しくじった。

 悪魔を一方的に殴れる環境であったことに甘えてしまっていた。

 俺でも倒せる。それは事実だった。

 問題は数。

 まるで虫のようにあちらこちらに湧いて出てくる始末。

 肉と血と骨と臓物で作られた世界。

 まさしく、悪魔の世界だった。

 今、俺は死にかけている。

 腹に穴が開いてしまった。

 まさか穴を閉じるために行ったのに、開けられてしまうとは。

 ゲタゲタと笑いながら悪魔が、俺を探している。

 もうだめだ。

 このまま快便もできずに、俺は死んでしまう。

 それだけが、何よりの、悔いであった。


『死んじゃダメ!』


 声が聞こえる。

 悪魔の世界で、まさか母国語が聞こえるとは。

 どうやらお迎えが近いらしい。


『死んじゃダメって言ってるでしょ!』


 そういわれても、腹に穴あいちゃったし……。


『まだ助かるわ。あなた、助かりたいんでしょ』


 どうやらお迎えではなかったようだった。

 俺はここで終わりたくなかった。

 助けてくれるのなら神や仏、悪魔にだって縋ろう。

 そして、悪魔をぶっ潰す。

 俺の、快便のために。

 頷いた。

 声を出そうにもゴボポとかいう情けない音しか出せなかったからだ。


『……契約成立ね、ニンゲン』


 霞んでいた視界が明瞭になる。

 そして、目の前に、俺を助けた奴がいた。

 青色の肌、白目が黒く、瞳が赤く輝く。

 なにより妖艶な衣装と肉付きをしている。

 どうやら俺は。

 この悪魔娘に助けられたようだった。

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