐から「これですよ」と1枚の紙を見せた。


『この館に来たものは皆死んでしまう』


「これは…!」と息を飲む姉妹に大型のゴムボールに座る老婦人探偵【バランスボールの大亜奈ダイアナ】が「あら、あなたも招待状の後に同じ手紙をもらったのね」と腕を組みながら顔をほころばせる。


「それにあなたもでしょう?探偵で元捜査一課の刑事【制服の根津ねず】さん?」


 それを聞き、警官の格好をした【制服の根津ねず】は「やれやれ」と頭を振る。


「…まさか探偵3人に同じ内容の手紙が来るとはなあ。これは、俺たちに対する挑戦状と見て間違い無いようだ」


 ボールから降りた【バランスボールの大亜奈】も、杖を持って立ち上がる。


「まず、この密室で何が行われたか、そこから調べることにしましょう。他の部屋に証拠がある可能性もあるから入念にね」


 その姿に【銀鴉】が肩をすくめてみせる。


「おやおや、【大亜奈】さんは抜け駆けですか?ま、僕も世界に名を馳せる高校生名探偵ですし、誰がこの館の謎を解くか…早い者勝ちですね」


 と、勝手に盛り上がる3人に対し、私はおずおずと手を挙げる。


「あのー…これって旗立ってますよね」


 すると【銀鴉】が「ああ、フラグの事ですか?」と感心したようにうなずく。


「そうです、これは館にいる人たち全員に立っていると考えて間違いありません。誰もがこの館の中で殺される可能性があり、霧の中で逃げることすら叶わない。でも、安心してください…ここには腕利きの探偵が3人もいるのですから…!」


 黒い鳥打ち帽とマントを羽織る高校生探偵に私は視線をそらし、死体を見る。


(…いや、旗立ってるじゃん)


 死体の胸に思い切り刺さっている黒い旗。

 よく見ると旗と柄の部分には境目がなく、直接生えているようにさえ見える。


『他の人間には見えていないようだし、怪獣の仕業で間違い無いようだな』


 バッグの中のスマートフォンから【師匠】がぼそっと言うのが聞こえた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る