第12話 真実

  俺はフィアに近づく。


「フィアさん……、本当にあなたが……」


フィアは杖を構えながらも、舌打ちをする。


「はぁ、上手くいっていると思っていたのですが。私が裏切り者だとわかっていたんですね。ディアス」


呼び捨てだ。フィアはもう俺のことは様づけにしなくなった。


「ええ……、シルエの話を聞いていくうちに色々と矛盾に気づいたので。

最初はシルエのことを疑いかけましたけど。

けどなぜあなたが……なんでなんですか!」


俺は叫ぶ。


「シルエが変な気を起こさなければ、あと2日は生かしてやろうと思っていたんですけどね。少しのんびりしすぎましたか」


いや、2日だけかよ。

そう突っ込みたくなったが、俺はそのままフィアの話を聞く。


「ディアス。もう私の正体には気づいているのでしょう?」


「はい……、でも、とゆうことはその体は……?」


「あぁ、これね。フフ!良い器だったわ。

どうやらシルエの友人だったらしいけどね」


それを聞いた瞬間、俺は身が震えるのを感じた。


「やはり、あなたが狂魔族だったんですね……。フィア……フィアはもうとっくに……」


シルエが後ろから、か弱い声で呟く。


「フフ、いいわ。冥土の土産に教えてあげる。

この器との出会いを。」


まさか、本当に殺して手に入れたってことなのか。


「シルエ、あなたと一緒に冒険していた時よ。この子と2人でダンジョンに潜ったでしょう?」


それを聞いたシルエは一気に青ざめる。


「そんな……私と一緒の時に……?

え、だってフィアは…… ダンジョンって…ウソ……ウソッ……あの時……?」


「シルエ!」


ただでさえ出血で真っ青なシルエの顔色が、ますます真っ青になっていってるのが分かる。


-----ダンジョン


 この世界にいくつか存在する迷宮だ。

まだ捜索されていないものも多く、実力試しや中にある財宝目当てに冒険者が挑戦するのが後を立たないと言う。


だが、迂闊に手を出すのは危険で、過信した冒険者がこれまで何人も行方不明になっており、世間では「死を招く迷宮」と呼ばれている。


「フフ、あなた達二人は自らの力を過信しダンジョンに潜った。

そのダンジョンに私は眠っていたのよ。

このフィアっていう子は、何故か一人で私が眠っている部屋までやってきた。

そして、あろうことか私の封印を解いてしまったのよ。

フフ、バカよねぇ! あの子の絶望と恐怖に満ちた顔、あなたにも見せてあげたかったわシルエ。

まぁ、苦しむ間も無くあの子は私に胸を貫かれて死んだんだけどね。」


「シルエ、それじゃあ……」


俺はシルエに思わず呼びかける。


「ええ……ディアス様。

あの時……私はフィアと二人でダンジョンに潜りました。

そして、ある程度ダンジョンの中を捜索し終えて休憩しているとき、フィアがすぐ近くにあった扉の中を見てくると言ってその中に入っていったんです……。

しばらくして何事もなかった様に出てきたんですけど、あの時すでに私の知るフィアはこの世からいなくなっていたんですね……。

その後です。ダンジョンのトラップに引っ掛かった私達を、同じく探索していたサロス様が助けて下さったんです……」


シルエは目に涙を溜めながら、絞り出す様に俺に話してくれた。


そうか、その時にサロスと出会ったのか。

でも、そんなことってあるのかよ!

そんな、そんな残酷なことって……。

俺はフィア、フィアの姿をしている彼女》に向き直る。


フィアを名乗るその彼女は尚も続ける。


「フフフ、滑稽でしたよ。

何も知らずに私に対して笑顔で接するあなたは。いっそその場で殺してしまっても良かったのですが、何分退屈していたので楽しませてもらいました。せっかくわざわざトラップを発動させたのに、まさかサロスが助けに来るとは思いもしませんでしたけど。

まぁそのおかげで思わぬ収穫が入ったのも事実……」


「ッ……!」


俺はそれを聞くないなや、フィアを名乗る彼女に向かっていった。


フィアは杖を俺に向け詠唱を唱える。


「風のマナよ、行手を阻む障害を切り刻め。風の刃アネモス・クスフィス!」


次の瞬間、風の刃が俺を襲う。

おそらく、さっきシルエの腕を吹き飛ばした魔法だろう。


「くっ……!」


なんとか辛うじて躱したものの右腕をカスめた刃は、そのまま後ろの洞窟の壁に深い跡を残した。おそらく上級魔術以上のレベルはあり、威力は充分だ。


「へぇ、よく避けれましたね。

ただ魔力を吸ってデカくなったわけではないんですね。因みにこの魔法はこの子が得意だったんですよ。フフ」




「良い加減、その演技やめたらどうですか……?

癪に触ります。本性を表してください狂魔族!」


俺は怒りのあまり、この世界で今まで作ってきたキャラ設定も忘れて彼女に言い放った。


「あら怖い。

まぁ確かに、の言う通りですね。知られてしまった以上、もうこのフィアという彼女を演じる必要は無いのですが。ただ、何分居心地がいいのでもうしばらくこのままでっ……」


次の瞬間、フィアの頬から血が吹きでた。


「っ……?」


風の魔法だ。

もちろん彼女本人が自滅したわけでも、俺がやったわけでもない。


俺は後ろを見る。

シルエが壁に体をもたれながら魔法を放ったのだ。


「もう、やめてください……フィアを返して! あなたは……絶対に許せない!!」


悲痛の叫びだった。目から涙を流しながらも、シルエはフィアを名乗るその狂魔族に向けて、再び魔法を放とうとする。


だが、まだ完璧には治癒できていなかったのか、重傷を負っている彼女は再びフラつき地面に倒れかける。


「シルエッ!!」


俺はシルエを慌てて支えに行くも、フィアの姿をした狂魔族は大声で笑い出す。


「アッハハハハ! そんなにショックだった?こんなに長い間一緒にいて、気づかないあなたもあなたよね。

まぁ、私たちを拾ったサロスやヘラも気付くことはなかったわけだし、案外龍族も大したことなかったようね」


俺は怒りを剥き出しにする。


初めてだった。ここまで誰かを許せなかったのは。いや、もっと言うのなら人に殺意を向けたのは。

あの生前お世話になった虐待女でお腹いっぱいだったが、今回はそんなレベルではない。


「へぇ、そんな表情もできるんですね。

まぁ、いいでしょう。また別の器を探せばいいことです。」


フィアの姿をした狂魔族はそう言うと、自らの顔に爪を立てて引き裂いた。

ブシュッーーーー!

肉が裂け、ブチブチと血管が切れる。

非常に不愉快な音を洞窟に響かせて、彼女の体からは血が勢いよく飛び出る。そして抜け殻となったフィアの体の隙間からは、紫色の肌がチラホラと顔を覗かせている。

自らの皮を剥いでいる光景は、先程のシルエの怪我とは段違いなグロさと嫌悪感を抱いたが、俺は怒りでそれを押し殺し、じっと化けの皮を剥いでいる彼女を見つめていた。


そして、真の姿を表した彼女はフィアの抜け殻を乱暴に地面へ捨てて、禍々しく邪悪な笑みを浮かべた。


「初めましてか……。

ディアス、シルエ。

私は狂魔族リリア。

以後、お見知りおきを」


その魔力は今までに感じたことのないほど、邪悪で、そしてとても血生臭く感じた。

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