36.Round4 Side「かぐや姫」

 現在の年月日及び時刻は、2027年9月1日。日本時間、午後7時25分。

 月面戦争:Round4、開始35分前だ。


 葛城かつらぎイルカは、動揺を隠せなかった。

 敵の布陣が、予想とかなり食い違っていたからだ。


 ざっくりとした説明で申し訳ないが、葛城かつらぎイルカは、遊梨ゆうりユウリの卜術ぼくじゅつの的中率を、独自のKPI(重要業績評価指標)で求めている。


 設定したKPIは、全23種類。なかでも、葛城かつらぎイルカが重要視していたKPIは「戦闘発生座標」「戦闘発生座標での被弾熱量」の2点。

 これを、遊梨ゆうりユウリの卜術ぼくじゅつによる予測と、実際の敵の布陣との差異を、%表記の「的中率」として算出している。


 Round1〜Round3の的中率は99.2%。限りなく完璧だった。

 それが、今日に限って的中率は80%。大幅な誤差が生じてしまった。


 この誤差は、非常に深刻だった。

 開発エリアの防衛は、熱量を防ぐ火精霊三角形フィフスドーターによるところが高い。

 しかし、火精霊三角形フィフスドーターを発動するビット機関は使い捨てだ。


 今までは、遊梨ゆうりユウリの卜術ぼくじゅつで、敵の攻撃力をほんの少し上回る障壁を作るだけで良かった。

 大幅なコストカットを実現できていた。


 しかし、敵の攻撃が確実に読めないとなると、火精霊三角形フィフスドーターに、膨大なコストを支払う必要が出てくる。

 常に敵の最大火力を考慮して、火精霊三角形フィフスドーターを何重にも発動する必要が出てくる。


 ざっくりとした説明で申し訳ないが、今回、当初予定の三倍の火精霊三角形フィフスドーターの発動を余儀なくされている。

 これは、非常にマズい状況だった。このままでは「開発エリア」を獲得するどころか、奪い取られかねない。


 Side「かぐや姫」は、危機的状況に陥っていた。


 そして、遊梨ゆうりユウリの卜術ぼくじゅつの的中率が激減したのは、葛城かつらぎイルカにとっては、まさに盲点といえる理由だった。

 葛城かつらぎイルカは、その可能性をに言及することを、うかつにも一切行っていなかった。


 しかし、気づいてしまった。気がついてしまった。

 その理由に気がついてしまった葛城かつらぎイルカは、遊梨ゆうりユウリにお願いした。


「ねぇ、遊梨ゆうり↓、ちょっと早いけど、おっぱいさわらせて。調べてもらいたいことがある」


 遊梨ゆうりユウリ目を閉じていた。目を閉じて集中していた。

 そして、目をみはるほどの豊かなおっぱいを、葛城かつらぎイルカに両手で触られながら、目を閉じて集中していた。


 遊梨ゆうりユウリは、おもむろにタロットカードを1枚めくった。


「ぺしん!」


  〜  0『愚者ぐしゃ』 の位置  〜

      −意味キーワードは『流浪るろう』。


「なんで? なんでイルカちゃんが出てこんの??

 なんで隠キャの『隠者いんじゃ』が出てこんの???」

 

 遊梨ゆうりユウリが、明らかに狼狽ろうばいすると、葛城かつらぎイルカは、ゆっくりと目を閉じて集中して遊梨ゆうりユウリのおっぱいをすこしだけ強くもんだ。


「タロット、もう2枚めくって!」


 遊梨ゆうりユウリは震える手で、2枚のカードをめくった。

 

「ぺしん! ぺしん!」


  〜  7『戦車戦車』 の位置  〜

      −意味キーワードは『勝利』。


  〜 15『悪魔あくま』 の正位置  〜

      −意味キーワードは『呪縛』。


 葛城かつらぎイルカはゆっくりと目を開けて、タロットカードを確認すると、


「やっぱり……」


と言った。


 そして遊梨ゆうりユウリもようやく事態を理解した。

 緊急事態を理解した。そして大声で叫んだ。


「おらんなったんや!

 あっちの地球に行ってもうたイルカちゃんと、なんや悪魔の様にズルくてコスイ十流九とるくトルクが、月からおらんようになっとる!」


 ・

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 そう、今まで遊梨ゆうりユウリの卜術ぼくじゅつが、驚異的な的中率を誇ったのは、葛城かつらぎイルカと、流九とるくトルクが、月面パイロットをしていたからだった。


 中学を卒業するまで遊梨ゆうりユウリのおっぱいを触り続けた、葛城かつらぎイルカ(現:蘇我そがテンジ)と高校のころから、遊梨ゆうりユウリのおっぱいを触り続けている、葛城かつらぎイルカ(元:蘇我そがテンジ)の親友、流九とるくトルクがいたからだったのだ。


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 ・

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 そう、遊梨ゆうりユウリの卜術ぼくじゅつは、遊梨ゆうりユウリが知っている人物の情報を、好きな時にいつでも引き出せるブックマーク機能だったのだ。


 そして、その的中精度と適応範囲は、対象となる人物を触ると上昇し、触ったによって飛躍的に変化する。


 心臓に近い場所を触らせると、つまりを触らせると、その精度が飛躍的に上昇し、対象はもとより、その対象の知識を、根こそぎ奪い去ることができるだったのだ。


 そして、その精度が低下したのは、蘇我そがテンジと十流九とるくトルクが、「アルテミス計画」のパイロットメンバーから外れた為だった。


 ・

 ・

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 遊梨ゆうりユウリの卜術ぼくじゅつの、本来の的中率は約80%である。

 だが、対象が遊梨ゆうりユウリと皮膚接触をすることで、的中率は約96%まで上昇する。


 さらに、対象が遊梨ゆうりユウリの心臓から半径5センチ以内のポイントで皮膚接触を行うことで、的中率は約99.2%にまで上昇し、さらにその人物とまでも、ハッキング対象となる。


(余談だが、遊梨ゆうりユウリが卜術ぼくじゅつ実施中に、対象が皮膚接触を試みた場合の的中率は、約99.2%。

 さらに余談だが、遊梨ゆうりユウリが卜術ぼくじゅつ実施中に、対象がおっぱい接触を試みた場合の的中率は、約99.84%まで上昇する)


 そして、これらの事象は、全て、遊梨ゆうりユウリの無意識化で行われる。

 無意識化の情報に意味を持たせるため、遊梨ゆうりユウリはタロットカードを活用しているのだ。


 遊梨ゆうりユウリは、おっぱいをさわらせた2人の葛城かつらぎイルカから、Side「アルテミス」の情報をハッキングしていたのだ。


 厳密には、中学を卒業するまで遊梨ゆうりユウリのおっぱいを触り続けた蘇我そがテンジと、高校のころから遊梨ゆうりユウリのおっぱいを触り続けている葛城かつらぎイルカの大親友、流九とるくトルク。

 この2人から、遊梨ゆうりユウリはSide「アルテミス」の情報をハッキングしていたのだ。


「セントウカイシマデ アト2フン デス」


 宙に浮いたシャチのロボットが、無機質な声で戦闘開始までの時間を報告する。


 ずっと、口に手を当てて考え続けていた葛城かつらぎイルカは、手を「しゅるん」と外した。そして、おもむろに叫んだ。


「Hey!オルカ! 父さんに電話をつないで!」

「OK…………プルルルル……プルルルル……プルルルル……プルルルル……ガチャリ……どうしたんだい? 私の可愛いイルカ」


「えへ、お父さん、お願いがあるの」


「なんだい? 私の可愛いイルカ」


「私ひとりじゃ、手に負えない!

 今日だけ、ウンディーネを操縦してくれない?」


「もちろんだとも、私の可愛いイルカ」


「セントウカイシマデ アト1プンデス」


「えへへ、お父さん、ありがとう!

 私は昨日、完成したてのシルフィードを操縦するから」


「了解したよ。私の可愛いイルカ」


「えへへへ、ありがとうお父さん! 大好き」


「ありがとう。私も愛しているよ、私の可愛いイルカ」


「えっへへへへ、私、がんばっちゃう!」


「セントウカイシマデ……10……9……8……」


 宙に浮いたシャチのロボットが、無機質な声で戦闘開始までのカウントダウンを行う。


「……3……2……1……ゲームスタート!」

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