第32話 退陣

ポツ、ポツ、ポツ。

ピチャリ。


「ッ……ん」


何やら冷たい感触を顔に感じてディアスは目を覚ます。


「ディアス様……」


横にはシルエが目を潤ませながら、ディアスを見ており、感極まったのかディアスに勢いよく抱きついた。


「うぉっ……シルエ?」


「治癒魔法をいくらかけても、起きる気配がないし、本当にもうダメかもと……。ディアス様っ、ディアス様!」


肩を振るわせながら、俺の胸に蹲って泣く姿をみて、俺は過去の自分との会話を思い返し、呟く。


「あぁ……、たしかにお前の言う通りだよ……。

こんなに身勝手なことはないよな……」


ディアスは深く深呼吸し直すと、シルエの肩に手を添えた。


「ごめんな、シルエ……。

その、心配かけた……。

……えっと、その、ルミエはどこに……」


「あー! ディアス君!」


ディアスがそうシルエに尋ねた時、馴染みのある声が空間にこだました。

奥からルミエが姿を表し、こちらに向かってきた。


「あんなに重症だったのに、まさか意識が戻るなんて……。ディアス君体は大丈夫?」


重症ーー

その言葉を聞き、ディアスは慌てて男に斬られたであろう胸元を触り、服を捲り上げた。


「傷が……」


「うそん!」


「ディアス様、これは一体」


見ると、たしかに致命傷と言っても良かった深い傷は見事に塞がっており、そこにはただただ痛々しい傷跡が残っていた。


「あんにゃろ……」


ディアスは広角を上げつつも、過去の俺に心底感謝した。

全てあいつの狙い通りだったようだ。


そんな事はつゆ知らず、シルエとルミエは驚きの表情を浮かべている。


そりゃあ、そうだろう。

先刻まで、重症で目を覚ます気配すらなかった奴が、目覚めたと思ったら傷口が塞がってるのだ。

これを驚くなと言う方が難しい。


「ディアス様……」


シルエに問いかけられそうになり、ディアスは肩を震わせる。

説明するにはかなり面倒だ。

そうなれば、前世のことまで話さないといけなくなる。

それは少し面倒だと思い、ディアスは少し慌てつつも口を開く。


「あー、不思議だなぁ!

多分、シルエの治癒魔法が思ったより効いたんじゃないですかね!

俺ならもう、この通り大丈夫ですよ!

本当にご心配をおかけしました!

あ、それよりここはどこですか?」


迫真の勢いに気押されたのか、シルエとルミエは少し不安そうに顔を見合わせたが、すぐにルミエが答えた。


「ここは洞窟の中だよ。

吹雪が凄くて、視界も悪かったからね……。不幸中の幸いだったよ。

こんなところに洞窟があって。

それと、例の男ならディアス君を斬りつけた後、すぐにどこかに行っちゃったよ」


「そうか……。

本当にすまなかった……。

俺がもっとしっかりしていれば、2人を」


「ディアス様。その、さっきほどから気になっていたのですが、『俺』って?」


これまでとは違う言葉使いに、シルエが思わず突っ込む。


「あっ!いや、その、あーー

僕がもっとしっかりしていれば、2人守れたのに!と思いまして。

つい熱が入ってしまって、俺なんて……ハハッ」


「なんかディアス君、少し変わった?」


ルミエにここぞとばかり、指摘される。

ディアスは冷や汗をかきながらも、何とかお茶を濁そうと必死に言葉使いを気にしながら話す。


「やだなぁー。ルミエさん!そんなことないですよー。ねっ!シルエさん!」


「さん?」


流石シルエだ。

俺の一語一句、聞き流すことなく真剣に聞き耳を立てている。

このままでは、さらに墓穴を掘りそうだ。

そんな時、ルミエがスパッと話題を変えた。


「まぁ、いいよ。

それよりこれからどうしようか。

一応道は分かるけど、どこにあの男が彷徨いてるかも分からない。

ここはひとまず、吹雪が止むのを待って山を降りた方がいいと思うけど……」


「ええ。確かに今の私たちでは、あの男は手に余ります。

ディアス様、如何しましょう」


ディアスは男のことを思い浮かべる。

結局、あの男はなんだったのか。

腕が立つことは明白だが、なぜ冒険者達を殺すような真似をしたのか。

過去の自分も、その男のことについては一切知らなかった。

ルミエの言う通り、ここは一旦身を引くのが妥当だろう。


ディアスは顔を上げ、2人に言った。


「ひとまず下山しましょう。

あの男のことは気がかりですが、僕たちが束になってかかったところで、万に一つも勝ち目はありません。

作戦を練り直しましょう」


「はい」


「オッケー」


俺たちは吹雪が止むの1時間ほど待ち、洞窟を出た。

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たとえ世界が立ち塞がっても、俺はあなたと約束を交わす  -転生したらもう一度!この世界で- センセン @daiya512

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