14:僕はひと言しかしゃべらんからや。byトルク

 こんにちは。十流九とるくトルクや。


 今日は10月28日。蘇我そがの誕生日や。

 とんでもなく賢くて、とんでもなく鈍臭い蘇我そがの代わりに、こっちの地球に来た、とんでもなくアホで、とんでもなくさと蘇我そがのお誕生日や。


 そして僕は今、蘇我そがのお誕生日プレゼントを抱えて、蘇我そがの家に向こうとる。

 勘違いしないで欲しい、僕は、蘇我そがにお誕生日プレゼントなんてこれっぽっちも渡したくない。そもそも、男同士でプレゼント渡すなんて、気持ち悪い事、やったら絶対やりたく無い。


 つまり、『や無い』んや。

 蘇我そがと僕は、『や無い』んや。


 なんでや無いんかは、順を追って説明させて欲しい。


 まずは……そうやな。やっぱりあれや。入学式早々にあった実力テストの頃の話や。


 蘇我そがはテストで「永遠の0」を取りまくって、ついでに二教科で「」の間違いを指摘されて、速攻、進学クラスから外された。でもって、速攻、スポーツ特待クラスに入った。


 蘇我そがのバスケのセンスは凄かった。蘇我そがは『住む世界』が違う。

 2008年の北京オリンピックのウサインボルトみたいに、余裕しゃくしゃくで、最後には、まるで軽く流す感じであっという間にインターハイで優勝まで駆け抜けた。あっという間に、国民的天才バスケ少年になった。


 蘇我そががボールを持った瞬間に全てが終わる。必ずボールは相手ゴールに吸い込まれる。そんでもって、シュートを外した敵は、必ず蘇我そがにボールを奪われる。リバウンドを軒並み蘇我そががかっさらう。


 まさに『住む世界』が違う。バケモンや。


 あんまりにバケモンなんで、蘇我そがは、バスケ部の朝練にしか顔を出さんかった。あんまりにバケモンなんで、そんなワガママがまかり通った。


 そんでもって放課後は、僕とドローン飛ばすんに興じた。


 蘇我そがは、アホアホ言いながら、あっという間にドローンの操作が上達して行った。繰り返すけど、蘇我そがは『住む世界』が違う。

 僕は、あっという間に蘇我そがに勝てなくなった。


 せやけどドローンは、バスケとはちょっとだけ勝手が違う。ドローンは整備が必要や。でもって、もう一回繰り返すけど、蘇我そがは『住む世界』が違う。


 蘇我そがは、ちょっと信じられんくらい不器用やった。あいつがドローンを整備すると、に壊れる。ドローンが壊れる。ドローンから煙があがる。ドローンが爆発する。ドローンが木っ端微塵に吹っ飛ぶ。(ある意味器用や思う)


 でもって、しつこいほど繰り返すけど、蘇我そがは『住む世界』が違う。

 蘇我そがは、僕が整備したドローンで、あらゆる大会で優勝した。あらゆる世界大会で優勝した。


 さて、ここまで話して、ようやく最初の話に戻れる。

 蘇我そがと僕は、『や無い』って話や。

 

 蘇我そがやないんは、散々『住む世界』が違う言うとるからわかると思う。でも、なんで僕もや無いんかは、さっぱりわからん思うので、今から説明する。最初の1個目を説明する。


 僕が、株式会社の社長やからや。


 蘇我そがはドローンの大会でえぐいくらい優勝しまくるもんやから、えぐいくらいスポンサーが集まった。でもって、は個人契約より法人契約の方が楽やから、蘇我そがが会社を立ち上げた。僕の名義で会社を立ち上げた。


 おかげで僕は、若干15歳で、年商5億円の株式会社の社長や。

 ちなみにまだ、9月に、二回めの四半期決算報告が終わった段階での年商や。

 多分、少なく見積もって、初年度の売り上げは20億になる見込みや。(桃鉄みたいや)


 なんでそんなことになっとるんか疑問に思うてもらったところで2個目の説明や。蘇我そがと僕が『や無い』理由の、2個目の説明や。


 蘇我そがと僕がYouTuberだからや。


 蘇我そがの活動報告や、オモシロ動画のアップ、でもって最新ドローンの紹介や謎のタイアップやコラボ(これが収入としてデカイ)をするYouTuberだからや。

 でもってその登録者数が、300万人おる。なんでか300万人おる。なんといっても、国民的天才バスケ少年なんが強い。世界的天才ドローンレーサーなんが強い。


 なんで、国民的天才バスケ少年&世界的天才ドローンレーサーが、YouTuberなんぞせなアカンのかに考えたらさっぱりわからんけど、蘇我そがが興味津々やから付き合わされとる。撮影と編集に付き合わされとる。出演にまで付き合わされとる。


 さて、ここまで説明したところで、3個目の説明や。世の中そんなに上手いこと行くわけないない思うとる人の為に3個目の説明や。蘇我そがと僕が『や無い』理由の、3個目の説明や。


 蘇我そがと僕がめっちゃイケメンだからや。


 厳密には、イケメンを演じとるからや。YouTuberん時の、蘇我そがはめっちゃイケメンや。王子様や。イケメンの王子様に変身する。イケメンの王子様に変身して、世界中の女の子からキャーキャー言われとる。


 ちなみに僕も世界中の女の子からキャーキャー言われとる。蘇我そがのプロデュースでキャーキャー言われとる。


 蘇我そがが僕に与えたアドバイスは、ひとつだけだった。たったひとつだけだった。


「しゃべるな!」


の、たったひとつだけだった。(例外的に、たったひとつだけ許されたセリフが、あるにはある)


 おかげで僕は、YouTuberでは、クールなインテリイケメンキャラになっとる。

 に視力は2.0あるのに、伊達眼鏡かけたクールなインテリイケメンキャラになっとる。

 親友と生き別れて、絶望で自暴自棄になっとった時に、蘇我そがと運命的に出会ったインテリイケメンメカニックになっとる。


 押しに弱い、はち切れんばかりのおっぱいの、フリッフリッのメイド服のドジっ子少女に夢中な事だけは、絶対にしゃべるなと厳重に注意されとる。(二次元には興味ない設定にされとる)


 と、言うことは……だ。 


 僕は、あっちの地球に行ってもうた親友の蘇我が先に知ってもうた、女体の神秘も知りたい放題になっとる。

 僕に、ほんのちょっとだけ勇気があれば、いつでも女体にょたいが舞い込む状態になっとる。

 僕が、ほんのちょーーーっと勇気を振り絞るだけで、一線を超えられる状態になっとる……まだ、超えてないけど。


 別に怖いんやない。


 別に怖いんやない。うん。怖いんやない! そう。怖いんやない!!

 にほんのちょっとタイミングを図っとるだけや。

 別に怖いんやない!!! 断じて怖いんやない!!!!


 まあ、そんなことはどうでもええ! 女体にょたいの神秘はどうでもええ!(ホンネ言うと、どうでもある)


 とにかく! 話を一番最初に戻す。



 僕は今、蘇我そがのお誕生日プレゼントを抱えて、蘇我そがの家に向こうとる。最新のドローン一式を抱えて、蘇我そがの家に向こうとる。


 今日のYouTuberのネタは、【祝! 蘇我そがテンジ16歳! 16歳のドローン大人買い祭り】や・・・知らんけど。

 本当は、「大人買い」やのうて、スポンサーさんとの「大人のお付き合い」やけど。


 僕は、蘇我そがの家の前についたんで、家のインターホンを鳴らした。

 蘇我そがは秒で出てきた。秒で駆け出てきた。


 でもって、開口一番こういった。


「今日の企画変更! これの発表する!!」


 そう言って、蘇我そがはスマホを見せつけてきた。スマホの画面には、ニュースの記事が写っている。記事には、こう書かれてあった。


− 【アルテミス計画】月面パイロットを一般公募 −


「トルく↑! アタシとお前は月へ行く! 今日のYouTubeは、その発表会見だ!!」


「はぁああはぁああはぁああはぁああはぁああ!?」


 ・

 ・

 ・


 僕は、カメラをセットした。でもって生放送を開始する。


「どーも! 高校生YouTuber『TENJIKU』です!」


 僕は、素早くオープニングのジングルを流す。


 真ん中に蘇我そがが立って、その後ろで横向きになって僕はドローンやら、パソコンに没頭するフリをする。いつもの放送スタイルや。


 蘇我そがと、十流九とるくトルで、ふたり合わせて『TENJIKU』や。

 に考えたら、ネーミングの割合がちょっと不公平や思うけど、僕は一向に構わない。

 そもそも、僕は別に出演したくはない。YouTubeなんぞ、別に出演したくはない。『TENJI』と『KU』ぐらいの割合でちょーどええ。


 ジングルが終了した。タイミングよく王子キャラのイケメンがしゃべり始める。


「今日は、重大な発表がふたつあります!

 まずひとつめは、オレ、蘇我そがテンジの16歳の誕生日!

 たくさんのお祝いコメントありがとうぅーーー!!」


 僕は、素早く効果音を押す。


「そしてふたつめ、今日はこっちがメイン。

 俺たち『TENJIKU』、月に行っちゃいます!!」


 僕は、素早く効果音を押す。


「去年、計画通りに『最初の女性を、次の男性を』月面へ送りとどけた【アルテミス計画】。その次なる目的にオレたちは参戦する!

 オレたちは、月面パイロットになる!! 絶対になる!!」


 僕は、素早く効果音を押す。

 同時に、数々のコメントが届く。応援と誹謗中傷が半々と行ったところやな。


「なぁ、トルく↑! オレたちに、おあつらえ向きの挑戦だと思わないか!?」


(知らんがな)


 僕は、心の中でつぶやいた。でも、蘇我そがは『住む世界』が違う。蘇我そがは言ったことは必ず有言実行する。有言実行して、ついでにその斜め上をいく。


(しゃーないな……)


 僕は、YouTuberとして、唯一、蘇我そがから「言ってもいい」と許可が降りてるセリフを言った。正面のカメラに向かって、「スチャ!」とメガネに手をかけて、無表情でつぶやいた。


「……悪くないだろう」

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