第26話 依頼を受けて


「もう、とりあえずこの話は一旦終わりにしましょ!」


 俺は未だ口論を続けているシルエとルミエに、もう一度言う。


「今はそんなことより、資金の調達が先ですよ!」


ルミエと言い合いをしていたシルエは、ハッと我に帰り俺に尋ねる。


「あ……そうですね……。

それでディアス様、何か良いクエストは見つかったんですか?」


「ええ、それらならいいクエストがッスプッ!??」


「ふふーん! そのことならディアス君専属担当、ルミエ・ルーフェルトにお任せあれー!」


俺が答えようとしたその時、ルミエが俺の言葉を強引に遮って颯爽と話し始めた。

てゆうか、いつの間に専属になったんだ?

まぁ、確かにそんな様な話をした覚えはあるが……。


「あ、あと姉ちゃん! ディアス君の魔力凄いんだよ! 紫の反応が出たの!」


「え?」


それを聞いたシルエは、勢いよく耳と尻尾を立てて交互に俺とルミエを見る。


「ディアス様それって本当ですか……」


「ええ、まぁ……てゆうか、それってそんな凄いんですか?」


「凄いも何も、上級冒険者を遥かに凌駕しているレベルですよ! 当然サロス様も紫です!」


シルエもルミエが紫色の反応を見た時と同様、割と興奮気味になる。

この世界の強さの基準がまだハッキリと分かっていないが、あの魔法具がこの世界で言う強さの指針となっている様だ。

そして、どうやら俺はメチャクチャ強いということらしい。

だがサロスは愚か、狂魔族のリリアにも歯が立たなかったが……。

紫になったから凄い! と言われても、あのような経験があるので少し自分の力に疑心暗鬼ではある。


「ね! 凄いよね!

それを踏まえた上で、ディアス君が選んだクエストがこれ」


そんな俺の不安要素をぶち破るかの様に、ルミエが先程俺が選んだ依頼紙をシルエに向けた。


【上級者向け、アークリザード討伐

 報酬 金貨20枚】


「アークリザードですか……」


シルエが依頼紙を覗き込む。


「なかなか手強い相手ですね」


「やっぱ強いんですか?」


「ええ、A級魔獣に認定されています。

でも、これだけ報酬があれば当分は生活が楽になりますね」


A級魔獣か。

シルエの反応を見るに、この世界では上の方のランクとみていいだろう。


「大丈夫だよ、お姉ちゃん。

お姉ちゃんだって魔力は赤だし。

紫、赤、赤っていればアークリザードだって討伐できるよ!」


「ん? 赤、赤って……シルエ他に誰か誘うんですか?」


「いいえ、ディアス様と私で依頼を受けるつもりですが……?」


俺とシルエは、居ないはずの3人目の魔力の色を言ったルミエを見て首を傾げる。


「あーもう、なんでわかんないかな!

お姉ちゃんもディアス君も鈍感すぎでしょ! 私も一緒に行くって言ってんの!」


「えっ……」


一瞬時が止まった気がした。

が、次の瞬間俺とシルエは驚きのあまり大声を上げ、周囲にいた鳥たちは青空へと羽ばたいていった。


「ちょっと、ルミエどうゆうつもりよ!

仕事とかあるでしょ?」


「えーだってなんか面白そうじゃない?

それにせっかく再会したんだし、たまには姉妹揃って共同作業してみたいじゃん。

いいでしょ? ディアス君!」


「ええ、別に俺は構いませんけど……」


行動力があるのか、何も考えていないのか……。

いや、むしろこちらにとっては願ったり叶ったりだ。戦力が多いに越したことはないし、

なんせ初めての依頼だ。失敗したくはない。


「よし! 決まりね!

場所は仙谷の滝。この町から1時間ほど北へ向かった所だよ! そうと決まったら早速準備して向かおう!」


ルミエはそう言うと、上機嫌にギルドへと戻っていく。


「ほら、お姉ちゃんーディアス君!」


「はぁー、はいはい」


シルエは頭に手を置きながらも、妹の声に答える。


「良かったじゃないですかシルエ。

せっかくの再会なわけですし、楽しみましょうよ」


「は、はい」


俺はシルエに言うと、ルミエの後を追った。


*******************


ギルドに戻った俺たちは、指定された契約書にサインをする。


「はい。確かに承りました。

では、のご検討をお祈りしています」


そう言ったのは、カウンターでギルドスタッフモードになったルミエだ。

先程のテンションとは打って変わって、元の落ち着きある雰囲気に戻っている。

この切り替え様はプロフェッショナルだ。


「じゃ、今から2時間後くらいに中央広場で集合ね」


ルミエはそう俺とシルエの耳元でボソッと囁くと、山積みの書類を抱えて奥の部屋へと消えていった。


「ディアス様、本当に良かったんですか?

ルミエは確かに戦力にはなりますが、何ぶんあの様な性格なので……」


「え、何か問題でもあるんですか?

むしろ良かったですよ! 俺とシルエだけじゃ、シルエ1人に負担を掛けそうで心配でしたから」


「なら良いんですが……」


「とりあえず、冒険の準備をしましょう!

あ、そうだグリムさんのところに寄っていきましょうか! 回復ポーションとかも売ってましたよね」


「そうですね、そうしましょう」


そうして、俺とシルエは昨日行ったグリムの店へ向かった。

*******************


「おぅ! 昨日ぶりだなあ!

ディアス坊っちゃん! シルエ嬢ちゃん」


「どうもです」


相変わらずのテンションでグリムに迎えられ、俺とシルエは依頼を受けることを伝える。


「なるほどね。アークリザードか。

さすが坊っちゃん達だな!」


「ええ、おそらく楽な依頼にはならないと思うので、何個かポーションを売って欲しいんですが……」


「お安い御用よ!」


グリムは、レジの奥にある暖簾を潜って中からガチャガチャと音を立てて小さな瓶に入ったポーションを数個持ってきた。


「こいつが、1番効きがいい。

だが、あんまり使い過ぎんなよ?」


「はい! シルエがそういった経験は豊富ですから」


「そうか。あ、あとこれも持っていきな」


グリムからゴルフボール程のサイズのある、赤い球を3個渡される。


「これは?」


「呪力の玉ってやつだ。これを割ると自分の魔力を一時的に大幅アップさせることができる。だが気をつけろ、使った後は反動で一気に体が怠くなるからな。ここぞって時に使えよ!」


「ありがとうございます! グリムさん!」


「おう! あー、あとさん付けはやめてくれや。グリムでいいぜ!」


グリムは耳をほじくりながら俺に罰の悪そうに言う。


「あ、分かりましたグリム!」


「敬語は直んねえのな……」


ん? 敬語も辞めた方がいいのだろうか?

だが、グリムはなんやかんやで俺の大先輩だ。流石に礼儀として必要だろう。


「グリムありがとうございます」


「おう、シルエ嬢ちゃんも気をつけてな」


「シルエでいいですよ」


「あ、おう」


一通りお互いの呼び方についてのやりとりをした後、俺とシルエはグリムの店を出て宿に戻り服装を整えた。


なんやかんやで2時間が経過したのち、

俺とシルエはルミエが指定した中央広場で彼女ルミエを待つ。

しばらくしてルミエが


「ごめんー少し遅れたー」


とギルドの時のスーツ姿ではなく、ちゃっかり冒険者風の身なりをしてやってきた。


その姿は、シルエの白い衣装とは対照的な真っ黒な衣で覆われていて、どこぞやの暗殺者の様な雰囲気を漂わせる。

口元にはマスクの様なものがあるが、今はそれを付けてはいない。

元々冒険者だったからか、スーツ姿より随分と様になっている。


「ルミエ10分ほど遅刻ですよ」


「へへ、ごめんー。ギルド長説得するのに時間かかっちゃって……」


「それで、ルミエはギルドの仕事は大丈夫だったんですか?」


「あ、ディアス君! うんばっちりだよ!」


何がバッチリなのか分からないが、とりあえずルミエと合流することができた。


「よし、じゃあ早速馬車で向かうよ!」


そうルミエが指揮を取り、俺たちは馬車のある馬屋へと向かう。


いったいどんな冒険が待ち受けているのだろうか。

俺は初めての依頼に心を躍らせながらも、気持ちを引き締めて、仙谷の滝のある方角を見つめた。


さあ、ここからが俺の冒険の第一歩だ!


そう心に強く思い、俺達は馬車に引かれてウィルの町を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る