29.「アルテミス」は乙女チックやからや。by トルク

 こんにちは。十流九とるくトルクや。


 今、僕はNASAのフィールドセンターのひとつ、アメリカのフロリダ州の「ケネディ宇宙センター」の一室で、蘇我そがを事情徴収しとる。


 NASAと、国連のお偉いさんに、あっちの地球のオモシロ技術、卜術ぼくじゅつについて、調査結果をレポートとしてまとめるためや。


 なんやけど……なんやさっきから乙女チックな話聞かされとる。


 僕は今まで、

 蘇我そがは全く動揺しない。

 蘇我そがは全く混乱しない。

 蘇我そがは全く狼狽ろうばいしない。

 蘇我そがは全く緊張しない。


 そんな『住む世界』が違う超人なんやと思っとった。


 でも、

 今の蘇我そがは完全に動揺しとる。

 今の蘇我そがは完全に混乱しとる。

 今の蘇我そがは完全に狼狽ろうばいしとる。

 今の蘇我そがは完全に全く緊張しとる。


 なんや、ぶっちゃけチョット気持ちが悪い。完全に非モテ野郎のそれだ。

 ん? なんや違和感あるな。あ、そうか、野郎やない。乙女なんや。乙女チックなんや。お花畑の乙女チックガールズトークなんや。

 僕はさっきからずっと、この長身非モテ野郎の、乙女チックガールズトークを聞かされとるんや。


 ・

 ・

 ・

 

「で、蘇我そがはあっちの地球で、毎日ユウリちゃんのおっぱいさわっとったんか」


「そう。ユウリのおっぱいを触ると、心がスッキリするんだ。

 ユウリは、なんでも見通せる。人の心の奥底を完全に見通せる。人の心の上っ面に浮かんだどうでもいい灰汁あくのような感情を取り除いて、その人間が本当に求めている事や、やるべき事を見通せる。

 ユウリのおっぱいを触ると、心がスッキリするんだ」


 僕は、キーボードをガチャガチャガチャガチャ言わしながら、無言で蘇我そがの話を聞いとった。

 こっちの地球のために「アルテミス計画」のために、さっきからずっと、キーボードをガチャガチャガチャガチャ言わしながら、無言で蘇我そがの話を聞いとった。


 でも、もう限界や。限界やから、天を仰いだ。そして、目頭を押さえながら、ようやっと、声を絞り出した。


「……めっちゃウラヤマしい……」


蘇我そがは言った。


「ちょっとなにいってるか、わからない」


「あっちにおったとき蘇我そがは知っとった……女の子の神秘を知っとった……僕を置き去りにして……女体にょたいの神秘を知っとった」


蘇我そがは言った。


「ちょっとなにいってるか、わからない」


「嫉妬するに決まっとるやろうが!

 なんやぁ! 毎日おっぱいさわる占いって!

 おっぱい占いか! おっぱいがいっぱいの占いか!!」


蘇我そがは言った。


「ちょっとなにいってるか、わからない」


そう言うと、蘇我そがの顔が、急に「スンッ」と真顔になった。そして、不可思議な事を言った。


占術せんじゅつじゃない! 卜術ぼくじゅつだ!」


語気強めで不可思議な事を言った。


「全然違う。占術せんじゅつ卜術ぼくじゅつは全然違う。

 占術せんじゅつは答えが決まっているだ。だって、こよみは生まれた瞬間から決まっている。こよみは絶対。絶対の答えから、その人の可能性を探るだ。


 対して卜術ぼくじゅつは答えが無い。答えが無い問題に答えを出すだ。

 悩んで悩んで、ごった煮になって、灰汁あくだらけになった心から、灰汁あくを取り除く技術だ。心をすっきりさせるだ。


 そんなのでしょ? なんで知らないの?」



 !!!!!!!!!


 来た! 蘇我そがが来た!


 僕は知っている。もう二年以上の付き合いだから知っている。蘇我そがには、あっちの地球のとんでもない秘密が隠されている!!


 僕は、蘇我そがに注意深く聞いた。細心の注意を払って質問した。

 僕は、蘇我そがを余すことなく知るために、あっちの地球の秘密を余すとこなく知るために、細心の注意を払って質問した。


 そして知ってしもうた。衝撃の事実を知ってしもうた。

 

 僕は思うた。これは、【数学すうがく統計学とうけいがくの違い】と全く一緒や。怖いくらい一緒や。


 数学は、は答えが決まっている。絶対に答えが決まっているや。

 絶対に答えが決まった定理を、様々な分野に活用するや。


 対して、統計学はは答えがない。答えがない答えに、仮説を立てるや。

 統計を調査して、余分ノイジー灰汁マイノリティをできるだけきれいに取り除いて、純粋サイレント情報マジョリティに切り分けるや。


 つまりは、卜術ぼくじゅつは統計学なんや。

 その人間しか知らん、野生のカンちゅうか、経験則ちゅうか、上手いこと言葉では言い表せんこと、ちょっとなにいってるか、わからない事を、わかりやすくアウトプットする技術や。


 こっちの地球で、初めて統計学を実践的に活用したんは、ナイチンゲールって言われとる。


 フローレンス・ナイチンゲールは、1854年に勃発したクリミア戦争での看護の記録をデータとしてまとめた。

 なんや、赴任先の病院で死亡率をめっちゃ減らして奇跡起こした国民的英雄みたいに言われるん毛嫌いして、病室を衛生的に保つ事こそが、死亡率の低下に繋がる事実を、めっちゃわっかりやすいグラフ作ってエライ人に叩きつけてやった。


 自分がやっとることは、奇跡でもなんでものうて、誰でもできる事やって、統計学って言うデータの束で、エライ人のホッペタをぶっ叩いてねじ伏せた。


 つまり、卜術ぼくじゅつはこれの究極進化系や。

 本来は、数えきれんほどの実践を繰り返して初めてわかるデータの束を、おっぱい触らせて、触った人間のホッペタをぶっ叩いてねじ伏せるんや。

 感情の余分ノイジー灰汁マイノリティをできるだけきれいに取り除いて、その人の純粋サイレント本心マジョリティだけに切り分ける技術なんや。


「いやしかしこれはヤバイな。これはほんまヤバイな。

 ホンマやったら、こっちの地球ではめっちゃデータ集めてやるを、あっちの地球におるユウリちゃんは、卜術ぼくじゅつってを使うて、一瞬で理解できとるって事や!」


 僕は、キーボード付きタブレットをアホほどガシャガシャ言わして、レポートを作成した。


「ま、卜術ぼくじゅつについては、一旦、こんなもんで良えやろ。

 ……ほい!

 送信したった! で、こっからは、愛しい愛しい遊梨ゆうりユウリちゃんと、お前のノロケ話を、もうちっとだけ聞かせてくれ」


 僕は、聞かなければならないと思った。

 NASAと、国連のお偉いさんに、報告するかどうかはおいといて、卜術ぼくじゅつについて、もっと知る必要がある思ったからや。


 多分なんやけど、こっちの地球はこのままでは負けるって思うたからや。


 せやから僕は、めっちゃニヤけながら、あっちにおった時の蘇我そがと、ユウリちゃんとの乙女チックなラブラブ話を、根掘り葉掘り聞き倒す事にした。

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