第漆話 その男、冒険者 そして私は共にいく

「そうだったのか。 それは怒鳴ってしまいすまない。 動けなかったなら逃げ出せるわけないな。」

「君の言うとおり子供の逃げ足では、すぐに追いつかれてしまうだろうな。冷静に考えればその通りだ。すまない。」

「俺は、ヒューイットという。冒険者なんだが、ところで、君は何で、黄泉の森に一人でいるんだ?まだ小さいだろう親はどうした?」


 ヒューイットと名乗った男は冒険者らしい。

 それは黄泉の森なんて呼ばれている森に子供が一人でいれば、気になるだろう。

 聞かれたのに、答えないと変に詮索されるのも嫌だし、助けてもらったし、初対面でいきなり怒鳴られたけど、それは魔獣に殺される可能性があった様に見えたのだから心配してくれたからだろう。

 理由聞いて、きちんと謝ってくれたし、いい人だろうと思ったので、全てを話すのは、さすがに会ったばかりなので、躊躇したし、信じてもらえないと思ったので、嘘も交えて話すことにした。


「私は、結城葵って言います。」


「ユキワオイ?変わった名前だな。」


 ヒューイットさんは正しく聞き取れなかったみたいで、変わった名前だと言った。

 そして、私は、名前もそうだが、見た目も銀髪にグレーの瞳、目鼻立ちもハッキリしていて、地球の外国人みたいだ。めっちゃイケメンだぁ。いけない、いけない余計な事考えているばあいじゃない。

 反省した私は、日本と同じように名乗ってもわからない、伝わらないのではないかと気づいた。まあ、今の私は、姓も名もちらも名前みたいなんだけどね。また別の事を考えてしまった。とりあえず言い直してみることにした。


「アオイ・ユウキです。アオイって呼んでくれればいいです。」


「アオイというのか。名のあとにユーキと続くということは、家名持ちか!ユーキという家名は聞いた事がないが、君は貴族なのかい?」


 貴族かと聞かれた。そうか!この世界は、姓があるのは王族や貴族だけなんだ。小説であるテンプルじゃないか。異世界に来て、名乗って貴族と間違えられるっていうの。

 それにしても、家名を色々知っているって事は、ヒューイットさんはもしかして、貴族なのかな?でも貴族が冒険者で黄泉の森にいるって、変だよな?

 上に兄弟がいて、家督継げないから冒険者になったとかなのかな?小説とかでもあったりするしなどと考えていたが、とりあえず聞かれた事に嘘を交えて答え、ついでに気になることを聞いてみた。


「貴族ではないです。年齢は四歳です。この森になぜいたのかは、わからないです。気がついたらこの森にい感じなので……」

「あと気になったのですが、ヒューイットさんは、家名を色々知っているみたいですが、もしかして貴族何ですか?ヒューイット様って呼ばなきゃいけないですよね?」


 私の年齢となぜ森にいたかを聞いて、暗い顔をされ、考える素振りをしたあと答えてくれた。


「俺は、貴族じゃないから、ヒューイットでいいよ。」

「四歳の子供が、気がついたらこの森にね。 親に捨てられたって事なのかな?」


 ヒューイットさんは、貴族じゃないからそのままの呼び方でいいと言ったあと、私が聞き取れないくらい小さな声で、考え事をしながら独り言のようにぶつぶつ呟いていた。

 そして、こう言われた。


「小さい子に、聞くのもどうかと思うが、君は親にこの森に置いていかれたという事なのかい?」


「違います。私には両親はもういません。」

「一人で歩いていたら、後ろから誰かに口をふさがれ、意識を失い、目を覚ましたら、この森にいました。

 そして、森を出ようと歩いていたけど、疲れてきたので、あそこで休憩していたら、襲われたって感じです。」


 これは嘘ではない。私はこの世界に転移してきたので、転移前の両親は異世界の日本にいるので、この世界には、私の両親はいない。

 そして、何故か、転生前の記憶はあるのだが、転生前の生前の両親に関しては全く思いだせないのだ。私が死ぬ前に既に亡くなっていたのか、まだ生きているのかもわからない。

 それは転生直後もそうだが、通り魔に刺され死に、ダメ神のいた神の世界で目を覚ました時には既に生前の両親の記憶が無かったのだ。

 そして、本当の事を話すつもりのない私は震えて、怖かったという演技をしながら嘘の説明をした。


 ヒューイットさんは、辛そうな顔をしていた。


「そうなのか。それは申し訳ない。 辛いことを聞いてしまったね。」

 そういうと、ヒューイットさんは、またブツブツ独り言を言い始めた。話を聞いて、色々、どういうことかを自分のなかで整理している感じだ。

 それに、本当の事が言えないから、嘘の説明をした事もそうだが、そんな顔をさせてしまい、こちらこそ、申し訳ないと思った。


「親はいない…… 誰かに拐われて、何か事情があって、この子を森に置いていったということのか?それで目が覚め、森から出ようと歩いて、休んでいたら、レッドグリズリーに襲われたと…… 他にも気になる事もあるし、とりあえず聞いてみるか。」


 整理がついたのか。独り言をやめ、また私に聞いてきた。


「森を出て、何処に向かうつもりだったんだ?」

「実力のない大人でも危険な森なのに、あのレッドグリズリーの時みたいに、また襲われて、今度は確実に死んでしまうだろうし、森を出ても盗賊や人拐いとか、子供が一人だと、色々と危険だから、行き先があるなら俺が連れってやる。」


 熊っぽい魔獣?はレッドグリズリーというみたいだ。

 初めて知ったが、小さいとはいえ、子供がレッドグリズリーの事を知っていたとしても、異世界なら変ではないだろう。そういえば、レッドグリズリーの死体がなくなっているけど、どこいったんだ?ヒューイットさんも普通にしているし、ヒューイットさんも収納持ちで、私が見てないうちにレッドグリズリーの死体を収納したんだろう。なのでそこには触れず、聞かれた事に答えた。


「ええっと、私、シュペルブ王国の王都で、暮らしていたし、両親が残してくれた家もあるから、ターブルロンドに戻ろう思ってます。ここからどのくらいからるのかわからないけど……」


「ターブルロンドに!!」


 私の行き先を聞いて、ヒューイットさんは驚いていた。

 どのくらいかかるのかわからないと言ったが、私はヴィーナに教えてもらって知っている。気がついたら森にいたと説明していたので、知らないという感じにしたのだ。

 まあ、馬車で一ヶ月もかかる所に子供が一人で向かうつもりでいたと聞いたのだ、驚くのは当然である。

 それから、ダメ神が用意してくれているらしい家を両親が残してくれたものと言っておいた。

「ターブルロンドか。ここからだと馬車で一ヶ月かかるぞ。さっきも言ったが俺が連れていってやる。そんな遠くに行くつもりだったのなら尚更だ。それに俺もターブルロンドで暮らしていて、これから帰るところだったんだ。丁度いいから一緒に帰ろう。」


 私には、チートスキルなどがあるし、襲われたとしても死ぬことはないし、怪我すらしない。

 しかし、チートスキルとかを隠して、一人で行くと言っても、納得してもらえるわけがないし、初対面の時点でいい人そうだなあと感じていたが、助けてくれたり、心配して怒ってくれたり、自ら王都まで連れてってくれると言ってくれたりとこれまで短い時間だが接してきて、優しくいい人だと思ったのだ。申し訳ないと思わなくもないが、せっかく一緒にと言ってくれたのだから、お言葉に甘えて、お願いすることにした。


「はい。そんなに遠いとは思っていませんでした。よろしくお願いします。」


 こうして、私はヒューイットさんと一緒にターブルロンドに行くことになった。

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