月面戦争:Round2

31.Round2−1 Side「かぐや姫」

 現在の年月日及び時刻は、2027年7月1日。日本時間、午後7時55分。

 月面戦争:Round2の開戦5分前だ。


 さて、この月面戦争のルールを新たに紹介しよう。


〜 条約じょうやく4(補足1)Round2以降、戦闘終了後、駆動可能な兵器を存在する場合、その兵器を所有する地球は、その兵器の半径2キロメートルの「開発エリア」を所有する。 〜


〜 条約じょうやく4(補足2)「月面開発権」を所有しない地球は、そのエリアへの侵入を禁止する。条約に反した場合、該当の箇所の「開発エリア」の範囲を、1キロメートル拡張する。 〜


 月面戦争:Round1終了時、駆動可能な兵器は全6機、全てSide「かぐや姫」の兵器だった。

 すなわち、4機のロボットと、2機のビット機関だった。


 Side「かぐや姫」は、戦闘終了時、その6機を等間隔で散らばるように配置した。

 Side「アルテミス」から200キロ離れた箇所、つまりRound1で十流九トルクトルクが「3Pポイントシュート」と命名した、Side「アルテミス」の月面基地に、超長距離レーザーを発射した場所にロボットを1機。

 そこから、4時方向に、50キロ離れた場所にロボットを1機。

 おなじく、8時方向に、50キロ離れた場所にロボットを1機を設置した。


 そして前回、Side「アルテミス」と交戦した箇所にロボットを一機。

 そこから、4時方向に5キロ離れた場所にビット機関を1機。

 おなじく、8時方向に5キロ離れた場所にビット機関を1機。


 ビット機関には、移動能力が備わっておらず、ロボットがビット機関を輸送する必要があった為である。

 止むを得ず5キロと言う、ごくごく狭い範囲での配置に留まらずを得なかった。



 今回、「開発エリア」獲得できたのは、Side「かぐや姫」のみである。

 そして、Side「かぐや姫」は、この一ヶ月間ただひたすらに「開発エリア」の区画内に、大量のビット機関を設置した。全7箇所(月面基地含む)に、大量のビット機関を設置した。


 つまりは、ビット機関で、何かをしようとしているのだ。何かを企んでいるのだ。


 対して、Side「アルテミス」は、武装構成を大幅に変えて挑んできた。

 Side「かぐや姫」の全6箇所の「開発エリア」を攻撃する為、約10キロの射程を持つロケットランチャーを搭載した車両型兵器を配備した。


 おそらく、戦闘開始と同時に、Side「かぐや姫」の月面開発権エリアにロケット砲が放たれるのであろう。ロケット砲でビット機関を一気に破壊する。

 そして、撃ち漏らしたビット機関を駆逐をすべく、四足歩行型ロボットが6箇所の「月面開発権」のすぐそばに、各4体ずつ配備されてあった。


 Side「アルテミス」は、この一ヶ月で月面に大量の兵器を輸送した。

 Side「アルテミス」の地球にある宇宙港、約30箇所を全て動員して全部で42機のロケットを打ち上げ、大量の兵器を月へと輸送した。


 しかし、その兵器の中に、Side「アルテミス」の秘密兵器『バスケットボール』は含まれていなかった。

 あの兵器は危険すぎる。下手に基地に置きっぱなしにしておくと、Side「かぐや不姫」の射程外から狙撃されかねない。


 なので、『バスケットボール』は、すでに戦闘配備されてあった。

 大胆にも、Side「かぐや姫」の月面基地から200キロメートル離れた場所に配備されてあった。車両型兵器の発射カタパルトでスタンバイをしている。

 開戦早々、『バスケットボール』は、を射出Side「かぐや姫」の月面基地にむけて射出されると思われる。


 月面戦争:Round2の見所は、ここになるだろう。

  Side「かぐや姫」は、核弾頭を搭載した全長50センチの『バスケットボール』をいかにして撃墜するのか? とても興味深い。


 さて、ここでひとつ耳よりな情報を提供したい。

 Side「アルテミス」は、通信テクノロジーが著しく発達した地球である。だから知っていた。

 Side「かぐや姫」が、6箇所の「開発エリア」並びに、月面基地周辺に、全128機のビット機関を設置しているのを、完全に把握していた。

 配置したビット機関の種類と数も、完全に把握していた。


 これが、Side「かぐや姫」にとって、どれくらいのディスアドバンテージになるのか。個人的には、とても興味深い点である。


 そして、ここでおもむろに余談を話す。


 葛城かつらぎイルカが開発した「オルカMarcIII」の12機のビット機関について、かなりどうでも良い余談を話す。(余談なので、適当に読み飛ばすことを推奨する)


 「オルカMarcIII」の12機のビット機関にはコードネームがある。

 それぞれ「おひつじ」「おうし」「ふたご」「かに」「しし」「おとめ」「てんびん」「さそり」「いて」「やぎ」「みずがめ」「うお」と名前がついている。

 そう、星占いに使用する黄道十二星座と同じ名称だ。


 これら、12機のビット機関には形状と色彩に4系統の明確なルールがある。

 「おひつじ」「しし」「いて」は紫系統の正四面体。

 「おうし」「おとめ」「やぎ」は黄系統の正六面体。

 「ふたご」「てんびん」「みずがめ」は緑系統の正八面体。

 「かに」「さそり」「うお」は青系統の正十二面体。

 つまり、プラトンが著書『ティマイオス』で定めた、火、土、風(空気)、水の元素形状のそれだった。


 ついでに、カラーリングの明度、及び彩度にも3系統の明確なルールがある。

 「おひつじ」「かに」「てんびん」「やぎ」は、カラフルなネオンカラー。

 「おうし」「しし」「さそり」「みずがめ」は、シンプルな原色。

 「ふたご」「おとめ」「いて」「うお」は甘くて、淡いパステルカラーに色分けが施されていた。

 

 これは、占星術における各星座の特長を示している。

 すなわちカラフルは、季節の始まりの影響を受ける「活動宮」。

 すなわちシンプルは、季節の真っ盛りの影響を受ける「固着宮」。

 すなわちパステルは、季節の移り変わりの影響を受ける「柔軟宮」。

 これらの特長を、カラーリングで表現しているのだ。


 さて……ここまで延々と、葛城かつらぎイルカが開発した「オルカMarcIII」の12機のビット機関について、かなりどうでも良い余談を長々と話したが、最もどうでも良いことを話すのを忘れていた。


 これらの、詳細かつ厳密に定められたフォルムはしない。


 そう、これは葛城かつらぎイルカの趣味なのだ。完全なるオカルト趣味なのだ。

 だが、葛城かつらぎイルカはこだわる。

 オカルトに徹底的にこだわる。

 オカルト。つまり説明できない不可思議な現象に徹底的にこだわる。


 何故か?


 あっちの世界ではオカルトと揶揄やゆされた、疑似科学が、こちらの世界で秘学ひがくとして息づいていたからだ。

 

 世の中、何が起こるかわからない。絶対はない。


 葛城かつらぎイルカは、それを自分の体で実感していたからだ。

 あっちの地球でオカルト雑誌を読みふけっていたのに、気がついたらこっちの地球でシャワーを浴びていたからだ。

 トレーニングのワークアウト終わりに、素っ裸でシャワーを浴びていたからだ。

 そんじょそこらの常識なぞ、服と一緒にはがされて、完全にスッポンポンにされてしまったからだ。


 葛城かつらぎイルカは絶対を信じない。

 葛城かつらぎイルカは常識を信じない。

 葛城かつらぎイルカは完全を信じない。

 葛城かつらぎイルカはを信じない。


 この世界には、すべからく何らかの不確定要素がふくまれている。

 常識を疑い、確実を疑い、完全を疑い、そしてを疑う。

 あらゆる事象に疑いをかけ、ただひたすらに真実を探求する。葛城かつらぎイルカは、生粋の科学者。そして秘学ひがく者なのだ。


 ・

 ・

 ・


 オペレーションルームに、2人の少女がいた。

 葛城かつらぎイルカと、遊梨ゆうりユウリがいた。


 遊梨ゆうりユウリ目を閉じていた。目を閉じて集中していた。

 そして、目をみはるほどの豊かなを、葛城かつらぎイルカに両手で触られながら、目を閉じて集中していた。


 遊梨ゆうりユウリは、おもむろにタロットカードを3枚めくった。


  〜  9『隠者いんじゃ』 の位置  〜

  〜  1『魔術師まじゅつし』の正位置  〜

  〜 10『運命うんめい』 の位置  〜


「うんうん、今日もいっさいにごってない。に絶好調や!」


 両手でおっぱいを触られながら、タロットカードをめくった遊梨ゆうりユウリは、のんびりとした、トーンの高い関西弁で、コロコロと笑いながらしゃべった。


「……うん」


 葛城かつらぎイルカは、頬をあからめて、口を押さえながら「ぽつり」と返事をした。


 警報ブザーが鳴り、ふたりの少女は持ち場につく。


「セントウカイシマデ……10……9……8……」


 宙に浮いたシャチのロボットが、無機質な声で戦闘開始までのカウントダウンを行う。


「……3……2……1……ゲームスタート!」


 現在の年月日及び時刻は、2027年7月1日。日本時間、午後8時00分。

 月面戦争:Round2が開戦した。

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