第11話 解放
俺はゆっくりと魔導書に書かれている文字を唱える。
【我が生命をこの結晶に委ねる。
我が精神、我が肉体をここに捧げ、己なる魔力を発現させよ! 今ここに新たなる力の可能性を!】
その言葉に反応するかのように、周りの魔石がうっすらと光を放つ。
「させませんよっ!」
フィアが迫る。
「ディアス様っ!」
シルエがフィアに向けて、火炎魔法を発動させて火の玉を放ち、足止めする。
「シルエっ、あなた!」
フィアは軽快にフィアの魔法を避け、少しずつだが俺に近づいてくる。
尚も俺は詠唱を続ける。
【いかなる力も、己の精神を持って制し
自らの血肉とかせ。
全てを受け入れ、全てを壊せ。
新たなる力の源を、ここに構築させよ。
我が器に流れるこの血を燃やせ。
内なる潜在に潜む、全ての流れを解放させよ!】
一通り詠唱を言い終える。
洞窟のあらゆる魔石が光り輝く。
「チッ! させてなるものかっ!」
フィアがシルエの攻撃を掻い潜り、すぐそばまで迫る。
これが最後の一文だ。
深く息を吸い、力強く口にする。
【今、ここに新たな魔力を解き放て!
「くっ!」
周りの魔石の光が最大に輝くと同時に、俺の体内からなにか熱いものが込み上げてくる。それと同時に、俺の全身から赤いオーラーのようなものが現れ、俺を包む。
その余波でフィアは大きく後ろに吹き飛び、
俺の体は洞窟全体の魔石から放たれた眩い光に包まれて、光の球体となった。
「ディアス様……」
シルエが呟く。
俺は光の中で、体の内側のどことも言えない部分が暖かく包まれているのを感じた。
そして次の瞬間、ドグッ!っと俺の中で何かが弾けるような感覚を覚えた。
だんだんと光の渦から解放された俺は、ゆっくりと目を開く。
「なっ!?その姿は……」
フィアが俺の方をみて言葉を発する。
俺は自分の手をみる。
ん? 少し大きくなったか?
それになんだか、目線がさっきより高い気がする。浮いているのか?
確かにそれもあったが、光に解放され足が地面についても対して目線は変わっていなかった。
シルエに目をやると、出血している右腕を押さえながらもこちらをみて唖然としている。
ファアも同じ様な反応だ。
俺は自分の体に目をやり、仰天した。
幼少期の弾力あるモチっとした筋肉とは違い、程よく引き締まった筋肉。
ゴルフボールぐらいのサイズを持ったらいっぱいいっぱいだった手の平は、すこし大きくなってゴツく見える。
この体はまさか……。
そう、思った通り俺の体は少年から青年の境目といった外見まで成長していた。
おそらく、生前生きていた16歳頃の体だろうか。
着ていた服も、不思議と破けていたりすることなく、成長した分しっかりと体にフィットしている。
これがシルエの言っていた、何かしらの影響ということか?
思えば光に包まれた時、体の中で何かが弾けて、自分の認識する感覚や視野が広がった様な気がする。
俺の生前の魂に魔力が触れたことで、生前の世界の肉体が何らかの形で、こちらの肉体に影響したということだろうか。
それなら、俺の魔力が特殊と言われるのも納得する。
それ以外は体に特に変化はなく、ここら辺で何か体に嫌な反動でも出るかと思ったが、妙に心地が良い。
禁忌に触れたわけだし、魔石から何かしら反応があるかとも思ったがそれもない。
特殊って禁忌にも影響でないのか?
それになんだか体もさっきよりずっと軽い。
体重は重くなっているはずなのにだ。
髪色はピンク色から、少しエンジがかった色に変色している。
後ろの襟足が背中の中心辺りまで伸びており、結んだ方がいいだろうとも思ったが、あいにく髪留めはここにはない。
俺はこのわけの分からない成長をとりあえず受け入れ、そしてフィアの方をみて確信した。
これなら勝てると。
なんの根拠があるのか自分でもわからないが、フィアを前にしても、負ける気はしなかった。
「くっ、たかが少し成長しただけでしょっ!」
フィアはどこから出してきたのか、ダガーナイフの様な物を手にこちらへと迫ってくる。
速い!
シルエと同じかあるいはそれ以上だ。
俺が瞬きをするやいなや、目の前にフィアが現れナイフを俺に振り下ろす。
俺はそれをかわし、後ろに回り込んでフィアのナイフを持っている右腕を背中側に組み、手首に手刀をうってナイフを落とさせると、そのままフィアを投げ飛ばした。
体術は体が大きくなった分やり易くなり、力もそれなりに上がった様だ。
だが、フィアは空中で体制を整えて綺麗に着地する。さすが元冒険者だ。
ある程度距離をとった俺は、すぐさまシルエの側まで移動し、ゆっくりとシルエの体を起こす。
「本当にディアス様ですか?」
若干まだ俺の方が身長は低いだろうか、それでもほぼ同じ目線になっている。シルエに少し不安そうに聞かれた俺は、しっかりとシルエの目を見つめて
「はい!シルエが知っている通りの、からかい甲斐があって騙されやすい正真正銘のディアスですよ!」
と笑顔で答えた。声も以前の様な可愛い声ではなくなり、若い青年の様な声になっている。
「チッ、大人しく死んでしまえば良いものを」
ギリっと歯ぎしりをしながら、フィアはこちらに鋭い眼差しを向けている。
シルエの腕の出血は止まっておらず、なかなか辛そうだ。俺はフィアに警戒しつつも、ひとまずシルエを洞窟の壁際まで連れて行き、壁に持たれかけさせた。
「シルエ、大丈夫ですか?」
俺はシルエの顔を覗き込む。だいぶ青ざめてきている。ドクドクと大量の血が傷口から流れており、これ以上出血すれば命に関わる。
だが、俺はもう血を見ても取り乱さなかった。
魔力を得たことによる自信なのか、あるいは免疫がついたのか。
どちらにせよ、シルエにはこれ以上無理はさせられない。だが、それにしても出血がひどい。なんとかしなければ。
フィアに対する警戒を解かずに、シルエを気にかける。
だが、どうすればいい?
ヘラがいれば治癒魔術か薬品でどうにかなりそうだが。しかし、ヘラの元まで行かせてくれる隙はない。そして、あいにく応急処置できるようなものも何一つ持ち合わせていない。
また、俺の心臓が高鳴る。
これは別の恐怖だ。
俺は助かるかもしれない。
だがこのままではシルエの命が危ない。
シルエを失うのだけは、絶対に嫌だった。
「ありがとうございます。ディアス様。
けれど、大丈夫です。とりあえず治癒魔術をかけてみます」
なるほど、シルエも使えるのか!
さすがシルエだ。
そう思いながらも、
「今は安静にしていてください。
フィアは僕がなんとかします。」
俺は呼吸を再び整えてシルエに力強く言うと、シルエは俺の顔を見てニコリと微笑んだ。俺は再びフィアと向き合う。
「少し話をしませんか。フィアさん」
フィアは杖を持ち、今にも魔法を放とうと身構えている。どうやらあの杖は自由自在に手元に実体化させたり、消失させたりできるようだ。
もう恐れない。
今はシルエを守ってなんとかこの状況を脱することだけを考えるんだ。
俺はフィアにゆっくりと歩み寄った。
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